東芝、有価証券報告書を提出、決算発表

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東芝は8月10日、PwC あらた監査法人から2017年3月期の有価証券報告書について監査法人から「限定付き適正」の監査意見を受領し、有価証券報告書を関東財務局に提出した。


上場継続の3条件の1つを辛うじて達成した。

債務超過の解消

有価証券報告書での適正意見

特定注意市場銘柄指定解除 東証が今秋をメドに判断

2017/8/2  東芝、東証2部降格   

PwCあらた監査法人は昨年度の決算はおおむね妥当だとする「限定付適正意見」を出した。

東芝の決算をめぐっては、監査法人が、アメリカの原子力事業による巨額の損失をもっと早く認識できなかったか、過去の決算も調べる必要があるとして承認せず、発表が延期されてきた。

東芝は2016年12月に、2015年末の
Stone & Webster 買収で数十億ドル規模の「のれん」計上の可能性が生じたことを明らかにしたが、PwCあらたとWestinghouse を監査する米国のPwCは、巨額損失が突如分かったのは不自然だとし、2016年3月以前に損失を認識できたのではとみており、2016年3月期決算(前任の新日本監査法人が適正意見を出している)でその一部を計上しておくべきだと主張している。

今回、PwCあらたは、この主張は取り下げない一方で、現在の財務状況などは適正 であると認め、決算の内容はおおむね妥当だとする「限定付適正意見」を出した。

PwCあらたは2016年4-12月期決算について、「意見不表明」としており、今回もその案があったが、金融庁や公認会計士協会などが、「責任放棄にあたる」とけん制したと報じられている。

決算そのものについて、「不適正」や「意見不表明」となった場合、東証が審査中の解除判断に影響を及ぼし、上場が廃止されかねないとみられていた。


但し、PwCあらたは、東芝社内のチェック体制を示す「内部統制」については、巨額の損失を見過ごすなど問題があるとして、「不適正」とする意見 をつけた。

これについて、東証の審査に影響を与えるのではとの懸念があるが、東芝では、「内部統制に不備があったのはWestinghouseの会計で、損失の計上時期についての一点のみであり、Westinghouseが連結からはずれたことで不備が指摘されたところもなくなった。内部体制を強化しており、不備はないと考えている」としている。

今回の結果を受け、東証は特注銘柄から外すかの判断を出す見通し。


問題は
の債務超過の解消で、東芝メモリの2018年3月末までの売却完了の目途は立っていない。
売却が決まっても、当初予定からどんどん遅れているため、3月末までに各国の独禁法当局の承認を全て得るのは難しくなりつつある。

増資については、特設注意市場銘柄のため公募増資は事実上困難で、第三者割当増資の引き受け手の確保が必要となる。

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確定した2017年3月期及び2017/4-6月期決算と、現時点での2018年3月期決算予想の概要は次の通り。(億円)

  16/3 17/3 増減 6/23発表
見通し
増減 17/1Q 18/3
売上高 51,548 48,708 -2,840 48,708 0 11,436 49,700
営業損益 -4,830 2,708 7,538 2,708 0 967 4,300
(うち東芝メモリ) (1,100) (1,866) (766) (903) (3,712)
(東芝メモリ以外) (-5,930) (842) (6,772) (64) (588)
非継続事業純損益 -1,298 -12,801 -14,099 -13,065 264
純損益 -4,600 -9,657 -5,057 -9,952 295 503 2,300
株主資本 3,289 -5,529 -8,818 -5,816 287 -5,043 -4,100


東芝メモリ分はストレージ&デバイスソリューションのうち、HDD、デバイスほかを除いた 「メモリ」をとった。
米国原子力事業は、2016/3は継続事業で営業損益に含まれる。2017/3は非継続事業。

東芝が6月23日に監査意見無しで「見通し」として発表したものとほぼ同じで、米電力会社との合意で親会社保証額がほぼ確定した分が差の大部分である。  

親会社保証引当金
確定額 Vogtle 3、4号機 3,680百万ドル 4,129億円
V.C. Summer 2、3号機 2,168百万ドル 2,432億円
その他 316億円
合計 6,877億円
引当額 (2017/6/23 業績見通し) 7,162億円
引当金 減額 益 285億円

2017年3月末時点での株主資本は5,529億円の赤字となった。

2018年3月末までに赤字を解消できなければ、上場廃止となる。

上表の2018年3月期予想(4,100億円の赤)には、東芝メモリの売却益は含んでいない。2兆円とされる売却が実現すれば、赤字は解消する。

なお、2018年3月期予想の営業損益の4,300億円のうち、東芝メモリ以外は588億円しかなく、東芝メモリ売却で上場廃止は免れるが、その後の経営は苦しい。

さらに、追加の損失発生のリスクがある。

東芝はFreeport LNGとの間で年間220万トンのLNGの購入契約を結んでおり、これはTake or Pay の契約であり、市況が下がっても契約価格での引取り、または固定費の支払いが必要である。

計画 立地 生産開始 日本企業 契約数量
Freeport LNG テキサス州 2018 大阪ガス 
中部電力
220万トン
220万トン
2019 東芝    220万トン

東芝では、「LNGの供給事業がリスクだ。全く売れない場合に1兆円を見積もっているが、販売先で決まっているところはある。契約に向けて営業活動をすすめている」と述べている。

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Westinghouseに関しては電力会社に対する親会社保証問題は完了したが、これで負担問題が全て無くなった訳ではない。

それぞれの電力会社は総括原価方式により追加コストを電気料金に転嫁しており、消費者が東芝を訴える恐れもある。

Southern電力は米政府の債務保証で銀行から融資を受けており、これが影響する恐れもある。

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東芝は2016年3月の東芝メディカルシステムズのキヤノンへの売却の場合は、独禁法審査を後回しにして、先に売却し、売却益を計上するという奇手を使った。

2016/3/18 キヤノン、東芝メディカル買収を発表、独禁法対策で奇手

これに対し、欧州委員会はキヤノンに対し、承認前に買収をした疑いで異議告知書を送付した。今後の検討で問題だと認定した場合、罰金支払を命じるが、罰金は世界全体でのキヤノンの年間売上高の最大10% (3,400億円)にもなる。

2017/7/7 EU、キヤノンの東芝メディカル買収で異議告知書

どこも取り上げていないが、キヤノンは承認をえてから売却すれば問題ないのに、わざわざこんなリスクのある取引をしたのは、明らかに東芝の要請によるものであり、リスク回避の条項を契約に織り込んでいると思われる。


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