米国の金融緩和と労働市場

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米連邦準備理事会(FRB)は2016年12月に1年ぶりに利上げを行い、2017年に入り3月と6月に追加利上げを行った。年内さらに1回を見込んだ。

2017/6/15 米、3カ月ぶり利上げ 


FRBのイエレン議長は7月12日、米下院金融サービス委員会で「経済が想定通りなら、比較的早く保有資産の縮小を開始する」と表明した。「今後数カ月は物価動向を見極める」とも述べ、保有資産の縮小を急ぐ一方で、追加利上げは慎重に判断する考えをにじませた。市場では9月の会合で資産縮小を決めるとの見方が浮かんでいる。

イエレン議長は8月25日、米国ワイオミング州ジャクソンホールで毎年開催される経済政策シンポジウム、ジャクソンホール会議で講演した。
講演では、トランプ政権が掲げる大幅な金融規制緩和をけん制した。FRBの保有資産の縮小開始や追加利上げの時期には言及しなかった。

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2016年12月の利上げ時には、FRBの声明文では「労働環境と物価上昇率の実績と見通しに鑑みて、政策金利を引き上げると決断した」と強調した。

このところ、米国の消費者物価は低迷しており、FRBが重視する米国商務省発表の個人消費支出物価指数(PCE Price Index) は6月に前年比 1.4%で、目標とする2.0%に程遠い。

雇用面では、失業率は4.3%まで下がり、完全雇用水準とされる4.6%を3月以降5カ月連続して下回っているが、平均時給の伸び率は2.53%と低水準に止まっている。
(日本と同様である。)

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FRBは8月3日、これまで発表してきた「労働市場情勢指数」(LMCI:labor market conditions index)の発表を取り止めたと発表した。

LMCIは労働市場関連の19の指標をもとに算出するもので、「雇用者数や失業率といった雇用状況の数だけでなく労働の「質まで加味されている」のが特徴である。

イエレン議長が重視するもので、「イエレン・ダッシュボード(計器盤)」とも呼ばれ、2014年2月のイエレン議長の就任後、2014年10月に過去に遡り、数値が発表された。

過去の指数の動きは不況時期をビッタリ示している。

LMCIの構成要素は次の通り。

算入倍率
(12-month)
失業 失業率 -0.96
労働参加率 0.36
フルタイムでの労働を希望するパートタイマーの数 -0.91
雇用 就業者数 0.91
政府関連雇用者数 0.03
臨時雇用 0.88
労働時間 平均週勤務時間 0.69
週平均労働時間 0.75
賃金 平均時給 0.38
求人 求人誌数(help-wanted index) 0.93
採用 求人倍率 0.78
転換率(失業者から雇用者へ) 0.76
Layoffs 失業保険者率 -0.93
失業5週間以下 -0.77
離職 離職率 0.88
退職5週間以下 0.42
調査 求人多数業種対採用困難業種 0.93
採用計画 0.65
採用困難専門職 0.83


しかし、ここにきてLMCIは低い水準で、最新(最終)の2017年6月は1.5となり、前月の3.3から急低下し、ゼロに接近している。

FRBとしては、これ以上低下すると、「労働環境と物価上昇率の実績と見通し」がいずれもマイナス傾向を示し、保有資産の縮小開始や追加利上げがやり難いと考えたとみられる。

FRBは公表中止の理由を「労働市場の変化をとらえるには、もはや有用ではないと判断した」とし、「平均時給を指標に取り入れても、労働市場と賃金上昇との間に有意義な相関をもたらさなかった」と述べた。

We decided to stop updating the LMCI because we believe it no longer provides a good summary of changes in U.S. labor market conditions.

Specifically, model estimates turned out to be more sensitive to the detrending procedure than we had expected, the measurement of some indicators in recent years has changed in ways that significantly degraded their signal content, and including average hourly earnings as an indicator did not provide a meaningful link between labor market conditions and wage growth.



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