トランプ米大統領は9月6日、米議会の与野党幹部と会談し、12月15日までの連邦政府の債務上限の引き上げと暫定予算案の可決を目指すことで合意した。これにより、政府機関の一部閉鎖などが当面は避けられる見通しとなった。
会談前に、共和党内では債務・予算問題が来年秋の中間選挙に影響することを嫌い、暫定期間を「18カ月」とする意見が大勢 を占め、民主党側の「3カ月」提案を一蹴していたが、会談の場で大統領は民主党案を支持した。 民主党案は、Hurricane被災者への支援と債務上限暫定引き上げを一体化し、議会の賛成票を集めやすくするもので、Hurricane被災者への支援を人質にしたとも言え、共和党のライアン下院議長は強く批判していた。
米下院はこの日、Hurricane Harveyの被災者への79億ドルの支援策を 419対3 で可決した。
上院は近く、この法案に3カ月間の暫定予算と債務上限の引き上げを盛り込み、採決する方針で、これを下院が可決すれば、政府閉鎖やデフォルトが当面、回避される。
付記 米上院は9月7日、80対17の賛成多数で可決した(反対はすべて共和党)。上院のHurricane Harveyの被災者への支援は152.5億ドルに引き上げられた。(既に手当済を含め、救援資金は220億ドルとなる。)
議案には、12月15日まで現在の水準の予算を継続すること、債務上限の3か月間の棚上げを含む。付記
報道によると、トランプ大統領は債務上限の完全撤廃を検討している。
既に民主党とはこの線で合意したとされるが、健全財政にこだわる与党・共和党には異論が強く、実現は不透明。
債務上限は1917年に法制化した。現在は19.8兆ドル(2017年3月15日までに行った借り入れを含む金額)が上限だが、すでに今春に限度額に達し、月内に上限を引き上げなければ政府資金が枯渇する恐れがあった。
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米議会は9月5日、1カ月の夏季休会を終えて再開したが、財政を巡る困難な課題に直面しており、9月末までに10月1日に始まる2018年度予算を決定できなければ、政府機関の一部閉鎖を招く恐れがある。
2017年度予算は成立しておらず、下記の経過をたどった。
2016/9/28 2016年12月9日までの暫定予算
2016/12/9 2017年4月28日までの暫定予算
2017/4/28 2017年5月5日までの暫定予算
2017/4/30 2017年9月30日までの暫定予算
2017年1月のトランプ大統領の就任で、上下両院とも与党となったが、上院で民主党のフィリバスターを阻止するには全100議席のうち60票が必要になるが、共和党は52議席しかなく、通せなかった。
トランプ大統領がメキシコ国境の壁建設に執着したのが響いた。
大統領は、予算を通すのに上院で60%の賛成が必要なことについて Twitter で不満を表明した。2018年の中間選挙で共和党上院議員をもっと選ぶか、ルールを変更して51%にすべきだとし、9月に与野党が合意できず政府機関が閉鎖されても構わないと民主党に脅しをかけた。
2017/5/4 米議会、9月末までの予算案で合意、政府機関の閉鎖回避
メキシコの壁を条件にすれば、9月末までの予算案の通過は考えにくい。政府機関の閉鎖は実際には脅しにならず、暫定予算で時間稼ぎをする。
暫定予算のため、新規のプロジェクトへの支出は出来ず、大統領の意見は反映されない。
債務上限問題については、2015年10月に債務上限凍結を2017年3月15日まで再び延長して、乗り切っている。
2015/11/4 米議会、債務上限引き上げと予算案を承認、大統領署名
凍結は3月15日に切れたが、その後も資金のやり繰りで乗り切ってきた。しかし、財務長官は議会宛ての7月28日付書簡で、連邦政府債務の上限を9月29日までに引き上げなければ政府の債務返済のための資金が枯渇すると警告した。
財務長官は8月31日、テキサス州南部を直撃した Hurricane Harveyの影響によって、連邦債務上限引き上げの期限が前倒しになる可能性があるとの見解を示した。
米格付け会社 Moodysは9月5日、「利払いが行われない確率は低い」としながらも、「もしそうなれば債務不履行と分類し、格付け(現在は最上位のAaa)を引き下げる」として、米国債を格下げする見通しを明らかにした。
現在、Fitch は最上位のAAA、S&Pは上から2番目のAA+ となっている。
これについても、12月15日まで時間稼ぎをした。
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単なる時間稼ぎに過ぎず、3か月でまとまることは考えにくい。
加えて、大統領の公約である医療保険制度改革(オバマケア)見直しや減税問題もある。
2017/8/7 混迷の米議会、オバマケア代替法案を決められず、夏季休会入り
法人税については、大統領は9月5日の会議で「経済の勢いを維持し、急伸させるには、企業や個人の税負担軽減が不可欠だ」との考えを改めて表明した。
大統領は現在の35%から15%への引き下げ、共和党は20%への引き下げを目指すが、減税には代替税源の確保が必要である。
しかし、ホワイトハウスと米議会指導部は7月27日、税制改革で焦点となっていた「国境税」について、「多くの不確定要素がある」として、導入を見送ることで合意した。
「国境税」の見送りにより、財源確保のめどが立たなくなった。
2017/8/1 米、「国境 税」断念
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