今年のIg Nobel Prize 贈呈式が9月14日、米ハーバード大で開催された。
ブラジルの洞窟で見つかった新種の虫の雌が「ペニス」のような器官を持ち、それを使って雄と交尾することを解明した。
("Female penis, male vagina and their correlated evolution in a cave insect")
この虫は体長約3ミリで、「チャタテムシ」の仲間。世界中にチャタテムシは約5千種いるが、交尾器官が逆転するのはブラジルの洞窟にいる4種だけで、和名を「トリカヘチャタテ」と名付けた。平安時代の「とりかへばや物語」からとった。
2010年以降に新種として登録された。吉澤さんらは生態を詳しく観察し、40~70時間と長時間にわたる交尾で、実際に雄雌の交尾器官が「逆転」して機能することを解明、2014年に論文で発表した。
トリカヘチャタテは雌がペニス様の交尾器を持ち、これを雄に挿入することで交尾を行うことが明らかになった。
雌ペニスの根元には多くの刺が生えており、雌はこれを使って、交尾中、雄をしっかり拘束する。
トリカヘチャタテの交尾時間は約 40~70 時間と極めて長く、この長い拘束時間中に、雌ペニスに開いた管を通して、雌は雄から栄養の入ったカプセルを精子と一緒に受け取る。
栄養カプセルの贈与などにより、雄の生殖にかかるコストが上昇したことで、雄よりも雌の方が早いペースで再交尾が可能になったと考えられる。これにより、雌雄の交尾への積極性が逆転し、雌に強い性選択が働いたことが、交尾器構造の逆転を促したと考えられた。
さらにトリカヘチャタテの雌雄の交尾器間には、相互に形が対応するように進化する、共進化の関係が見られた。
https://www.hokudai.ac.jp/news/140418_pr_agr.pdf
付記
研究チームは調査のため授賞式を欠席したが、ビデオメッセージが上映された。上村さんが「私たちの発見でペニスを男性器と説明している世界中のあらゆる辞書が時代遅れになった」とコメントすると、会場は笑いと拍手に包まれた。
他の受賞は下記の通り。
流動学 | University of Lyon's Marc-Antoine Fardin
猫がいろんな容器に入り込むことから、猫は固体であると同時に液体であると結論づけた。
長期間で見ると、(固体である)氷河は流れている。猫も、液体のように箱に収まる。 |
平和賞 | Swiss team
アボリジニの楽器 didgeridoo を吹くことで、上気道が鍛えられ、イビキと睡眠無呼吸症が治ることを立証 |
経済学 | Matthew Rockloff and Nancy Greer of Central Queensland University
1mもの鰐を掴んだ後で、ギャンブルをした場合の態度の研究。
|
解剖学 | James Heathcote of South View Surgery, in the U.K.
老人の耳が長いことを調査 |
医学賞 | a team led by University of Lyon's Jean-Pierre Royet
チーズが嫌いな人に臭いを嗅がせたり、写真を見せたりして、脳をMRIで観察。
|
認識学 | University of Rome's Matteo Martini and coworkers
多くのよく似た双子は写真に写った双子のどちらが自分かを認識できない。
|
液体流動学 | Jiwon Han、high school student at the Korean Minjok Leadership Academy
コーヒーカップを持って後ろ向きに歩くと、コーヒーのこぼれは少ない。但し石にけつまづいたりしてひっくり返ることもある。
|
栄養学 | Enrico Bernard and coworkers at the Federal University of Pernambuco
人間の血を餌にしていることが判明したコウモリ、ケアシ チスイ コウモリ(Diphylla ecaudata)の糞から人間の血のDNAを分析 |
産科 | Scientists in Spain
胎児は、母親の腹の上のスピーカーから発せられた音楽よりも、膣内のスピーカーから発せられた音楽に反応を示す。 |
過去のイグ・ノーベル賞については、下記を参照。
2006/10/13 ノーベル賞とイグ・ノーベル賞 2007/10/8 2007年イグ・ノーベル賞 2008/10/4 2008年イグ・ノーベル賞 2009/10/3 2009年イグ・ノーベル賞 2010/10/7 2010年ノーベル化学賞とイグ・ノーベル賞 2011/10/1 2011年度イグノーベル賞 2012/9/25 2012年 Ig Nobel 賞に日本人の「スピーチジャマー」 2013/9/16 2013年 Ig Nobel 賞、日本の2チームが受賞 2014/9/20 2014年イグ・ノーベル賞 2015/9/22 2015年 イグノーベル賞 2016/9/24 2016年 イグノーベル賞
日本人の受賞は次のとおりで、2005年までに11件、2007年からは11年連続で12件(2013年は2件)で、合計23件の受賞となった。
なお、2008年の認知科学賞と、2010年の交通計画賞は、同一テーマの研究の延長で受賞している。
(敬称略)
名前 | 受賞 | |
1992 | 神田不二宏, E. Yagi, M. Fukuda、K. Nakajima, T. Ohta and O. Nakata (資生堂研究センター) |
薬学賞 足の匂いの原因となる混合物の解明 |
1994 | 気象庁 | 物理学賞 地震が尾を振るナマズによって引き起こされるかどうかを7年間研究した功績 |
1995 | 渡辺茂(慶應義塾大学) 坂本淳子 脇田真清(京都大学) |
心理学賞 ハトの絵画弁別(ハトを訓練してピカソとモネの絵を区別できるようにした)功績 |
1996 | 岡村長之助 (岡村化石研究所) |
生物学的多様性賞 岩手県の岩石から古生代石炭紀(約3億年前)の石灰岩中に超ミニ恐竜化石を 発見した功績 (小さな石を顕微鏡で見て超ミニ恐竜化石だと主張して発表) |
1997 | 舞田あき(バンダイ) 横井昭宏(ウィズ) |
経済学賞 バーチャルペット(たまごっち)の開発によりバーチャルペットへの労働時間を 費やさせた功績 |
1997 | 柳生隆視 他 (関西医科大学) |
生物学賞 様々な味のガムをかんでいる人の脳波を研究 |
1999 | 牧野武 (セーフティ探偵社) |
化学賞 妻や夫の下着に適用して精液の跡を発見できる浮気検出スプレーの開発. |
2002 | 佐藤慶太(タカラ社社長) 鈴木松美(日本音響研究所) 小暮規夫(獣医学博士) |
平和賞 コンピュータ・ベースでの犬と人間の言葉を自動翻訳するデバイス「バウリンガル」開発 |
2003 | 広瀬幸雄 教授 (金沢大学) |
化学賞 銅像に鳥が寄りつかないことをヒントに、カラスを撃退できる合金開発 |
2004 | 井上大佑 | 平和賞 カラオケを発明し、人々に互いに寛容になる新しい手段を提供 |
2005 | 中松義郎 (ドクター中松) |
栄養学賞 36年間にわたり自分が食べたすべての食事を撮影し、食べ物が頭の働きや体調に 与える影響を分析 |
2007 | 山本麻由 | 化学賞 牛糞からバニラの芳香成分 vanillin の抽出 |
2008 | 中垣俊之ほか | 認知科学賞 真正粘菌変形体という巨大なアメーバ様生物が迷路の最短経路を探し当てる |
2009 | 田口文章ほか | 生物学賞 パンダのフンから抽出したバクテリアを使って台所の生ゴミを分解し、9割減量 |
2010 | 中垣俊之ほか | 交通計画賞 粘菌が交通網を整備 |
2011 | 今井眞ほか | 化学賞 わさびの臭いが火災報知器の役割を成す理想的な空気中のわさび濃度 |
2012 | 栗原一貴、塚田浩二 | 音響賞 迷惑を顧みず話し続ける人の話を妨害する装置「スピーチジャマー」を開発 |
2013 | 新見正則ほか | 医学賞 心臓移植したマウスにオペラを聴かせると生存期間が延びた |
今井真介ほか | 化学賞 タマネギの催涙成分をつくる酵素 |
|
2014 | 馬渕清資ほか | 物理学賞 「バナナの皮を踏むとなぜ滑りやすいのか」を実験で解明 |
2015 | 木俣肇 | 医学賞 情熱的なキスの生物医学的な利益あるいは影響を研究するための実験 |
2016 | 東山篤規、足立浩平 |
知覚賞 |
コメントする