新たな不法移民問題

| コメント(0)

米国のセッションズ司法長官は9月5日、幼少時に親と米国に不法入国した若者 (「ドリーマー」と呼ばれる)に滞在許可を与える制度(DACA)を撤廃すると発表した。
対象者の在留資格は2018年3月までは保護されるが、新たな申請は認めない。

制度が、議会を通った法律ではなく、大統領令で決まったことが問題であるため、来年3月末までに議会に代替の法律をつくる猶予を与えた

トランプ大統領は当初予定された自らの発表は行わず、twitter で呟いた。

"Congress, get ready to do your job - DACA! "


DACAは、2012年6月にオバマ大統領が
議会の承認を要しない大統領令で決めたもので、制度の
撤廃を巡り、米国が揺れている。

トランプ大統領は不法移民の摘発を強化する姿勢を示していたが、その後、DACAを維持する方針に転換した。

これに対し、テキサス州など10州の司法長官が「制度は違法だ」として、9月5日を期限として、改めて撤廃することを求め、応じない場合は訴訟を起こす姿勢を示した。

後記の通り、類似のDAPA制度は地裁が差し止めを命じ、当時は欠員1名であった最高裁が4対4の同数で決められず、地裁の差し止め 命令が生きた形となり、本年6月に政府が撤回した。

今回は保守派が補充されたため、最高裁まで行けば、DACAに不利な判決が出るものとみられている。

一方、民主党の地盤であるカリフォルニア州など19州とワシントンDCの司法長官らは、大統領に制度の継続を求める書簡で対抗し、国内で賛否が割れている。

強制送還の猶予撤廃に反対する集会が全米各地で開かれており、IT企業をはじめとする経済界や、野党・民主党、そして与党・共和党からも、撤廃に反対する声が噴出している。
アップルやグーグルなどの企業トップら300人超は「企業に不可欠」 として制度の維持を連名で要請した。

ホワイトハウスは9月1日、撤廃するかどうかを5日に発表することを明らかにしていた。

付記

発表を受け、ニューヨーク州など15州とWashington DCの司法長官は9月6日、主にメキシコにルーツを持つ若者への差別に当たり、憲法違反であるとし、政府に撤回を求める訴訟を共同で起こした。
対象となる80万人のうち、8割近くがメキシコにルーツを持つ。

ーーー

問題となっているのは DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)と呼ばれる制度で、幼少時に親と米国に不法入国した若者の強制送還を延期(defer) し、その間就労許可証を与えるもの。

2001年に、子供の時に親に連れられて米国に不法入国し滞在を続けた若者に対し、アメリカに永住できる道を与えようとする DREAM 法案が提唱された。自らの意思で不法滞在を選択したわけではない若者で、犯罪歴がなく、大学に進学もしくは軍隊に入隊したものには、アメリカで生き延びる機会を与えようという趣旨であった。


しかし、
親の不法行為に対して恩恵を与えるものであり、今後ますます不法入国を促進するものであるという反対派の意見が強く、可決されていない。

このため、2012年6月に大統領令(通称DACA2012)を出し、815日に受付が開始された。
2014年12月に改定された。

DACA2012では2年間の送還延期、現状は3年間の送還延期となっており、その後は延長申請ができる。

条件は次の通りで、全てを満たすことが必要。2点以外は同じ。

DACA2012 DACA(2014/12 改定、現状)
2012/6/15日時点で31歳未満 年齢制限廃止

16歳未満の時にアメリカに入国

2007/6/15から現在まで継続してアメリカに滞在 2010/1/1から現在まで継続してアメリカに滞在
2012/6/15及び申請時にアメリカに滞在
2012/6/15より前に米国に不法入国、もしくは合法的滞在資格が2012/6/15に失効
通学中、高校を卒業、高校卒業資格(GED)を取得、もしくは米国沿岸警備隊や軍隊を円満退役
重罪、重大な軽罪、3つ以上の軽罪で有罪判決を受けたもの でない、もしくは国家安全は公共の安全を脅かすものではない
申請時に15歳以上であること(国外退去処分の対象となっているものは15歳以下でも申請可)

トランプ大統領はこれを「不法な特赦」と批判してきた。

制度がなくなれば約80万人の移民が強制送還の対象となる。

ドリーマーの91%以上は職に就いているとされ、ドリーマーの強制送還により米国のGDPは10年間で4330億ドル減少するとの調査もある。


ーーー

Obama大統領は2014年12月のDACA改定の際に、もう一つの制度を決めた。

DAPA(Deferred Action for Parental Accountability ) で、米国生まれの子どもを持つ数百万人の不法移民に3年間の強制送還延期と、その間の就労を認めるもの。

条件は次の通り。

  • 2014/11/20時点で米国市民であるか、合法的滞在権を有する子供の親
  • 子供は未成年でも、成人で結婚していても未婚でもよい。
  • 2010/1/1から現在まで継続して米国に居住
  • 2014/11/20及び申請時に米国に居住
  • 2014/11/20時点で合法的滞在権を有しない
  • 重罪、重大な軽罪、複数の軽罪で有罪判決を受けたものでない

これについては、この大統領命令は憲法違反であり、議会の承認が必要であると主張する 26州がオバマ政権を提訴し、テキサス州の連邦地方裁判所が2015年11月に差し止めを命じた。

Obama政権は最高裁に上訴した。

連邦最高裁判所は2016年6月23日、判事の意見が4対4の同数となったことから、結論を下せなかった。
2016年2月13日に死去したスカリア判事の後任として指名した穏健派のメリック・ガーランド判事を、共和党が多数を占める上院が承認しなかったことが響いた。

そのため、DAPAを無効とした裁判所の判断が維持されることになり、移民制度改革は事実上阻止された。

トランプ米政権の国土安全保障省は2017年6月15日、司法省の同意も得て、DAPA政策を撤回すると発表した。

コメントする

月別 アーカイブ