東芝は9月20日の取締役会で、東芝メモリの売却先について、Bain Capital が率いる「日米韓連合」にすることを決議した。
売却額は2兆円、税引前利益で1兆800億円を見込む。メモリ事業承継に係る課税影響を加味しても約7400億円の増益が見込めるため、2017年度末には債務超過状態を解消できるとみている。
2017年8月時点での2018年3月期予想では、東芝メモリ売却益を除き、株主資本を4100億円の赤字とみていた。(億円)
16/3 17/3 増減 6/23発表
見通し増減 17/1Q 18/3予 売却益 売上高 51,548 48,708 -2,840 48,708 0 11,436 49,700 営業損益 -4,830 2,708 7,538 2,708 0 967 4,300 (うち東芝メモリ) (1,100) (1,866) (766) (903) (3,712) (東芝メモリ以外) (-5,930) (842) (6,772) (64) (588) 非継続事業純損益 -1,298 -12,801 -14,099 -13,065 264 - - 純損益 -4,600 -9,657 -5,057 -9,952 295 503 2,300 +7,400 株主資本 3,289 -5,529 -8,818 -5,816 287 -5,043 -4,100 3,300
最終契約を結べば、日米韓連合と並行して協議を進めてきたWestern Degital 陣営、鴻海精密工業の2陣営との交渉は打ち切る。
売却先の日米韓連合は、Bain Capitalが買収目的で設立した ㈱ Pangeaの普通株式、転換型優先株式、社債型優先株式を取得する。同社は株式譲渡の実行までに、金融機関から借入を実行する。
参加するのは、Bain Capital とSK Hynixのほか、AppleやDellなどの米企業、半導体関連部品を手掛けるHOYAなど。
東芝も、安定的な事業の移管実現を目的に、3,505億円の再出資を行う。
議決権については、Bainが49.9%に対し、東芝が40.1%、HOYAが10%と、日本側が過半を占めるという。(9月21日の主要取引行への説明)
9月初め頃の 陣営の出資案は下記の通りであった。(億円)
普通株・優先株 融資 合計 産業革新機構 *2 日本政策投資銀行 *2 Bain Capital 47% 5,700 SK Hynix *1 東芝 47% 2,000 Apple 4,000 Kingston Technology 1,000 日本企業 6% 300 銀行団 7,000 計 100% 13,000 7,000 20,000 *1 SK Hynixは将来、優先株を普通株に転換。議決権は最大18%。
*2 革新機構、政策投資銀行は、東芝とWestern Digitalの紛争解決後にBain、SKから株式を取得。
その後、Bain Capital は、Apple、Dell、Seagate Technology、Kingston Technology が出資することを明らかにしたが、それぞれの出資額は明らかにしなかった。
また、その時点では SK Hynix の社名は出していない。今回、東芝は出資額を2000億円から3505億円に増やした。
既報のとおり、当初から参加を予定していた産業革新機構と日本政策投資銀行は、Western Digital との紛争解決後に参加するが、それまでの間、参加の前提が崩れるような経営判断を防ぐ目的で、東芝メモリの普通株式の一部に係る議決権行使について、東芝は産業革新機構と日本政策投資銀行に指図権(議決権行使に関する具体的な方法を第三者が当該保有者に対して指図する権限)を与える。
東芝は次の点を勘案して選定したとしている。
①東芝メモリの評価額、
②今後のメモリ事業の安定的な成長への影響 (顧客やサプライヤとの関係、国内雇用確保の観点含む)、
③各国の競争法当局の承認が得られる蓋然性、
④その他各国当局の承認が得られる蓋然性、
⑤2018年3月末までの株式売却の実行の確度、
⑥海外企業(SK Hynix)による将来の保有議決権が一部 限定されるとの条件も提示されたこと
日米韓連合は、Western Digital 陣営に対抗するため、購入金額2兆円に加え、今後の研究開発費4000億円を約束、さらに、Western Digital との訴訟に伴う費用を500億円まで補償する意向を示したと報じられた。
また、Western Digital との係争状態にあるが、Western Digitalとの合弁会社への出資持分についての差止請求が認められた場合であっても、本株式譲渡が履行されることを前提としている。
(具体的にどうなるのか、株式譲渡契約の条項が発表されていないため、不明。)
更に、Appleが東芝に対し、Western Digital が将来東芝メモリの主導権を取った場合、製品の取引を打ち切る可能性があると伝えてきたとの報道もある。
なお、四日市工場での生産設備の共同投資及び設計・開発での今後の協業継続については、Western Digital と真摯に協議していく意向としている。
付記
東芝の発表について、SKハイニックスは「まだ道のりは遠い」と語った。
同社幹部は、「今後東芝側と本格的な交渉を行い、詳細な条件を最大限我々に有利な方向に持っていく。日本メディアが報道するように、投資資金全額をBainへの融資とはしない。SKハイニックスにとって得にならなければ、むしろSKの理事会(取締役会)で反対することも考えられる」と語った。
付記
Western Digital は9月26日、東芝が東芝メモリを「日米韓連合」に売却することに対し、国際商業会議所(ICC)の国際仲裁裁判所に暫定差し止めを求めると発表した。
付記
韓国 SK Hynix は9月27日の取締役会で、東芝メモリの買収に参画することを決議したと発表した。日米韓連合で投じる約2兆円のうち、SKが3950億円を拠出する。
このうち1290億円は転換社債の形で投資し、今後、議決権ベースで15%の東芝メモリ株を取得する権利を得る。残る2660億円はBainが創設するファンドに出資する。
Apple、Dell、Seagate、Kingston などは社債型優先株の形で投資する。
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今後は、Western Digital との紛争と各国の独禁法審査(特に中国)が問題で、2018年3月末までに売却が完了するかどうか、分からない。
なお、Western Digital は9月20日、東芝が進める半導体メモリー工場の単独投資を差し止めるよう国際商業会議所(ICC)国際仲裁裁判所に申し立てたと発表した。
東芝は8月3日、四日市工場にて建設中の第6製造棟に関し、第1期分として予定している次世代の96層積層プロセスを用いた3次元フラッシュメモリ用クリーンルームへの生産設備導入を東芝メモリ単独で実施すると発表した。
2017/8/8 東芝、東芝メモリの増設を単独実施
同社は5月に東芝の半導体事業売却の差し止めも求めている。
2017/5/15 東芝の半導体事業売却、Western Digital が差し止め申し立て
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