10月8日付日本経済新聞は、掲記のタイトルで、英 University College LondonのGill Livingston 教授とのインタビューを掲載している。
英医学誌 Lancet の認知症(Dementia)に関する国際委員会が7月20日付で同誌に論文"Dementia prevention, intervention, and care" を発表して話題となった。Livingston教授はこの研究を主導した。
概要は以下の通り。
2015年時点で世界に約4700万人と推定されており、2050年に約3倍の1億3100万人になると予測されている。
世界の経済的な負担は2015年時点で8,180億ドル。2050年には2兆ドルを超える見込み。研究で分かった認知症の最も大きな要因は、中年期(45~65歳)の聴力低下で全体の9%を占めた。中年で耳が遠くなると、9~17年後に認知症になる例が増える傾向がある。
次は中等教育(12~14歳)の未修了が8%にのぼる。教育を受けることで、脳を活性化して認知機能を高めると同時に、食物に気を使ったり運動をしたりして健康に気を配るからだ 。このほか中年での肥満、高血圧、65歳以上の高齢期での喫煙、うつ、活動量の低下、社会的な孤立、糖尿病が十分証拠があるリスク要因だった。
これら9つの要因を改善すれば、認知症の3分の1を防ぐことができる。遺伝的な要因は7%にすぎなかった 。
米、英、スウェーデン、オランダなどでこのようなリスク要因を改善し、生活習慣を変えると、認知症が減るという報告がすでにある。その大部分は教育によるものだ 。
論文概要 http://www.thelancet.com/commissions/dementia2017
論文全文 http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)31363-6/fulltext
論文では認知症のリスク ファクターを次の通りとしている。
時期 要素 原因比率 %
予防不可 予防可能 生まれつき 遺伝 7% アポリポ蛋白E (ApoE) ε4 allele (下記) 若年期
(12~14歳)中等教育未終了 8% 脳を活性化して認知機能を高める。
健康に気を配る。(食物や運動)中年期
(45~65歳)聴力低下 9% 高血圧 2% 肥満 1% 高齢期
(65歳以上)喫煙 5% 鬱 (depression) 4% 活動量の低下 3% 社会的な孤立 2% 糖尿病 1% その他 58% 合計 65% 35%
アポリポ蛋白E(ApoE)主として肝細胞で産生され、全身の他の臓器へのコレステロールや脂肪酸の運搬に関与している。ApoE遺伝子にはε2、ε3、ε4の3つの対立遺伝子(allele )がある。
ApoE ε3は正常型(Wild Type)
ApoE ε4はアルツハイマー病の危険因子と見なされている。
ApoE ε2は受容体との結合力が低く、高脂血症の原因となる。
教授は、「日本の研究報告はなかったが、日本でも栄養バランスの改善や、高血圧や聴力低下の防止、持続的な運動によって、認知症になる人を減らせると思う」と述べ、「認知症の新薬開発は今のところ、うまくいっていないし、まだ時間がかかる。予防で認知症を減らす方が、医療コストの削減につながる」 としている。
なお、Dementiaの語源はラテン語の「demens」で、「mens」がmind(心、精神)の意味であることから、out of mind の意味となる。
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