韓国の文在寅大統領は10月22日、建設途中の新古里原発5、6号機(蔚山市)の工事再開を有識者らでつくる公論化委員会が勧告したことを受け「建設を早期に再開する」と表明した。
発電に占める原発の比率を段階的に下げる「脱原発」政策の継続も指示した。
脱原発を円滑に実行するため、原発解体研究所を韓国の東南部に設立することも併せて公表した。欧米など海外で解体作業の受注につなげる狙いもあるという。
文大統領は、脱原発政策を支障なく進める考えを強調した。「これ以上の新規の原発建設計画を全面中止し、エネルギー需給の安定性を確認次第、設計寿命を延長し、稼動中の月城1号機の運転を中止する」とした。
月城1号機は、2012年に設計寿命の30年を迎えて運転停止したが、原子力安全委員会が安全性を審査した上で2022年までの運転延長を許可、これを無効とする行政訴訟で2017年2月に延長を取り消す判決があった。 新政府はこの控訴を取り下げている。
公論化委については、「熟議民主主義の模範を示した。韓国国民を誇りに思い、尊敬する」とし、「今回の公論化の経験を通じて、社会的葛藤懸案を解決する多様な社会的対話と大妥協がさらに活発になることを期待する」と述べた。
野党は一斉に反発、保守系最大野党「自由韓国党」は、「拙速な原発中断に対する謝罪が大統領の道理」とし、「公論化委で経済的な損失と社会的葛藤を誘発させておいて、それを熟議民主主義という詭弁で覆うことは実に失望させられる発表だ」と批判した。
中道系野党「国民の党」は、「建設がすでに進んでいる事案に対して1000億ウォンを超える莫大な費用を無駄にし、一言の謝罪もなく『意味深い過程』とだけ述べたことは残念」とした。
政府は年内に中長期の電力需要の展望と、これに伴う発電設備計画を含む「電力需給基本計画」を発表する。原発と石炭火力に代わり、LNG火力と再生エネルギーを柱とする方針で、新たな電源構成を示す。
脱原発の基本路線に変化はないことから、電気料金の将来的な上昇による競争力低下の懸念は残る。産業通商資源省は「脱原発でも電力需給を適切に管理すれば2022年まで電気料金は上がらず、それ以降も再生エネの単価下落などで値上げ幅は気にするほどではない」と説明するが、そのとおりに進むかは不透明 。
韓国政府は10月24日、閣議を開き、新古里原発5、6号機の建設を再開する一方、脱原発と再生可能エネルギーの拡大を中心としたエネルギー転換政策を引き続き推進することを決めた。
また、新規原発6基の白紙化と老朽化した原発14基の設計寿命の延長を禁じることにより、現在24基ある韓国の原発を2038年まで段階的に14基に減らす。
これらの計画は7月19日に発表された「国政運営5カ年計画」に含まれているが、新古里原発5、6号機の建設再開が確定したことで、残りの原発に対する計画も明文化した。
新ハンウル原発3、4号機(蔚珍市)、天地1、2号機(盈徳郡)、建設予定地・名称未定の原発2基の計6基の新規原発計画を白紙に戻す。
2038年までに寿命を迎える老朽化した原発14基は設計寿命を延長しての稼働を禁止し、月城原発1号機は電力供給の安定性などを考慮して早期に廃炉にする。
これにより、韓国の原発は2017年の24基から2022年に28基へと増えるが、2031年には18基、2038年には14基と段階的に減少することになる。
他方、韓国は国際原子力機関(IAEA)が10月30日からUAEのアブダビで開く世界原子力閣僚会議に特使を派遣し、韓国がUAEに建設している原子力発電所の優秀性をアピールする。
韓国は英国、サウジアラビア、チェコなどが推進する原発建設計画の受注を狙っている。
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大統領は選挙運動中に「新規の原発建設を全面中断し、建設計画を白紙化する」と公言している。
就任後の5月17日に、老朽火力発電の一時停止を命じたが、原発についても、老朽のものを閉鎖、建設中のものは見直し、今後40年で原発に頼らないエネルギー政策に切り替えると述べた。
同氏は大統領選挙前の2017年4月14日、脱原発市民団体6団体と反原発についての下記の政策協定を結んだ。
原発の危険から国民の生命を守り、
安全で持続可能なエネルギー政策策定のために次期政府は積極的な 脱核・エネルギー転換政策を推進しなければならない。
ここに、文在寅候補は、次期政府において、 以下の政策課題を即座に推進することを約束する。 1.現在建設中の新古里4号機と新ハンウル 1・
2号機の建設を暫定的に中止し、 社会的合意を通じて運転の是非を決定する。 2.現在建設中の新古里5・6号機と建設計画中の新ハンウル3・
4号機を白紙に戻し、許可を取り消す。 新古里5号機は2021年、6号機は2022年、新ハンウル3号機 は2022年、4号機は2023年の稼働を予定していた。
以下 略
各原発の状況は下記を参照
2017/6/1 韓国、建設予定の原発の設計を中断、新大統領の脱原発方針の一環
文政権は新規原発の全面的な建設中断を柱とする脱原発政策を掲げたが、工事の進捗率が既に30%に達する新古里5・6号機については 、経済的な影響が大きいため、存続の是非は国民の判断を仰ぐとし、有識者の公論化委員会に判断を委ねた。
新古里5・6号機は、具体的には、設計が79%、機材購入が53%行われ、実際の施工工程は9%ぐらいである。
工事継続の是非を議論してきた公論化委員会は10月20日、建設の再開を政府に勧告した。
委員会は新古里5、6号機についてはすでに1兆6000億ウォン(約1600億円)を投じ、工事の進捗率が30%に達しているため、再開が現実的と判断した。
同委員会は「討論型世論調査」を実施する方針を決め、8月25日から9月9日に1次調査となる電話調査で2万人の国民から回答を得て、その中から500人を抽出。うち478人が2次調査に参加した。10月13日に2次調査参加者の98.5%に当たる471人が2泊3日間の総合討論会で3次調査に参加し、討論会最終日の15日に4次調査を終えた。
最終の4次調査で、建設再開を求める意見が59.5%、建設中断が40.5%だったと発表した。同委員会の金委員長は、双方の差は19ポイントで「統計的に意味のある差だ」と指摘した。また「全ての年齢層で調査を重ねるごとに建設再開の比率が高まった。20代、30代で上昇率が特に大きかった」と説明した。
ただ、再開にあたっては、原発の安全基準の強化や再生可能エネルギーを増やす投資の拡大、使用済み核燃料の処理問題の早期解決が必要との条件をつけた。
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