デンソーの上告に対し、最高裁は9月26日に弁論を行うとしたため、2審の結論が変更 されることが予想されていた。
後のものについては、10月18日に名古屋高裁がデンソー勝訴の判決を出している。今回の最高裁の判断により、国側は上告しないと思われ、合計約73億円の追徴課税が戻されることとなる。
名古屋国税局は、デンソーのシンガポールの子会社の所得をめぐり、 タックスヘイブン対策税制を適用し、下記の通り追徴課税した。
対象 申告漏れ 課税 2010/6/28 2009年3月期までの2年間の所得 約114億円 約12億円 2012/6/22 2011年3月期までの2年間 約138億円 約61億円
子会社に「タックスヘイブン(租税回避地)対策税制」が適用されるかどうかが争われた。
同税制は、税率が低い国や地域の子会社の所得を日本の親会社の所得に合算して課税する制度で、その子会社に事業実態があるなど、一定の要件を満たせば適用が除外される。
外国子会社等の留保所得が、法人所得税がないか、20%以下の場合、株式の所有割合に応じて、当該株主の所得と合算して日本で課税される。
シンガポールの法人税は17%のため、これに該当する。但し、下記の条件の場合、適用除外となる。
事業基準 主な事業が株式等の保有、工業所有権等や著作権の提供、船舶または航空機の貸付けなどの事業ではない 実体基準 主な事業を行うために必要な事務所、店舗、工場などの固定施設を有している 管理支配基準 事業の管理、支配、運営を自ら行っている 非関連者基準他
なお、2010年の税制改正で地域統括業務を行う子会社については、主な事業が「株の保有」でも対策税制の適用除外となっている。
シンガポール子会社は、現地事務所があり、20人以上の従業員が地域統括業務を担当している。税引前利益の8~9割は株の配当が占めるが、地域の物流を改善する業務の売上が収入の約86%となっている。
同社は以下の通り述べている。
1990年にシンガポールへ進出して以来、地域統括サービスを中心とした事業展開を推進しており、在籍する人員の殆どが地域統括事業に従事し、それに必要な固定施設等の実態も備わった健全な事業展開をして参りました。
名古屋国税局は、主な事業が株式等の保有であるとし、事業基準でタックスヘイブン対策税制を適用したのに対し、デンソー側は、物流と財務の統括が主な事業であり、実体基準にも該当するとして、適用除外を主張して いる。
名古屋国税局による追徴課税に対し、デンソーは取り消しを求め、訴訟を行った。
これまでの経緯は次の通り。
2009年3月期までの2年間の所得 | 2011年3月期までの2年間 の所得 | |
国税局 | 2010/6/28 主な事業は「株式保有」で事業実態はなし。 114億円の申告漏れ、約12億円を追徴課税 |
2012/6/22 主な事業は「株式保有」で事業実態はなし。 約138億円の申告漏れ、約61億円を追徴課税 |
デンソー | 2011/8/8 更正処分の取消請求訴訟 | 2014/6 更正処分の取消請求訴訟 |
1審 | 2014/9/4 名古屋地裁 デンソー勝訴 主たる事業は物流改善など、オーストラリア・アジア地域での 「地域統括事業」で、適用除外要件を満たす。 但し、所得金額約114億円のうち、約10億円については認めず。 |
2017/1/26 名古屋地裁 デンソー勝訴 事業活動の経済的合理性があるか否かの観点から、 子会社の主たる事業が地域統括だったと判断 |
控訴 | 国 デンソー:所得10億円分 |
国 |
2審 | 2016/2/10 名古屋高裁 デンソー敗訴 「株式の保有が主たる事業」で適用除外要件を満たさない これにより、所得 10億円分のデンソーの控訴は棄却 |
2017/10/18 名古屋高裁 デンソー勝訴 一審の判断は妥当 |
上告 | デンソー | 付記 国は上告せず、高裁判決が確定した。 |
最高裁 | 2017/10/24 判決 デンソー勝訴 |
最高裁の判決理由は次の通り。
子会社にはASEAN地域の事業を効率化する目的があり、活動に経済合理性があった。財務や物流改善などの業務は多岐にわたり、相当の規模と実体があった。
子会社の「主な事業」が何かを判断する基準について、事業活動の収入や所得、人数、店舗、工場などの状況を総合的に考慮するのが相当である。
コメントする