建設現場でのアスベスト被害で高裁で賠償命令、一審逆転

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建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み健康被害を受けたとして、神奈川県の元建設作業員と遺族計89人が国と建材メーカー43社に総額28億8750万円の損害賠償を求めた「建設石綿横浜第1陣集団訴訟」の控訴審判決で、東京高裁は10月27日、請求を棄却した2012年5月の1審・横浜地裁判決を取り消し、国とメーカー4社の責任を認めて計約3億7200万円の支払いを命じた。

国が1975年に建設作業での石綿吹き付けを原則禁じるなどの対策を講じてから5年たった1980年までに、事業者に対して屋内建設現場で作業する労働者に防じんマスクを着用させる罰則付きの義務化を図らなかった点などを違法と判断 した。(1981年1月以降を違法とした。これまでは、1975年以降を違法とする判断があった。)

建設石綿訴訟では、これまで7件の地裁判決があり、国の責任をみとめたものが6件、メーカーの責任を認めたものが2件あった。
今回の控訴審で国の責任を認めなかった横浜地裁判決が否定され、全てで国の責任が認められることとなった。メーカー責任を認めるのは3件となった。

下記の通り、工場労働者型(屋内型)については、国は最高裁判決に基づき、被害者が新たに同種訴訟を起こせば賠償に応じる方針であるが、建設石綿訴訟では今後も争う立場をとっている。

最高裁判所の判例(筑豊じん肺訴訟最高裁判所判決等)では、規制権限の不行使が国家賠償法上違法となるのは、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、当時の具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限られる。

国は、戦前から、石綿についても粉じんの一つとしてその衛生上の有害性を認識し、その時々の医学的知見、工学的知見に応じ、使用者に一定の義務を課すなどの措置を講じ、適時にかつ適切に、措置を強化してきたものであり、建築現場における実態をも踏まえると、国の規制権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められず、国家賠償法上の違法は認められないと主張している。

これまでの建設石綿訴訟の判決は次の通り。(〇は有罪、Xは無罪)

判決 メーカー
横浜地裁(1陣)
  
2012/5 X X

原告の請求を全て棄却

「1972年時点で、石綿粉じん曝露により肺がん及び中皮腫を発症するとの医学的知見が確立した」
2006年に至るまでアスベスト建材の使用を全面禁止しなかったこと等について、「著しく合理性を欠く」と言うことまではできない。

   東京高裁 2017/10 国とメーカー4社の責任を認めて計約3億7200万円  

1972年ごろまでには石綿が健康被害を及ぼすとの医学的知見が確立していた。
国が1975年に建設作業での石綿吹き付けを原則禁じるなどの対策を講じてから5年たった1980年までに、事業者に対して屋内建設現場で作業する労働者に防じんマスクを着用させる罰則付きの義務化を図らなかった点などを違法と判断。 (1981年1月以降は違法)
義務化が実現した1995年4月までに現場で作業していた本人や遺族計44人への賠償を認めた。

(メーカー)
1975年時点で石綿の危険性などを建材に警告表示する義務があった。
石綿製品のシェアなどから、エーアンドエーマテリアル、ニチアス、エム・エム・ケイ、神島化学工業に賠償責任があるとし、本人や遺族計39人への賠償を認めた。

(一人親方)
労働関係法令が保護対象とする「労働者」には当たらず、国は賠償責任を負わない。

東京地裁
  
2012/12 X 国に対する請求を一部認容
170人に総額10億6394万円の賠償命令

国は石綿の吹き付け作業では1974年、切断などでは1981年に規制の義務を負っていたが怠り、違法だ。

遅くとも1981年以降
・事業者に防じんマスクの着用を罰則つきで義務づける
・建材に「肺がんなどを生じさせる」と警告表示する
などの対策をとれば、多くの被害を防止できたと結論づけた。

この時期以降に屋内で建築作業に従事した労働者に限り、国の賠償責任がある。
屋外作業では危険性を容易に認識できたと言えず、零細事業主や個人事業主についても国は責任を負わない。


(メーカー)
石綿を含有した建材の製造販売企業に共同不法行為は成立しない。

2012/12/10 建設労働者アスベスト訴訟、国に初の賠償命令

福岡地裁
  
2014/11 X 国に対する請求を一部認容
36人に総額1億3700万円の賠償命令

建設現場での防じんマスク着用は「被害防止対策としては唯一有効な手段」

国は遅くとも1975年までには石綿被害の危険性を認識できた。
同年から罰則付きでマスク着用を義務づけるべきだった。
危険性を知らせる警告表示について、建材や建設現場などで義務づけるべきだった。

1995年まで国がこうした規制を怠ったのは「違法」

(メーカー)
加害企業の特定が出来ない。
「建材メーカーは製造販売の時期や製品がそれぞれ異なり、加害行為の一体性を一律に認めることはできない」
「42社以外に損害を与える企業がなかったと証明されていない」

(一人親方)
個人事業主で労働基準法が適用される労働者に当たらない。

大阪地裁 2016/1 X 国の責任を一部認める。
原告14人に計9746万円

国は遅くとも1975年には、石綿吹き付けなどに従事した作業員が石綿関連疾患を患う危険性を認識できた。
国は1975年時点で、事業者に対して労働者に防じんマスクを使用させるべき義務を明示的に定めるべきだった。

(メーカー)被害者が実際に扱った石綿建材を具体的に特定するものではない。

(一人親方)労働関係法令の保護対象ではない

2016/1/27 建設アスベスト訴訟で国が3度目の敗訴

京都地裁 2016/1 国に対しては原告15人に総額1億418万円、建材企業9社に対しては原告23人に総額1億1245万円の支払いを命じる

国については、
・吹付作業者に対する規制については1972年10月1日以降、
・建設屋内での石綿切断等作業については1974年1月1日以降、
・屋外での石綿切断等作業については2002年1月1日以降、
国が、アスベスト建材について防じんマスクの着用や集じん機つき電動工具の使用、さらには警告表示を義務づけることの規制を怠ったことの違法性を認めた。

(メーカー)
主要なアスベスト建材企業であるエーアンドエーマテリアルやニチアス、ノザワなど9社について、被害者23名との関係で共同不法行為責任(民法719条2項)を肯定し、同種訴訟で初めて企業の賠償責任を認めた。
国の賠償の対象とされてこなかった「一人親方」ら個人事業主も含まれる。

(一人親方)
労働安全衛生法の保護対象に含まれないとして救済を否定したものの、「(一人親方を)保護する法律を定めなかった立法府の責任を問うことで解決されるべき問題

2016/2/2 アスベスト訴訟でメーカーに初の賠償命令

札幌地裁 2017/2 X 国に計1億7600万円の賠償を命じた。

国は1979年には建設現場での石綿の危険性を認識していたと指摘した。
1979年以前に就労していた元労働者には賠償を認めず

(メーカー)
発症原因の企業を特定できないとして退けたが、国と建材メーカーによる損害補償制度の創設の必要性を指摘した。

(一人親方)
「一人親方」として働いた期間の国の責任も認めなかった。

横浜地裁(2陣) 2017/10 国とメーカー2社 (ニチアスとノザワ) に対し、計約3億円を原告39人に支払うよう命じた。国とメーカーの賠償対象が8人。
国のみが29人。メーカーのみが2人。

国は遅くとも1976年までには防じんマスクなどの使用や作業現場への警告表示を義務付けるべきだった。

(メーカー)
同時期までにアスベストの危険性を警告する義務があったのに怠ったと認定
発症原因だとほぼ特定できた建材メーカー2社に賠償を命じた。


なお、工場労働者型(屋内型)については、石綿産業が集中していた大阪府南部・泉南地域の石綿工場の元労働者等や近隣住民及びその遺族を原告とする訴訟について、最高裁判所は、2014年10月9日、元労働者及びその遺族に対する関係で、国の局所排気装置の設置義務付けに係る規制権限不行使の違法を肯定する判断を示した。

大阪アスベスト訴訟(第1陣)については国の責任を全部否定した大阪高裁の判決を破棄・差戻し、大阪アスベスト訴訟(第2陣)については、国の責任を一部認めた大阪高等裁判所の判決を維持した。

その後、大阪アスベスト訴訟(第1陣)については、差戻し後の大阪高等裁判所において、和解の成立に向けた協議を行った結果、同年12月26日、原告との和解が成立した。

2014/10/10 アスベスト訴訟、最高裁 「国に責任」の判断

2014年の最高裁判決後の和解で、条件に合う被害者が新たに同種訴訟を起こせば賠償に応じる方針であるが、対象者のうち多数が訴訟を起こしておらず、賠償金を受け取っていないままである。

厚生労働省は2017年10月2日、アスベスト工場の元労働者や遺族ら2,314人に対し、国賠訴訟を起こすよう個別に通知する方針を正式に発表した。裁判を起こせば、積極的に和解手続きを進めて賠償金を支払う。

2017/10/3 厚労省、アスベスト被害者に国に対する訴訟を督促

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