英のEU離脱交渉、第2段階へ

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EUは12月15日の首脳会議で、英が払う「清算金」などの離脱条件を協議してきた「第1段階」に「十分な進展」があったと判断。「第2段階」となる通商協議に入るための交渉指針を採択した。

通商協議を2018年1月から始めること、離脱後の激変を緩和する「移行期間」を設けることで合意 した。

しかし、EUと英国の自由貿易協定(FTA)など本格的な議論は2018年3月以降になる見通し で、離脱期限を2019年3月に控えて、交渉は「時間との闘い」を強いられる。

EUの基本条約「リスボン条約」の50条によれば、離脱の通知(2017年3月29日)から原則として2年の間で「離脱協定」を結ぶことが必要になる。EU側は欧州議会の承認などの時間も考慮すると、2018年10月までの合意が必要だとしている。

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英国政府は2017年3月29日、「EU離脱通知」を行った。

欧州理事会(EU首脳会議)のDonald Tusk(トゥスク)常任議長は2017年3月31日、今後のEUとしての交渉ガイドラインの原案を公表した。

課題として、次の4つを挙げている。

1. 英国で生活・就労・就学するEU市民、EUで生活・就労・就学する英国市民の互恵・無差別の権利保全

2. 英国でのEUの企業、EUでの英国企業に影響を与えるが、法的空白を避ける必要がある。

3. EUも英国も、離脱前に決めた義務を守る必要がある。全ての法的、予算上の約束、偶発債務を含めた債務についてである。

4. 英国(北アイルランド)とアイルランドの国境問題について、国境復活などの厳格な対応ではなく、柔軟で建設的な解決を模索すべきである。

2017/4/6 EUのBrexit 交渉ガイドライン

英国のEUからの離脱交渉が2017年6月19日、ブリュッセルで始まった

英国は、単一市場からの離脱による英経済への影響を最小限にするため、将来のEUとのFTAを優先的に議論することを求めていたが、交渉入りを急ぐため、下記の協議を最優先する方針で一致した。

(1)英国で暮らすEU市民の権利や地位の保護
(2)最大600億ユーロ(約7兆4000億円)とされる英国の未払い分担金など「清算金」支払い
(3)離脱後の英国とアイルランドの国境管理

3つの分野で十分な進展があったとEU側が認めた後、貿易協定など離脱後の関係に関する交渉に移る。

2017/6/21 BREXIT 交渉 開始

双方はその後、交渉を続けたが、まず「清算金」問題が難航した。

オーストリアのケルン首相は2017年2月、EU離脱に伴い英国は600億ユーロを支払う必要があるとの見解を示した。
これは、2020年まで決定済みの中期予算の拠出金や、英国が拠出に合意した事業費を足し合わせたものとされる。EU職員の年金負担や借入保証なども含む。

これに対し、ジョンソン英外相は、英国がEU離脱後に「巨額」の請求に応じるとEUが期待するのは妥当ではないと述べ、支払いの求めに英政府が抵抗することを示唆した。
EU離脱後もEUの予算を支払う必要はないとした。

9月にメイ首相が200億ユーロを負担する方針を示したと報じられた。

しかし、両者の主張の差が大き過ぎ、交渉は進展しないまま時間が過ぎた。

11月後半に、英政府は、EU側が将来協議に前進させることを確約するのを条件に、清算金を大幅に引き上げて具体的な額(最大450億ユーロともとされる)を提示する方針を固めたと報じられた。

今回、「十分な進展」があったと判断したが、将来的に支払われる額は多くの予測不能な変数に左右されるため、具体額は協議されなかったという。英政府は500億ユーロ前後を支払う意向を示したとする英紙の報道について「憶測」だと一蹴している。400~440億ユーロではないかとみられている。

英国に住むEU市民とEU域内の英国国民、双方の権利については、「保証する」とた。

英国に住むEU市民については保証されるが、EU側はその家族についても今まで同様に英国に移住する権利を求めていた。これに対し、英国側は移動の理由制限という離脱の大きな目的を損なうものとして反対していた。最終決着は明らかでない。

英国とアイルランドの国境管理も大きな問題である。

アイルランド島は、EUに残留するアイルランド共和国と英国の北アイルランドに分かれており、英国が唯一、EU加盟国と陸路で接しているところである。
また北アイルランドは、先住のアイルランド人と後に英国から移住した英国人が、長年にわたり争いを続けてきた。
アイルランドとの統合を悲願に争ってきた北アイルランドのアイルランド人にとっては、アイルランドと遮断されることは耐えられない。

EUの交渉ガイドラインでは、「北アイルランドとアイルランドの国境問題について、国境復活などの厳格な対応ではなく、柔軟で建設的な解決を模索すべきである」としている。

しかし、これを実行すれば、EUーアイルランドー北アイルランドー英本土が結びつき、人やモノが自由に移動できることとなり、EU離脱の意味が無くなる。
逆に北アイルランドと英本土の間を遮断すれば英国が分断される。
メイ首相は、「北アイルランドは英国と同じ条件でEUから離脱しなければならない。経済的にも政治的にも英国との規制の違いは受け入れられない。英国との一体が損なわれることは認められない」と述べていた。

今回、下記の通り合意した。

南北アイルランドの間では従来通り、国境管理(規制)を行わない。

北アイルランドと英国本体との間に新たな規制の障壁を設けない。北アイルランドの企業が英国本体の市場へのアクセスを保証する。

英国は南北アイルランドの協力と、南北アイルランド国境に鉄条網や検問所などハードボーダーを設けないと約束する。これは英国とEUとの将来の関係を通じて達成する。

実際には詳細を先送りしているが、今回の合意で、北アイルランドは英国本体と一体となってEUの統一市場と関税同盟から離脱できると解釈でき、英国側の懸念が消えた模様。

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第2段階では、移行期間をどれだけとするか、EUと英国の自由貿易協定(FTA)をどうするかが問題となる。

英国は離脱後も2年程度、域内無関税などを定めたEU単一市場や関税同盟への残留を求めており、その間にFTA交渉を進める絵を描く。
移行期間中は、EUの法律や制度、共通予算の負担に引き続き応じる考え。

一方、EU側は「期間を制限すべきだ」と、できるだけ短期間にすることを求めている。

FTAではEUとカナダのFTA(2016/10/30調印)が参考となるが、英国側は更に広いものを求める。

EUがG7と初めて結ぶFTAとなる「包括的経済貿易協定(CETA)」で、貿易品目の99%の関税が撤廃される。

英は離脱後も単一市場などの恩恵を享受したいと曖昧な姿勢で、EU側は「いいとこ取りは許さない」と反発 している。

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英国にとっては、政権が弱体であることが問題である。

英下院は12月13日、EUからの離脱条件の最終決定について、締結前に上下両院の承認を得ることを英政府に義務づける法案を賛成多数で可決した。与党保守党からも造反者が出た。

交渉の裁量を制限されるためメイ首相には打撃となり、政府は「失望した」とするコメントを出した。

 

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