公取委、独禁法改正案の通常国会への提出を断念

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公正取引委員会は、入札談合などの違反行為を行った企業への課徴金制度の見直しを柱とする独占禁止法改正案について、1月22日召集の通常国会への提出を断念した。自民党との調整が難航したため。


現在の独禁法による課徴金の概要は次の通り。

詳細 2009/6/5  独禁法改正案成立

主な改正点は次の通り。

現在は公取委が調査に入る前のタイミングで申告した最大5事業者までが減免対象だが、減免対象となる自主申告の事業者数の上限を撤廃する。

申告順位が1位なら全額免除、2位は50%、3~5位は一律に30%が減免されるが、改正案では、申告順位2位以下の事業者に対する減免幅は、事態解明への協力・有効度合いに応じて設定し、自主申告のインセンティブとする。

代わりに、すべての申告事業者を対象に、申告後の継続的調査への協力義務規定を新設する。調査妨害があった場合は課徴金を加算する。

「具体的な情報をほとんど出さないまま、課徴金を減らしてもらおうとする企業もある」が、改正案は事案の解明につながる「貢献度」によって減免の度合いを調整できるようにする。

現在は3年間と定めている課徴金算定の対象期間も見直し、別の法律で定める帳簿の保管義務期間と同じ10年間へと延ばす。

業種別に設けている課徴金の算定率は撤廃し、現在の建設業を含む「製造業等」に設けられた10%(中小企業4%)に統一する。

NTT東日本が発注した職員の作業服の入札談合で、公取委は商社4社の談合を認定するものの、現行法では、卸売業に対する課徴金の算定率(1%)が低く、下限を下回ったことなどで、課徴金は見送る。

談合による直接の売り上げがない場合も課徴金を科せるようにする。

談合からの早期離脱による課徴金減額を廃止する。


公取委は改正案を自民党に説明した。

昨年末に開かれた自民党の競争政策調査会では、改正案に異論はなかったものの、企業側の保護のあり方が課題として浮上した。
具体的には、調査を受ける企業が弁護士とのやりとりを秘密にできる権利(秘匿特権)の法制化を主張する議員が多かった。

本件に関し、経団連は2017年6月30日に次の意見を表明している。

弁護士・依頼者間秘匿特権は依頼者に認められる基本的な権利であり、独占禁止法において制度的に担保すべきである。

秘匿特権を導入するにあたり、新しい課徴金減免制度をより機能させる観点から、その具体的な制度設計について、特に次の3点を強く要望する。

1点目として、結果的に課徴金減免申請を行った場合のみならず、課徴金減免申請を行わなかった場合についても、秘匿特権を認めるべきである。事業者が対応の当初に弁護士に相談する段階では、将来、課徴金減免申請を行うかどうかはわからない。この時点において、弁護士との相談内容について秘匿特権が認められるかどうかの予測可能性がなければ、秘匿特権は認められていない前提で対応せざるを得ず、結局は安心して弁護士に相談できない。

2点目として、弁護士とのコミュニケーションのみならず、弁護士に相談するために社内調査を行い、これをまとめた社内調査文書についても、保護の対象とすることを求める。自主的な社内調査、これに続く証拠の提出を促すためにも、安心して社内調査を行える環境を整えるべきである。

3点目は、今回、秘匿特権で保護されるものが米国の民事訴訟におけるディスカバリーの対象とならないことを確保するため、わが国において秘匿特権が認められていることを、その内容を含め、明確かつ具体的な形で、対外的に明らかにすることである。

米国の民事訴訟においては、海外企業が秘匿特権該当性を主張する文書について、権利放棄(waiver)されているかどうかにかかわらず、その企業の母国において秘匿特権が保障されていない場合には、秘匿特権を認めないとの判断がなされる傾向にあるとの指摘がある。弁護士に相談した内容が米国の民事訴訟においてディスカバリーの対象となり得る懸念があれば、事業者は安心して弁護士に相談できず、わが国における新しい課徴金減免制度の利用を検討するにあたって障害となる。このような懸念に対処する必要がある。

公取委としては、秘匿特権の法制化は公正取引委員会で対応できる範囲を大きく超えているもので、公取委として何か対応ができるという性格のものではないと し、国会提出を諦めた。

1月10日の事務総長会見で、以下の通り述べた。

自民党・競争政策調査会におきまして、課徴金の見直しの御議論をしていただいたわけですけれども、そこにおきましては、独占禁止法の改正に当たって、弁護士・依頼者間秘匿特権の法制化を目指すこと 、それと併せて供述調書等の手続保障も議論するとの取りまとめがなされたと理解しております。

ただ、従前から申し上げておりますように、弁護士秘匿特権などの法制化ということであれば、我が国の法体系全般に大きく関わる事柄でございまして 、公正取引委員会で対応できる範囲を大きく超えているものでございます。ですので、公正取引委員会として何か対応ができるという性格のものではないと理解しております。

公正取引委員会としましては、法制度全体にわたる大きな枠組みでの議論を待つことなく、法改正作業を進めるということはできないと考えておりまして 、次期通常国会への独占禁止法改正法案提出は見送らざるを得ないと判断しております。

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