サウジアラビア政府は2017年11月4日、11人の王族を含む約50人を汚職などの疑いで逮捕した。 その後、逮捕者は増えた。
2017/11/8 サウジ、汚職撲滅を掲げ、王子ら多数を逮捕
これまでに一部は容疑を認め、巨額の資産の没収に応じ、釈放されてきた。
サウジアラビアの司法長官は1月30日、王子や閣僚、大物実業家を対象にした大規模な汚職取り締まりの一環で、これまでに4000億リヤル(約11兆6000億円)を回収したと発表した。
容疑者381人に対する事情聴取を終え、無実が証明された人々のほか、汚職容疑を認めた上で、政府との間で解決金の支払いに合意した者を釈放することを決めたと表明した。また、依然として容疑者56人が拘束下で取り調べを受けていると明らかにした。
過去3か月間近く拘束されていたアルワリード・ビン・タラール(Al-Waleed bin Talal)王子が1月27日、当局との「調停」合意後に釈放された。
同王子は昨年11月の一斉検挙で拘束された大物実業家や閣僚の中で最も著名な人物で、「アラブのWarren Buffett」と呼ばれ、投資会社Kingdom Holding Company の所有者である。
アルワリード・ビン・タラール王子は初代国王アブドゥルアズィーズ・イブン・サウード(Saud)の息子のタラール王子(Talal )の息子。
父親のタラール王子は1960年代初めに財務大臣を務めたが、政治改革を主張し、Red Princeと呼ばれた。王位継承権を放棄して亡命した。
王子は、株式および土地への投資によって富を築いた。資産はおよそ200億米ドルで、世界で8番目、アラブ世界では一番の資産家である。『タイム』誌によって「アラブのWarren Buffett」と名づけられた。
王子が95%を保有するKingdom Holdingは、Citigroup、Apple、21st Century Fox、Twitterといった企業の大株主でもある。1991年に不良債権を多く抱え業績不振に陥っていたCiti Bankの株式10%を5億9000万ドルで取得し、救済した。その後、Citi の経営は持ち直し株価は上昇、王子は高いリターンを得て、次の国際投資へとつなげた。政治とは一定の距離を置く一方、ムハンマド(Mohammad bin Salman)皇太子が進める経済改革には好意的な発言を続けていた。
2015年12月、イスラム教徒入国禁止発言をした共和党のTrump大統領候補のアカウントに「おまえは共和党だけでなく全米の恥だ。おまえの勝利はありえないから大統領選から撤退しろ」罵るメッセージをおくり、Trumpから「まぬけ王子」と罵り返されるなど応酬を繰り広げて注目された。
アルワリード王子は他の容疑者と同様、釈放条件となっていた同国政府との金銭的合意に達した後に釈放された。 サウジアラビア政府筋はAFPに「司法長官が今朝、アルワリード王子との調停を承認し」、釈放に向けた条件が整ったと述べた。合意の詳細は公表されていない。
同政府筋は、アルワリード王子には汚職の罪があるとする一方、同王子は現在も Kingdom Holding Company の所有者かとの質問に対し、「確かにそうだ」と答えている。
Wall Street Journal は昨年12月に、サウジ司法当局が王子に対し釈放の条件として60億ドルを納付するよう要求したと伝えた。欧米の複数のメディアは当局が拘束者らに対して、巨額の財産を放棄すれば釈放を認めるとの条件を提示していると伝え、一連の拘束を主導するムハンマド皇太子がみずからの権力基盤固めに加えて、経済改革に必要な資金の確保も同時に狙っているとの見方も出ていた。
王子が納付に合意した場合、資金を捻出するため保有する株の一部を売却する可能性もあり、注目が集まった。王子は「支払えば罪を認めたことになる」として、支払う意思がないと述べたとも伝えられた。
釈放直前、ロイターの取材に応じたアルワリード王子は、60億ドルの「解決金」を要求されたとの報道を「全て誤りだ」と述べ、今後の裁判や一部財産の没収の可能性も否定した。
拘束された理由について「多数の国内外の事業に関わっていたため、状況を説明していた。(汚職などはなく)全て適切だった」と述べた。その他の人々も多くが拘束を解かれたという。
初代サウード国王の息子アブドラ国王の息子で、王室の警備を担う有力軍事組織、国家警備隊の長を2010年から務めていたミテブ王子(Mutaib bin Abdullah)は2017年11月28日に釈放された。10億ドル余りと考えられる額を支払って決着する合意が成立したという。国家警備相は解任された。
拘束されている王族・元閣僚らのうち、少なくとも他の3人とも決着で合意したという。
本年1月26日には、メディア王と呼ばれるワリード・イブラヒム(Waleed al-Ibrahim)王子が釈放された。英紙 Financial Timesの同日の報道によれば、当局は同王子に対し、衛星テレビ局アルアラビアを傘下に持つMiddle East Broadcasting Centerの株式を引き渡すよう命じていた。
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王子たちの汚職は目に余るものがあり、付加価値税導入や課税に対し、国民から反発を呼ぶ恐れがあった。
Mohammad bin Salman 皇太子主導で設定された2030年までの経済改革計画「ビジョン2030」では、目標達成手段の一つとして汚職抑制を挙げており、今回の動きはこれに沿ったものとも見える。
「ビジョン2030」:
石油依存型経済から脱却し、投資収益に基づく国家を建設していく。
公的投資基金(PIF)の資産を6,000億リヤールから7兆リヤール(約 2兆ドル)に増やす。
目標を達成するための手段として、
・ 国営石油会社Saudi Aramcoの5%未満の新規株式公開(IPO)、
・ 民営化による透明性の向上と汚職抑制、
・ 軍事産業の育成による国内調達の軍装備品支出の割合を50%まで拡大、
・ 外国人による長期的な労働・滞在を可能するグリーンカード制度の5年以内の導入
などがあわせて発表された。
罰金を国庫に入れることで、国民の負担の軽減にもなる。
さらに、解放の条件として、皇太子への忠誠を求めたという。
サウジは初代サウード国王の後を第二世代が順番に継いできた。
第7代のSalman国王はこの慣行を変更し、2015年4月に第二世代(異母弟)のMuqrin皇太子を解任したが、2017年6月21日に第三世代のムハンマド・ビン・ナエフ皇太子(57)を解任し、自身の子であるムハンマド・ビン・サルマン国防相兼副皇太子(31)を皇太子に昇格させる異例の人事勅令を出した。
2017/6/29 サウジ、副皇太子が皇太子に昇格、副首相に就任、国防相などのポストは継続
今回の逮捕者のなかには、皇太子の対抗勢力になり得るアリワード王子、ミテブ王子のほかにも皇太子と同じ第三世代の王子が数人含まれている。
2017年11月5日、マンスール・ビン・ムクリン王子(Mansour bin Muqrin)ら8人のサウジ高官が乗ったヘリがイエメン国境近くで墜落し、王子は死亡した。王子は2015年4月に皇太子を解任されたムクリン王子の息子で皇太子と同じ第三世代。国外逃亡を図った際に墜落したと噂される。
サウジ王家の関係は下記の通り。(名前の右の数字は生年) 青字は今回逮捕された王子。赤字は今回死亡。
第一世代 | 第二世代 (* Sudairi Seven) |
第三世代 | 国王 |
皇太子 |
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Abdullah 国王指名 | Salman 国王指名 | ||||||
Abdulaziz Ibn Saud | ①1932/9-1953/11 | ||||||
Saud | 1902 | ②1953/11-1964/11 | |||||
Faisal | 1906 | ③1964/11-1975/3 | |||||
Nasser | 1911 | ||||||
Turki bin Nasser | 1948 | ||||||
Khalid | 1913 | ④1975/3-1982/6 | |||||
Fahd * | 1921 | ⑤1982/6-2005/8 | |||||
Abdullah | 1924 | ⑥2005/8-2015/1 | |||||
Mutaib bin Abdullah | 1952 | ||||||
Talal | 1931 | ||||||
Alwaleed bin Talal | 1955 | ||||||
Nayef * | 1934 | 2011/10 - 2012/6 死亡 | |||||
Muhammad bin Nayef | 1959 | ②2015/4 - 2017/6 解任 | |||||
Salman * | 1935 | ⑦2015/1- | 2012/6 - 2015/1 国王に | ||||
Mohammad bin Salman | 1985 | ③2017/6- | |||||
Muqrin | 1945 | ①2015/1 - 2015/4 解任 | |||||
Mansour bin-Muqrin | 1974 |
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