米国を除く環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加11カ国は1月23日、前日に続いて首席交渉官会合を東京都内で開き、11カ国による新たな協定(TPP 11)の正式合意にあたる署名式を3月8日にチリで開催することで合意した。
2017年11月の大筋合意で継続協議となった課題が決着した。議長国の日本は早期署名に慎重だったカナダを説得し、11カ国での合意にこぎつけた。
カナダのトルドー首相は1月23日、ダボス会議で「11カ国でのTPP交渉が決着したと喜んで発表したい」とし、「カナダの労働者にも役立つ正しい協定で、貿易の前進につながるものだ」などと 述べた。
これを受けてか、トランプ米大統領は1月25日、ダボス会議出席のため訪問中のスイスで受けた米テレビインタビューで、TPPへの復帰を検討すると表明した。「以前結んだものより、十分に良いものになればTPPをやる」と述べ、再交渉を条件とする考えを示した。
TPP 11は署名国の国内手続きが順調に進めば2019年に発効する。GDPで世界全体の13%、域内人口は同6.7%を占める経済圏となる。日本は開会中の通常国会で協定案承認を目指す。
付記
米国を除く TPP 参加11カ国は3月8日午後、チリのサンティアゴで新協定「TPP 11」に署名した。これを受け、各国は国内手続きに入る。採択した閣僚声明では「迅速に発効させるために国内手続きを完了する決意」と強調した。
正式名称は CPTPP: Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership。世界のGDPの13%、貿易額の15%を占める。米国を含む12カ国で16年に署名したオリジナル版TPPのうち、関税撤廃の約束はすべて維持。ルール分野では22項目の効力を凍結する。
TPP 11 交渉は、2017年11月のベトナムでの閣僚会合で、米国を含む12カ国で合意した内容のうち、米国が強く求めた医薬品開発データの保護期間(原則8年)や、金融規制を巡る企業と政府の紛争解決制度など20 項目を米国が復帰するまで実施を先送りする「凍結」扱いとし、4項目を継続協議とすることで大筋合意 した。電子商取引や労働者保護など先進的な貿易ルールの多くは維持した。
このうち、①マレーシアの国営石油会社と②ブルネイの国内石炭産業の優遇を見直す手続きは「凍結」で決着した。
残る③ベトナムの「労働紛争解決ルール」(民間の労働組合設立が前提となる)については、ベトナムは適用までの猶予期間を要求した。これについてはメキシコが反発、茂木経済再生担当相がベトナムとメキシコを訪問して調整し、ベトナムと各国がルールの適用を一定期間猶予する内容のサイドレター(補足文書)を交わすことで決着した。
問題は④カナダであった。
カナダは昨年の大筋合意時から「文化例外」規定の拡充にこだわり、協定内容の修正を求めてきた。
文化例外とは、自国文化を保護・育成するため、書籍や映像、音楽などの文化産業を自由貿易の原則から除外するというもの 。
フランス語圏で、カナダからの独立機運が強いケベック州は文化的な独自性の維持への関心が強く、カナダの歴代政権も同州への考慮などから、過去の通商協定で文化例外の規定を盛り込むよう求めてきた。ハリウッド映画に代表される米国の巨大な文化産業からカナダやケベック州の文化を守るため、例外規定は決定的に重要だと考えられてきた 。
カナダが求める例外規定が実現すれば、カナダは自国産業への補助や外国からの投資規制ができる。ケベック州では今秋に州議会選が予定されており、トルドー首相の政権運営で同州の重みは増しているとされる。
カナダは現在、米国とNAFTAの再交渉中で、カナダは、TPP 11 で合意したすべての内容について米国が同様の譲歩を求めてくること を懸念しており、TPP 11の協議で安易な合意には踏み切れない。
しかし、この問題は前記の3点がルール適用の凍結や猶予の問題であるのに対し、米国を含めた12か国で合意した内容の修正を求めるものであり、日本をはじめ多くの国が「受け入れ困難」の立場を示した。日本は10カ国での署名に切り替えることも検討したが、米国とカナダが入らなければTPPの求心力がなくなる。
日本はメキシコの協力を取り付け、メキシコはカナダに対し、NAFTA再交渉ではTPP以上に譲歩しないと伝え、米国の通商圧力への共闘姿勢を明確にして説得した。
最終的に日本は、ベトナムと同様にサイドレターで対応する代替案を提示し、カナダも歩み寄った。
この結果、全体で22項目を米国が復帰するまで実施を先送りする「凍結」とし、2項目を各国との間でルールの適用を一定期間猶予する内容のサイドレター(補足文書)を交わすことで決着した。
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