富士フイルムと武田薬品 、iPS細胞の研究、開発で提携

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富士フイルムと武田薬品工業は2月8日、iPS細胞由来心筋細胞を用いた再生医療製品の共同事業化に向けた取り組みを開始したと発表した。

富士フイルムは、米国子会社のCellular Dynamics International, Inc.が開発を進めているiPS細胞由来の心筋細胞を用いた再生医療製品において、全世界での共同事業化に関する優先交渉権を武田薬品に付与 した。対象にするのは重症の心不全患者向けで心筋の機能を回復する製品で、2019年にも米国で治験に入る見込み。

武田薬品は、富士フイルムに対して一時金を支払い(金額は公表せず)、両社は、複数のiPS細胞由来心筋細胞の薬効・安全性評価、実用化に向けたプロセス開発などについて共同研究を実施 する。

富士フイルムが保有する世界トップのiPS細胞関連技術や写真フイルムで培った高度なエンジニアリング技術と、武田薬品が持つ京都大学iPS細胞研究所(CiRA)との共同研究(T-CiRA)で培われたiPS細胞に関する専門技術や医薬品の前臨床・臨床試験に関わる豊富な経験を組み合わせ、心臓疾患患者のために、有効性・安全性に優れた画期的な再生医療製品の普及を目指 すとしている。

武田薬品は2017年に、試薬を手がける和光純薬工業を富士フイルムに売却している。両社が共同事業を始めるのは今回が初めて。

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富士フィルムは再生医療分野で買収を続けてきた。

1)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング

富士フイルムは2010年8月30日、国内で細胞再生医療材料事業を展開するジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)による40億円の第三者割当増資を引き受けると発表した。

増資引き受け後は、同社株式の41%を保有することとなったが、2014年に新株予約権の引き受けで持株比率は50.33%とし、連結子会社とした。

2010/9/3 富士フイルム、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングと資本提携

2)Cellular Dynamics

富士フイルムは2015年3月30日、株式公開買付けによりCellular Dynamics を約307 百万米ドルで買収することで同社と合意した。

山中教授と、オタマジャクシを使って最初のクローンを作りだした Sir John Bertrand Gurdon がノーベル医学生理学賞を受けたが、ウィスコンシン大学のJames Thomson 教授も山中教授と同じ2007年11月に人間の受精卵を使わずに皮膚細胞からiPS細胞ができると発表している。

Cellular Dynamicsは、そのJames Thomson 教授が創始者の一人である。

Cellular Dynamicsが持つ特許の範囲は、体の様々な細胞からiPS細胞を作製する技術、iPS細胞から心筋や糖尿病治療への応用が期待される膵臓のベータ細胞を作る技術など幅広い。中でも2013年に成立した、プラスミドと呼ばれる環状DNAを使ってiPS細胞を作る技術は、がんになりにくい安全なiPS細胞を得るのに不可欠とされる。

2015/4/14 京都大学iPS 細胞研究所、Cellular Dynamics Internationalと提携へ

上記記事のタイトルの「提携」は山中伸弥教授の意向 で、実際にはiPS研究所と営利企業である富士フィルムとは考え方が異なる。

2017/12/6の日経記事では、山中教授は、iPS 細胞を使った再生医療の普及に向け、富士フイルムに特許料を低額にするように要請したことを明らかにした。
同社子会社(Cellular Dynamics) のもつ関連特許は再生医療に重要で、ライセンス料が高額だと低コスト化への足かせになりかねないと危惧する。


Cellular Dynamicsは2016年10月、日本でiPS細胞を安全かつ効率的に作製する技術に関する特許を取得した。通常の採血と同様に無菌状態で低侵襲的に血液細胞を採取し、その血液細胞の遺伝子を傷つけることなくエピソーマルベクターを使用して複数の遺伝子を導入しiPS細胞を安全かつ効率的に作製できるもの。


日本におけるこの細胞の作製には、本特許と京都大学iPS細胞研究所が保有する特許が必要となる。

京都大学は再生医療用で使う iPS細胞の備蓄の際に大腸菌のDNAを使っており、Cellular Dynamicsの特許に触れる恐れがある。

富士フイルムは大学や研究機関に高額の使用料を課すことは避けたい意向とされるが、京大では交渉材料として使うためにも、新たな作製技術の採用を検討している。

臨床試験支援大手のアイロムグループ子会社のIDファーマが特許を持つ作製法で、iPS細胞の作製に必要な遺伝子を導入するのに「センダイウイルス (SeV)」というウイルスの一種を使う。

CytoTune®-iPSは、いわゆる山中4遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF4、cMYC)をセンダイウイルスベクターに搭載したもの。センダイウイルスの最大の特長は、レトロウイルスと異なりRNAのまま細胞質に留まり、そこで複製・転写・翻訳が行われることで、遺伝情報が細胞核内に入って宿主のDNA配列の中に組み込まれないため、染色体に傷を付けることがない。

3)和光純薬

富士フィルムは2016年12月15日、武田薬品から和光純薬工業を買収する契約を締結した。富士フィルムが2017年2月に実施するTOBに武田薬品が応募するもの。

富士は再生医療に関して、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングとCellular Dynamics の買収で、iPS細胞作製などに関する主要特許や細胞の開発・製造ノウハウ(Cellular Dynamics)を取得したが、更にフィルム事業などで開発してきた細胞培養に必要な足場材(リコンビナントペプチド)、一定条件生産技術や微小環境でのコントロール技術などを持つ。

和光純薬は細胞の培養に必要な「培地」(細胞が必要とするアミノ酸、糖、脂質、ビタミン、ミネラルに、成長因子などをバランス良く含む栄養液)を手がけており、富士フィルムに欠けていた部分がそろうこととなる。

和光純薬は2018年4月1日から「富士フィルム和光純薬」に改称する。

2016/12/22 富士フィルム、和光純薬を買収


富士フィルムは相次ぐ買収で再生医療製品の開発・生産に必要な技術を獲得したものの、医薬品は長い時間や膨大なコストが必要で開発リスクが高く、自社で医薬品を市場投入にまでこぎつけるのは難しい。

Cellular Dynamicsが日本でiPS細胞を安全かつ効率的に作製する技術に関する特許を取得した際の富士フィルムのコメントは、「この特許取得を契機にグループのシナジーを発揮させ、iPS細胞の受託生産ビジネスを拡大させていく」というものであった。

今回、富士フイルムは治験などで実績のある武田と組むことで、再生医療分野で実用化を急ぐ。

Cellular Dynamicsはほかに4つの疾患向けに再生医療製品を開発中で、分野ごとに提携相手を選ぶ。

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武田薬品は2015年12月、京大 iPS細胞研究所と の間で iPS細胞研究に関する共同研究を開始した。

がん、心不全、糖尿病、神経変性疾患、難治性筋疾患など6つの疾患領域で、iPS細胞技術をツールとして用い、創薬および難治性疾患の画期的な治療法の創出に対する新たなアプローチの開発に向け、今後10年にわたり研究を行う。

武田薬品は湘南研究所内の研究設備、および10年間で200億円の提携費用を提供する。
さらに、10年間で120億円以上に相当する研究支援(施設、設備、武田薬品の研究者など、さまざまな研究支援)を提供する。

研究人員は全体で100名程度を予定しており、武田薬品湘南研究所を拠点として、グローバルで新たに採用する人員も含み、武田薬品およびCiRAよりそれぞれ50名程度が共同研究に従事する。
また、武田薬品の化合物ライブラリーなど特別な研究資産も用いられる。

共同研究が軌道に乗った段階では、10件前後のプロジェクトが同時進行することになる。

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