飲酒と癌発症リスク

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2月7日付日経夕刊のコラムに東大医学部付属病院の中川恵一氏が「赤ら顔で深酒、リスク高める 」とのタイトルで次のように書いている。

お酒は百薬の長といわれますが、飲酒はせいぜい1合までです。食道がん、咽頭がん、肝臓がん、乳がん、大腸がんなど、多くのがんの発症リスクを高めます。

たとえば日本人男性の場合、日本酒を毎日4合飲むと大腸がんになるリスクは3倍になり、同3合でもがん全体の罹患リスクは喫煙と同じ1.6倍になります。飲酒しながら喫煙するのは最悪の自殺行為で、食道がんのリスクは30倍にも上ります。

とくに、飲むと顔が赤くなる人が深酒をすると、食道がんや咽頭がんになる危険が非常に高まることを知る必要があります。

この中でも触れられているが、ケンブリッジ大学のKetan J. Patel 教授とその研究チームは、1月3日付で 科学雑誌「Nature」にアルコール摂取と癌のリスクの関連性についての新たな研究結果を発表した。

https://www.nature.com/articles/nature25154

研究チームは、アルコールが遺伝子に不可逆の影響を与えると想定し、マウスに薄めたエタノールを与え、染色体分析とDNAシークエンシングを行った。

その結果、アセトアルデヒドが造血幹細胞のDNA二重鎖を切断し染色体異常を引き起こし、造血管細胞に不可逆の影響を与える可能性があることが判明した。 チームは生きている臓器の反応を確認した。

研究の結果、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、乳癌、肝臓癌、大腸癌 (結腸と直腸)の7つの癌の原因となる。

そのリスクは、ワインやビール、蒸留酒などアルコールの種類とは無関係で、飲む量についても「がんに関しては安全な飲酒量などない」。ただし、英国には政府が定めた飲酒のガイドラインがあり、ここで規定している量以下であればリスクは低くなる 。

英国政府のガイドラインが推奨する飲酒量は、1週間で14ユニット以内(純アルコールで112グラム)。これは、4%程度のビールなら7パイント(約3.3リットル)、12%程度のワインなら通常のワイングラス(125ml)で9杯と1/3杯に相当する。

これはアルコール分解能力の高い遺伝子の西欧人の場合であり、下記の通り、分解能力が低い多くの日本人には当て嵌まらない。

また、チームは人体がアルコールの害から守る方法について調べた。

一つはアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH) である。

アルコールは体内にはいるとアセトアルデヒドになるが、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)がこれを分解して酢酸とし、その後、炭酸ガスと水に変える。

研究の結果、ALDHが欠けるマウスにアルコールを与えると、ALDHが機能するマウスに比べ、ダメージは4倍であった。

東南アジアの人にはアルコール分解能力が低下した人が多い。(下記)

もう一つは、DNAの修復機能である。通常、DNAの異常は自動的に修復される。

しかし、特に東南アジアの人の場合、修復機能が働かず、効果的に修復できない。


なお、Patel 教授は、「アルコール処理やDNA修復のシステムは完璧ではなく、こうした自己防衛機能がきちんと作用している人であっても、アルコールが原因でがんができる可能性はあることを忘れてはならない」と注意を促している。


米臨床腫瘍学会(ASCO)のがん予防委員会も2017年11月に、「飲酒はがんの危険性を高める可能性がある」として、アルコールを飲み過ぎないよう注意を呼び掛ける声明を発表している。

https://www.asco.org/about-asco/press-center/news-releases/statement-alcohol-linked-to-cancer-november-2017

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ALDHの一種であるALDH2をつくる遺伝子には、元々の人類が持つ分解能力が高いとされるN型(ALDH2*1)と、中国南部で突然変異で分解能力が低下したD型(ALDH2*2 )がある。

両親からいずれか一つずつを受け継ぐので、人間にはNN型、ND型、DD型の3パターンある。
NN型は酒豪タイプ、ND型はそこそこ飲めるタイプ、DD型は下戸タイプ。

  日本人 白人
NN型 50%強 99%以上
ND型 40%弱 1%未満
DD型 5%前後
白人は悪酔いしない代わりに、飲み過ぎてアル中になる可能性がある。

NN型(酒豪タイプ)はアセトアルデヒドが蓄積しにくいことで、DD型(下戸タイプ)は飲めないため、いずれもがんの危険は少ない
「部分欠損型」のND型の場合、アセトアルデヒドを分解する力が十分ではないので、大量に飲むとアセトアルデヒドが体内にたまり、がんのリスクを高める。

北海道、東北、九州、沖縄地方に酒豪遺伝子であるN型遺伝子の割合が多い。

日本民族が、列島先住民の縄文人(N型)と、中国南部で突然変異で発生したD型を持つ弥生時代以降に大陸からきた渡来人の「二重構造」を持つことを示すものとされる。

都道府県別に見たN型遺伝子(ALDH2*1)の頻度
https://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000000176_all.html


中川恵一 氏のコラムは次の文章で終わっている。

ALDH2の欠損型はアジア人の一部にしかみられません。 ケンブリッジ大学の)この論文は赤い顔で深酒を続ける日本人への警鐘だと思いました。ご用心を。

 

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