米商務省、鉄鋼・アルミの輸入制限を提言

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米商務省は2月16日、鉄鋼製品とアルミニウム (鍛造品及び未加品)の輸入増が安全保障上の脅威になっているとして、トランプ大統領に輸入制限の実施を提言したと発表した。
中国や韓国など幅広い国に関税引き上げや輸入量割当をかけるが、日本も対象に含む可能性がある。

判断期限は鉄鋼が4月11日、アルミが4月19日で、トランプ大統領が最終判断する。

1962年通商拡大法232条(Section 232 of Trade Expansion Act of 1962)
に基づく調査で、国家安全保障を脅かす輸入を阻止する権限を大統領に与えたもの。

トランプ大統領は2017年4月20日、大量の鉄鋼輸入が米国の安全保障を脅かしている懸念があるとして、米通商拡大法に基づいた鉄鋼輸入の実態調査を米商務省に指示した。

 政府のPolicy:

鉄鋼、アルミ、自動車、飛行機、造船、半導体などのコア産業は米国の製造・防衛産業にとり重大な要素であり、不公平な貿易慣行その他から防衛する必要がある.
鉄鋼の場合、米国およびグローバル市場が過剰能力で歪められている。その多くは外国政府の補助金やアンフェアな慣行によるものである。

米国は150件以上の反ダンピング、反補助金の命令を出したが、悪影響を緩和するに至っていない。米国が、他国に過剰能力を減らすよう繰り返し行った努力は効果が出ていない。

過剰能力とアンフェアな輸入により起こった人為的低価格は米国の鉄鋼産業の利益を圧迫し、業界の長期の投資をやめさせ、研究開発の努力を妨げている。これが続くと米国の鉄鋼産業が駄目になる。

 指示

商務長官は、Trade Expansion Act of 1962 (section 232(b))に基づき、鉄鋼輸入の安全保障に対する影響を調査すること。

商務長官は大統領に報告を行うこと。

もし、鉄鋼の輸入が国の安全保障を害する恐れがあると分かった場合は、それを防ぐための行動、手続きを提言すること。

大統領は4月27日、アルミニウムについての調査を指示する大統領令を出した。

大統領は7月21日、防衛産業の強化へ向け、国内製造業の防衛関連製品や部品の供給能力などについての実態調査を指示する大統領令に署名した。

2017/4/22 Trump大統領、鉄鋼輸入規制に向け、実態調査を指示 


今回の調査結果と勧告内容は次の通り。

鉄鋼についての調査結果:

米国は世界最大の鉄鋼輸入国で、輸入は輸出の約4倍。
2000年以降、6つの酸素炉と4つの電気炉が閉じられ、1998年以降、雇用は35%減った。
世界の能力は24億トンで、2000年から127%増加した。一方、需要はもっと緩やかな伸びである。
世界の過剰能力は7億トンで、米国の年間消費量の7倍に達する。中国が最大の生産国、最大の輸出国で、最大の過剰能力を持つ。
中国の過剰能力だけで米国の全能力を超える。
中国は毎月、米国の生産の1年間分を生産する。変圧器用のような特殊タイプについては米国ではメーカー1社が残っているだけ。
2018年2月15日現在、鉄鋼に関して169件の反ダンピング、反補助金命令があり、そのうち29件が中国相手である。更に25件が調査中である。

鉄鋼については3つの選択肢を勧告した。

1 すべての国からの輸入に最低24%の追加関税をかける。
2 下記 12カ国に最低53%の関税をかける。
  中国、ブラジル、コスタリカ、エジプト、インド、マレーシア、韓国、ロシア、南ア、タイ、トルコ、ベトナム
その他の国全てには2017年実績と同じ輸入量割当を設ける。
3 すべての国に2017年実績の63%に相当する輸入割当を設ける。

 

アルミについての調査結果:

一次アルミの輸入は需要の90%になった。2012年は66%であった。
2013年から2016年でアルミ産業の雇用は58%減少した。需要は増えているのに、6社が閉鎖となり、残る5社のうち2社だけがフル稼働となっている。
軍事予算が減っているため、軍用のアルミ消費はメーカーを存続させるには不十分。戦闘機用の高品質アルミメーカーは1社しか残っていない。インフラが主な用途である。
2018年2月15日現在、アルミについて2件の反ダンピング、反補助金命令(いずれも中国)を出しており、ちゅうごくについて4件が調査中。

アルミについても3つの選択肢を勧告した。

1 すべての国からの輸入に7.7%関税
2 中国、香港、ロシア、ベネズエラ、ベトナムの5カ国・地域に23.6%の関税をかけ、他の全ての国には2017年実績と同じ輸入量割当を設ける。
3 すべての国に2017年実績の86.7%に相当する輸入割当を設ける。

 

ロス商務長官は2月16日の電話会見で今回提言した輸入制限について「世界貿易機関(WTO)でも認められた措置だ」と強調した。
WTO協定では、加盟国が安保を理由に輸入制限を取ることを例外として認めている。

第21条 安全保障のための例外
この協定のいかなる規定も、次のいずれかのことを定めるものと解してはならない。
(b) 締約国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める次のいずれかの措置を執ることを妨げること。
(i) 核分裂性物質又はその生産原料である物質に関する措置
(ii) ・・・軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置

ただし定義が曖昧で、拡大解釈して乱用される恐れがあり、WTOを形骸化させかねず、現在の自由貿易体制を揺るがす懸念がある。

中国商務省の貿易救済調査局長は「米国の調査結果に根拠はなく、事実と完全に矛盾している」と反論。「各国が米国にならえば、国際貿易秩序に深刻な影響を及ぼしかねない」と強い憂慮を示した。
また、「米国の最終決定が中国の利益に影響を与える場合、我々は正当な権利を守るため必要な措置を確実に講じる」として、対抗措置を取ることを示唆した。

これまで米国が実施した232条調査は26件ある。主にイランなど敵対国からの石油輸入を対象としてきた。

そのうち、米国の安全保障への脅威と認定された案件は8件だが、その全てが石油関連である。トランプ大統領が輸入制限に踏み切れば、1982年3月にリビア産の原油輸入を禁じて以来の極めて異例の措置となる。

WTO発足(1995年)後に行われた調査は2件ある。

実施 対象 結果
1999 原油 安全保障に対する脅威を認定
ただし、他の施策による対応の方が適切と判断し、大統領に対しては輸入に係る是正措置は行わないよう提言
大統領も同条に基づいた対応はせず。
2001 鉄鉱石、鉄の半製品 安全保障に対する脅威なし


過去の例は下記の末尾に列挙されている。

https://www.bis.doc.gov/index.php/forms-documents/section-232-investigations/86-section-232-booklet/file

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