米大統領、BroadcomによるQualcomm買収禁止命令 

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トランプ米大統領は3月12日、シンガポールに本社を置く通信用半導体大手Broadcom Limitedによる米Qualcomm Incorporatedの買収を禁じる命令を出した。

https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-order-regarding-proposed-takeover-qualcomm-incorporated-broadcom-limited/

外国企業による米国企業への投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS:Committee on Foreign Investment in the United States)の勧告に基づく。
Qualcommは国防総省と取引があり、米国が中国などと競う次世代通信規格の「5G」でも規格の策定や半導体供給で中心的な役割を果たしている。

シンガポールに本拠を置く Broadcom が米国の安全保障を妨げる行為をすると信じさせる十分な証拠があるとし、次のことを命じた。

・今回の買収及び将来の直接間接の同様の買収を禁止
・BroadcomがQualcommの買収を進めるために指名したQualcommの取締役候補の立候補を禁止
・両社は直ちに、永遠に、この買収交渉を終了し、CFIUSにその旨を連絡する。

BroadcomはQualcommに敵対的買収を仕掛けており、Qualcommの株主総会では、6人の取締役を、Qualcommの買収を求めるBroadcomが指名する候補と入れ替えるかどうかを投票することとなっていた。

Broadcomはシンガポール法人ではあるが、実質は米国法人であると主張、米国に本拠を移す議題を株主総会にかけており、買収は米国法人になってから行うとしている。

付記 3月23日のBroadcom株主総会で本社を米国に移す議案が承認された。


今回の買収では、大統領の命令に先立ちCFIUSが懸念を示していた。CFIUS はQualcomm を5G wireless 技術の開発で米国の貴重な財産であるとみている。
短期収益と株主資本主義を重視する
Broadcomが買収すれば、研究開発が滞り、次世代移動通信システム開発で中国の華為技術(Huawei Technologi)などに遅れる恐れがあると懸念した。

3月4日には買収の米国の安全保障への影響を調査するため、Qualcommが2日後の3月6日に予定していた取締役選任の株主総会を1カ月延ばすよう要請した。

半導体業界のアナリストは「Broadcomと華為技術の企業としての近さも警戒された」と指摘する。

Broadcomは3月12日、「Qualcommの買収が安全保障上の懸念を引き起こすという点に強く異を唱える」との声明を出した。

付記

Broadcomは3月14日、不満だが命令に従うと発表した。

Qualcomm は3月17日、同社の創業者の一人 Irwin Mark Jacobsの息子で2014年3月まで同社のCEOをしていたPaul E. Jacobsが同社の買収を検討している旨通知してきたと発表した。

報道では、同氏は長期での開発投資を重視する企業文化を守るため買収を検討しているとされ、同氏が孫正義会長兼社長と親しいことから、ソフトバンクグループが資金の出し手候補として浮上している。
Qualcommはソフトバンクの10兆円ファンド
SoftBank Vision Fundに出資している。

1985年7月にDr. Irwin Jacobsの書斎に7人の実業家が集まり、テレコミュニケーション分野で "Quality Communications" を作ることを決め、Qualcomm を設立した。

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Qualcomm, Inc. は、アメリカの移動体通信の通信技術および半導体の設計開発を行う企業である。

1985年に設立され、CDMA方式携帯電話の実用化に成功して成長を遂げた。

当初は携帯電話端末と通信設備の部門を併せ持っていたが、その後、携帯電話端末部門は京セラに、通信設備部門はスウェーデンのEricssonに売却された。

CDMA携帯電話用チップでは、ほぼ独占に近いマーケットシェアを保持している。

ファブレスメーカーであり、半導体の製造は委託している。

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中国の国家発展改革委員会(NRDC)は2015年2月10日、米半導体大手のQualcomm60.88億人民元(975 百万ドル)の罰金支払いを命じた。中国の独禁法違反では、過去最大の制裁金となる。

NRDCは、主に下記の点を問題とし、「Qualcommの違法行為は悪質で長期にわたり、極めて重大だ。ただちにやめるよう命じた」としている。

(1)不公平な高額の特許使用料を徴収していた。
(2)正当な理由なく、モバイル通信で標準的に必要としない特許の使用料を抱き合わせで販売した。
(3)半導体チップの販売において不合理な条件を押しつけた。

2015/2/14 中国、独禁法違反でQualcomm975 百万ドルの罰金 


Broadcom Ltd.は、無線およびブロードバンド通信向けの半導体製品などを製造販売する企業であるが、2つの段階がある。

当初のBroadcomは1991年に創業された。世界各地の15カ国以上で事業を展開し、約1.1万人を雇用、2009年にフォーチュン500にランクインした。

2016年2月に、Hewlett-PackardやAgilent Technologiesの半導体部門を起源とするAvago TechnologiesがBroadcomを370億ドル(現金170億ドルとAvago株式200億ドル)で買収し、Avago Technologiesは社名をBroadcom Ltd.に改称した。現在のBroadcomは、当初のBroadcomを含めた元のAvago Technologiesである。

Avago Technologiesは法人税率の低いシンガポールを本社にしており、現在のBroadcom もシンガポール法人となる。
President &CEOはHock E. Tan 氏。

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Broadcomは2017年11月6日、Qualcommに対し1030億ドルの非友好的買収案を提示したと発表した。債務を含めると買収総額は1300億ドルとなる。

Broadcomは2016年に2社統合の可能性を打診している。今回は発表前の通知はしていない。

買収が実現すれば、通信用半導体大手2社の統合となり、スマートフォン技術への事業拡大を進めるIntelを追撃することになる。

これに対し、Qualcommは提示額が低過ぎるとして、拒否した。

Broadcomは2018年2月に、約1200億ドルでの新たな買収提案を行ったが、Qualcommはこれも拒否した。
今回の提案がクアルコムの企業価値を著しく過小評価するだけでなく、受け入れ難い高水準のリスクを伴うとした。買収が反トラスト法に抵触しかねない問題も懸念した。

Broadcomは独自のQualcomm取締役候補を擁立し、3月6日の株主総会で取締役を入れ替えて、買収を受け入れさせることとし、両社で委任状争奪戦の様相を見せた。

Broadcomは2017年12月に投資ファンドと組んで、3月の株主総会で選出する11人の取締役候補を発表した。

2018年2月13日、新たな取締役案について当初の11人から6人に減らすと発表した。買収提案を受け入れ、Broadcomに賛同し続けてくれる候補に絞り込んだ。
Qualcomm株主向けの資料も公開し、近年の業績や株価の低迷を指摘して、Broadcomによる買収を支持する取締役を選ぶよう呼びかけた。

QualcommはBroadcommとの交渉の裏で秘密裏にCFIUSに調査依頼を行った。

前述の通り、CFIUSは3月4日に、買収の米国の安全保障への影響を調査するため、Qualcommが2日後の3月6日に予定していた取締役選任の株主総会を1カ月延ばすよう要請、Qualcommはこれに従い、延期した。

これを受け、Qualcommは3月5日、登記上の本社はシンガポールだが、本拠地はカリフォルニア州にあり、役員はほとんどが米国人で、株式の大半は米国の機関投資家が保有しているとし、5月までに登記上の本社を米国に移転すると発表した。そのうえで、Qaulcommが秘密裏にCFIUSに調査依頼をしたことを批判した。

3月12日には、5月に予定していた本社移転を4月初めに前倒しすることを表明、5Gや次世代通信技術の研究開発を維持することや、防衛などに関わる事業を売却しないことも約束した。

しかし、トランプ米大統領は3月12日、買収を禁じる命令を出した。

CFIUSの勧告は、外国企業による米国企業への投資の審査に基づくものである。Qualcommは米国法人になる予定で、米国法人として買収するとしており、本来は審査対象とならない筈である。

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米大統領がCFIUSの異議に基づいて買収を阻止したのは5件目。トランプ氏としては就任以来2件目となる。

最初は 1990年2 月にGeorge Bush大統領が行ったもので、China National Aero-Technology Import and Export Corp(中国宇宙航空技術輸出入公司)による航空機部品メーカーのMAMCO Manufacturing, Inc.の買収である。

オバマ大統領は2012年9月28日、「国の安全保障に関わる」として、中国の三一重工系企業Ralls Corp. によるオレゴン州の米海軍施設近くの風力発電企業4社の買収と所有を禁止し、本年取得した所有権を放棄することを求めた。

2012/10/4  オバマ大統領、米国内での中国企業の風力発電買収を阻止 

しかし、これについては、2015年11月4日、三一重工と米国政府の間で全面和解に至った。
外国投資委員会(CFIUS)はRallsが買収した他の風力発電事業が国の安全保障上で問題がないことを認め、将来の更なる投資を歓迎する。

2015/11/10 中国の三一重工、米国での風力発電買収阻止事件で米政府と和解、実質勝利

オバマ米大統領は2016年12月2日、中国の福建芯片投資基金による半導体製造装置メーカーのドイツのAixtron のカリフォルニア州の子会社 Aixtron Inc の買収を禁止すると発表した。軍事利用が可能な技術が対象に含まれ、米国の安全保障の脅威になると判断した。

2016/12/7 米政府、中国企業による独社の米子会社買収を禁止 

トランプ米大統領は2017年9月13日、中国系投資ファンドCanyon Bridge Capital Partners による米半導体メーカー Lattice Semiconductor の買収を阻止する命令を出した。

2017/9/18 米、中国系ファンドによる半導体メーカー買収阻止

今回が5件目である。George Bushが1回、Obamaが2回、Trumpが2回である。

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