日本経済新聞(2018/3/20 )によると、デンソーが有機EL事業のJOLEDに300億円を出資する。
JOLEDは2019年中に世界初となる低コスト方式での有機ELパネルの量産を始めるが、デンソーとパネルを共同開発して車載分野を強化し、先行する韓国勢に対抗する。
JOLEDは、RGB印刷方式による21.6型4K高精細の有機ELパネルを世界で初めて製品化し、2017年12月5日より出荷を開始した。
大画面に均一に一括塗布する設備技術・プロセス技術の実用化とともに、光取り出し効率が高い独自の「トップエミッション構造」により、優れた色再現性や広視野角を実現した。住友化学が開発した高分子発光材料を使用する。印刷方式は蒸着よりコストが安い半面、パネルが大型になるほど均一に材料を塗布するのが難しかったが、これを使えば塗布のムラができにくくなる。
(JOLEDについて)
中国企業の大増設により、液晶パネル業界には「2012年問題」が発生し、2011年7-9月期に液晶パネルで世界の上位4位を占めるSamsung、LG、友達、奇美の4社が赤字となり、シャープは2012年3月期決算で3761億円の最終赤字を計上した。
これに対し、中小型液晶については日本勢はまだ頑張っていたが、個別には十分な能力増強投資ができず、競争力を失ったテレビ用パネルの二の舞いになる可能性が高い。
このため官民ファンドの産業革新機構は東芝とソニー、更に日立ディスプレイズの中小型の液晶パネル事業を統合させ、機構が2000億円を出資して「ジャパンディスプレイ」を設立した。
しかし、最大顧客の米アップルが iPhone の新モデルで初めて有機ELを採用したことから、ジャパンディスプレイも有機EL事業の進出を図った。2015年1月にソニーとパナソニックの有機ELディスプレイパネルの開発部門を統合し発足したJOLEDに15%を出資した。
ジャパンディスプレイは2016年12月にJOLEDに51%の出資とすることを決めたが、中期経営戦略の見直しに伴い、実現していない。
ジャパンディスプレイは主力のスマートフォン向けの液晶パネルが振るわず、2017年3月期決算の純損益は317億円の赤字で、3年連続の赤字だった。
2016年にも資金難に陥り、産業革新機構から750億円の支援を受けたが、すでに底をついている。2017/8/4 ジャパンディスプレイ、1千億円融資要請
付記 ジャパンディスプレイは2018年3月30日、JOLEDへの51%出資方針を取り消した。
JOLEDは2017年12月、生産拡大のため2018年3月末までに約1000億円の第三者割当増資を実施する方向で検討していると発表した。
約1000億円の3分の2をジャパンディスプレイの能美工場(石川県能美市)に投資し、生産規模を現在の10倍程度まで引き上げたい考え。残りは運転資金に充てる。
増資引き受けについて国内外の装置メーカーや材料メーカーなどと交渉している。
日経報道では、今回、この1000億円のうちの500億円を決めたという。
デンソーの300億円に加え、既存株主のパナソニックとソニー、発光材料の住友化学、生産設備のSCREENホールディングスもそれぞれ50億円ずつ出資する。
SCREENホールディングスは、京都府京都市にある半導体・液晶製造装置・印刷関連機器などの産業用機器を製造する企業グループの持株会社
残り500億円については、国内外の部材メーカーや商社などと交渉を続けている。
報道の通りなら、1000億円増資後の同社の出資は次の通りとなる。2018/8/23 の発表後の出資は下記の通り。
現状 増資-1 増資-2 増資完了後 産業革新機構 75% 196億円 196億円 ジャパンディスプレイ 15% 39億円 39億円 Sony 5% 13億円 13億円 Panasonic 5% 13億円 13億円 デンソー 300億円 300億円 豊田通商 100億円 100億円 住友化学 50億円 50億円 SCREEN 20億円 20億円 others(交渉中) 合計 262億円 470億円 付記
JOLEDは8月23日、第3者割当増資により、総額470億円を調達したと発表した。
引受先の内訳はデンソーが300億円、豊田通商が100億円、住友化学が50億円、SCREENファインテックソリューションズが20億円。
デンソーとは車載向けディスプレイの開発で協力するほか、豊田通商には販売面の協力を仰ぐ。住友化学とは材料開発での協力体制を強化する。JOLEDは同日、生産設備の開発設計を行うパナソニック プロダクションエンジニアリング、ディスプレイ製造工程で使われる各種装置と関連サービスを提供するSCREENファインテックソリューションズと、主にテレビ向けを想定した、印刷方式による大型有機ELディスプレイ製造のための印刷設備の開発・製造・販売・サービスに関する業務提携契約を締結したと発表した。
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デンソーは、「先進的な自動車技術、システム・製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカー」である。
新技術の開発のため、積極的な投資・出資を行っている。
センサーやカメラを大量に搭載する次世代車向けでは、情報を分かりやすく表示するディスプレーの需要が高まる。
JOLEDとパネルを共同開発し、車向けの新たな販路を開拓する。 速度などの計器類を統合した大型パネルや車外のカメラ画像を映し出す「電子ミラー」などへの採用を見込んでいる。
デンソーは3月9日には、自動運転システムを始めとして、高度化、複雑化、大規模化する車両向け各種システムの開発を加速するため、そのキーデバイスである半導体の最先端技術を保有するルネサス エレクトロニクス株式の保有比率を引き上げることを決定した。
産業革新機構から4.5%分を買い取り、出資比率を5.00%とする。
ルネサスエレクトロニクスは2010年4月に、三菱電機および日立製作所から分社化していたルネサス テクノロジと、NECから分社化していたNECエレクトロニクスの経営統合によって設立された。
その後、下記の変遷をたどった。
2012/12 産業革新機構・トヨタ自動車・日産自動車など9社に1500億円の第三者割当増資
産業革新機構 69.16% デンソー 0.5%
2017/6 産業革新機構などの持ち株の一部を国内外投資家に売却
産業革新機構 50.10%
2018/3/14 産業革新機構が持ち株(4.5%分)をデンソーに売却
産業革新機構 45.60%、デンソー 5.00%
付記 ルネサスは4月3日、産業革新機構が12.2%分を放出すると発表、日立とNEC(退職給付信託)も一部売却する。
革新機構 45.6%→33.4%、日立 5.6%→3.7%、NEC 6.4%→4.3%
デンソーはまた、トヨタが自動運転技術の先行開発分野での技術開発を促進するために設立する「Toyota Research Institute Advanced Development」にアイシンとともに出資する。
共同技術開発を行うことに加え、3社で3000億円以上の開発投資を実施することに基本合意した。
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