米EPAのScott Pruitt長官は4月2日、オバマ前政権が決めた自動車の燃費規制の強化(2022~2025年型モデル)について「現実に適合しておらず、 見なすべきだ」との考え方を発表した。
「Obama政権の決定は間違っている。評価のプロセスを政治的ご都合主義で短縮し、現実に即していない基準について想定し、高すぎる基準を定めた」と主張した。
どう見直すかは「今後、検討する」として明らかにしなかった。
米国自動車工業会は、今回のEPAの決定を歓迎し、「今後もより多くの米国人が新車を手頃な価格で購入できる」と述べた。
一方、カリフォルニア州のブラウン州知事は同日、「大気を汚染し、すべての国民の健康を危険にさらす」と痛烈に批判する声明を出した。
Clean Air ActによりEPAは米国の燃費の基準を決めるが、カリフォルニア州はEPAにより適用除外(waiver)が認められており、連邦政府の燃費規制よりも厳しい基準をを決める権限を与えられている。自動車メーカーは州によって仕様を変えられないため、トランプ政権が規制を緩和しても、賛同しない州があれば実効性が伴わない。
このカリフォルニア州のwaiverについては、Pruitt長官の主導でEPAで再検討中で、長官は次のように述べた。
「協調的連邦制 (cooperative federalism) は一つの州が残りの州全ての基準を決められるということではない。EPAが国の基準を設定するというのが米国にとってベストであり、EPAが基準を決めるのに際し、カリフォルニア州を含めた全ての州と協調してやっていきたい。」
しかし、カリフォルニア州は伝統的に民主党の支持者が多く、waiverが取り消された場合、トランプ政権との長い法廷闘争が始まる可能性が高い。
米国車の燃費基準を大幅に緩和する一方で、トランプ政権は輸入車のみを対象とする環境規制強化を検討している。 4月6日にWall Street Journal が報じた。
輸入車の競争力をそぐとともに、米国での自動車生産を促す狙いとみられる。
トランプ大統領がEPAなどの関係機関に規制強化案の策定を指示したという。
米国外の自動車メーカーの反発が予想されるだけに、政権内には「あまりに過激な政策だ」と指摘する声もあるという。
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米国では、2011年1月に、2016 Model Year の Light-duty vehicleのCO2排出量を250g/mile、CAFE燃費を35.5 mpg(15.1km/L)とする規制が発効した。
2012 MY 2013 MY 2014 MY 2015 MY 2016 MY Passenger Cars 33.8 34.7 36.0 37.7 39.5 Light Trucks 25.7 26.4 27.3 28.5 29.8 Combined Cars & Trucks 30.1 31.1 32.2 33.8 35.5
オバマ大統領は2011年7月に、次の段階として2025 Model YearのCO2排出量を163g/mile、CAFE燃費を54.5 mpg(23.2km/L)とする規制案を提案した。
オバマ政権は2012年8月28日、54.5 mpg の燃費規制を正式に発表した。
CO2排出基準(g/mi) と燃費(mpg) は下記の通り。
2020 2021 2022 2023 2024 2025 g/mi
Passenger Cars 182 172 164 157 150 143 Light Trucks 269 249 237 225 214 203 Combined Cars & Trucks 213 199 190 180 171 163 mpg Combined Cars & Trucks 40.0 41.7 46.8 49.4 52.0 54.5
この時点では、2022年から2025年にかけての平均燃費値について2018年4月までに再審査するとしていたが、EPAはトランプ政権発足の直前の2017年1月13日、再審査をしない方針を突然決めた。(今回、長官が「評価のプロセスを政治的ご都合主義で短縮」としたポイントである。)
これにより、54.5 mpg の燃費規制の維持が決まった。
Trump大統領は2017年3月15日、デトロイト近郊を訪問し、アメリカの大手自動車メーカーのほか、トヨタ自動車や日産自動車、ホンダなど日本の自動車メーカーの幹部も参加した会合を開 いた。
大統領は、「自動車産業は打撃を受けてきたが、それも長くは続かない。自動車産業を妨げるいかなる規制も取り払う。私は 今日、規制を決めたオバマ前大統領の大統領令を取り消すことを宣言する」と述べた。
2017/3/22 Trump 大統領 自動車の燃費規制見直しを発表
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Scott Pruitt EPA長官は2016年12月8日に、トランプ次期大統領に指名され、2017年2月17日の上院で、賛成52対反対46の僅差で承認された。
連邦政府の規制を制限し、州政府の規制監督権限を取り戻すことを目指すなどEPAには批判的な立場で、気候変動に懐疑的であり、オバマ政権が気候変動対策の柱に据えたCO2排出規制「クリーン・パワー・プラン」にも反対していた。
Scott Pruitt EPA長官は最近、さまざまな問題で報道されており、ジョン・ケリー大統領首席補佐官は先週、長官を更迭すべきだとトランプ大統領に進言した。
エネルギー業界のロビイストの家族からワシントンにあるコンドミニアムを相場より安い料金で借りていた。使った時だけ1泊50ドル支払。
EPAの職員2人の給料をホワイトハウスの反対を押し切り、大幅に引き上げ、これを問題にした数人のスタッフを左遷した。
セキュリティガードを24時間付けている。
移動にファーストクラスを使用、地元のオクラホマへの頻繁な帰省、等々。
大統領は長官に関する報道を Fake News とし、素晴らしい仕事をしているとツイートした。こんな話を信じているのかとも。
大統領は長官の規制緩和措置を歓迎し、自身の政策の強力な擁護者として同氏を高く評価しているという。
Do you believe that the Fake News Media is pushing hard on a story that I am going to replace A.G. Jeff Sessions with EPA Chief Scott Pruitt, who is doing a great job but is TOTALLY under siege? Do people really believe this stuff? So much of the media is dishonest and corrupt!
しかし、4月6日のホワイトハウスの会議の席で、大統領は長官から問題になっている事態について問いただしたとされる。
その後のツイートでは、業績を誉め、セキュリティガードの費用はやや多いが、家賃や旅費は問題ない、よくやっていると述べた。
While Security spending was somewhat more than his predecessor, Scott Pruitt has received death threats because of his bold actions at EPA. Record clean Air & Water while saving USA Billions of Dollars. Rent was about market rate, travel expenses OK. Scott is doing a great job!
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付記 2018/7/6
公費を無駄遣いしていると批判を浴びていたPruitt EPA長官が2018年7月、辞任した。移動でのファーストクラス利用や、ロビイストの妻からコンドミニアムを1泊50ドルで借りていた問題などで、共和党議員からも同長官の職務遂行能力に疑念が示されていた。
トランプ大統領は7月5日のツイッターで辞任を承認したと述べた。
I have accepted the resignation of Scott Pruitt as the Administrator of the Environmental Protection Agency.
Within the Agency Scott has done an outstanding job, and I will always be thankful to him for this.The Senate confirmed Deputy at EPA, Andrew Wheeler, will on Monday assume duties as the acting Administrator of the EPA. I have no doubt that Andy will continue on with our great and lasting EPA agenda. We have made tremendous progress and the future of the EPA is very bright!.
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