米国の物言う株主の投資会社 Elliott Managementは、2015年の Samsung Groupの第一毛織とサムスン物産の合併を巡り、米韓自由貿易協定(FTA)の「ISDS(投資家と国家の紛争解決)」条項に基づいて韓国政府に6億7000万ドルの損害賠償を要求した。
韓国法務省が5月11日、Elliott から受け取った仲裁意向書を公開した。FTAのISDS条項を根拠に企業が韓国政府に賠償を求めた初のケースになる。
付記
米国のヘッジファンドのMason Capital Management は6月8日、韓国政府に仲裁意向書を提出した。当時Samsung C&Tに2.2%出資しており、合併に反対した。175百万ドルの賠償を要求。
付記
韓国法務部は7月13日、Elliott ManagementがISDS仲裁申請書を前日に提出した、と明らかにした。韓国政府に7億7000万ドル(仲裁意向書より1億ドル増)を被害補償額として請求した。政府関係者の不当な決定でサムスン物産の株価が下落し、7億7000万ドル以上の損害が発生したと主張した。仲裁地を英国と提案した。
第一毛織とサムスン物産(Samsung C&T) の合併は2015年7月18日の臨時株主総会で承認を受け、9月1日に新しいサムスン物産(Samsung C&T) となった。
新しいSamsung C&T は李一族のSamsungグループ支配構造の事実上の持ち株会社となる。
2014/12/2 Samsung Group の持株会社 第一毛織の上場 付記参照
2017/12/26 韓国公取委、2年前のたサムスン物産と第一毛織合併での株式売却命令を遡及修正
朴槿恵前大統領とその友人の国政介入事件の裁判で、国民年金が第一毛織とサムスン物産の合併の賛成を決めたのは、サムスンから朴槿恵前大統領への賄賂の効果であると認定された。
韓国の前大統領、朴槿恵被告側への贈賄罪などに問われた国政介入事件で、ソウル中央地裁は2017年8月25日、サムスングループを事実上率いる李在鎔・サムスン電子副会長に懲役5年(求刑12年)の判決を言い渡した。贈賄や横領など問われた罪のすべてを有罪とした。
李在鎔副会長の主要容疑は賄賂供与など5つ。
特検チームはこうした支援が2015年7月に朴大統領が保健福祉部傘下の国民年金公団を通じサムスン物産と第一毛織の合併を助けたことに対する答礼だとみており、これらの資金協力が李副会長の指示もしくは了解のもと実行されたとし、副会長に崔被告側への贈賄罪が成立すると判断した。
2017/8/28 サムスン電子副会長に実刑判決、ソウル地裁
Elliotは、合併の成立は不当であり「6億7000万ドル以上の被害を受けた」として、仲裁裁判所を通じて韓国政府に賠償を求める考えを明かした。
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ISDS(Investor‐State Dispute Settlement)条項は、企業が進出先の政府から不公平な待遇を受けたり、財産を不当に収用されたりした場合に、仲裁を申し立てることができる仕組み。
韓国法務省によると、FTAを巡っては初のケースだが、同国政府が国家間の投資協定を根拠に企業から賠償請求を受けるのは5件目となる。
米国系ファンドの現代グロービス、UAEのInternational Petroleum Investment Co (IPIC) のオランダ法人 Hanocal BV、イランのEntekhab Industrial Group、と他に1件(不明)。
2015/9/25 韓国にイラン企業から3番目のISD提起
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韓国の財閥は複雑な資本関係を改善するグループ改編の途上にあり、改編計画が創業家に有利な条件で立てられているとの批判がつきまとう。
Elliottは5月11日、現代自動車グループの再編について5月29日に予定する臨時株主総会で、反対票を投じる意向を表明した。
Elliott は、現代自動車と起亜自動車、現代モービスというグループ3社の株式を合わせて10億ドル余り保有していること、普通株の保有比率は3社それぞれで1.5%を超えることを明らかにしている。
現代自動車グループは未来事業の競争力を強化し、循環出資など政府の規制を解消するための出資構造の再編に乗り出した。
グループの財源と資源を効率的に配分し、各グループ社の事業力量と独立性ㆍ自律性を向上し、同時に大株主の責任経営を強化するためとしている。
現代モービスと現代グロービスの分割合併、循環出資の完全解消などで行われる。
現代モービスは、投資や重要部品の事業部門と、モジュール及びAfter Service 部品事業部門を人的分割する。
モジュール及びAS部品事業部門を現代グロービスと合併する。
これに対し、Elliottは、同グループの再編計画は一部の株主を不当に扱っており、事業上の論理的な考え方が欠けていると主張する。
現代モービスの一部事業を現代グロービスに移すのではなく、現代自動車と現代モービスを合併させ、グループ全体を統括する持ち株会社を創設するよう提案している。
グループ内の12兆ウォン(約1兆2100億円)を超える余剰資金を株主に還元し、配当を引き上げ、自社株の消却をすべきだと求めたほか、ガバナンス改善のため新たな外部取締役の起用を増やすよう各社に促した。現代自動車と現代モービスが合併すれば、資産規模で世界7位の自動車会社になるとする。
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