水俣病の公式確認から62年を迎えた5月1日、水俣病犠牲者慰霊式が熊本県水俣市の「水俣病慰霊の碑」前で営まれた。
参列した原因企業チッソの後藤舜吉社長(83)が式後の取材に対し、水俣病被害者救済法(特措法)に盛り込まれた事業子会社JNCの株の売却要件の一つである「救済の終了」について「異論はあるかもしれないが、私としては救済は終わっている」と述べた。子会社JNCの売却について、「ぜひやりたいと思っています」と述べた。
熊本、鹿児島両県では計1900人近くが患者認定を申請中で、認定や損害賠償を求めた訴訟も各地で続く。
しかし後藤社長は、「救済とは特措法による救済という意味で、あたうかぎり広く救済した。いろいろ紛争がありますけども、(現在も続く訴訟の原告は)その広い範囲の救済にもかからなかった人たちですから」と答えた。
特措法に基づく救済策は2014年に対象者の判定が終わっている。後藤社長の主張によると、特措法による「救済」は終了しており、JNCの株の売却要件の一つである「救済の終了」は充足しているというもの。
後藤氏は、チッソで長く水俣病対応を担当し、社長・会長を経て最高顧問となっていたが、2017年6月の株主総会後の取締役会で社長に復帰した。
JNC売却後にはチッソ本体の清算が可能となるため、補償主体が消えるとの懸念が強い。
現在も患者認定を求める人がおり、訴訟も続いていることから患者・被害者団体からは「加害企業としてあるまじきことだ」と批判の声があがっている。 水俣病不知火患者会の事務局長は「被害者が救済を求めて裁判を続ける現実を見ていない。被害者に対する冒瀆だ」と批判した。水俣病被害者互助会の事務局長は「自分たちが水俣病で何をしたのか理解していない」と述べた。
今回の発言を受け、中川雅治環境相は「現時点で患者認定の申請が出されていて訴訟も提起されている。救済の終了とは言いがたい」との見解を示した。
付記 チッソは5月18日、下記の「お詫びと撤回」を発表した。
本年5月1日に開催された水俣病犠牲者慰霊式後の私の発言により、患者の方々、ご家族、ご遺族の方々を始め多くの方々に不安と不快の念を与えてしまいましたことに対し、誠に申し訳なく、深くお詫びを申し上げます。
当社におきましては、水俣病補償を至上の命題に掲げ、その完遂のため必死の努力を傾けて参りました。また、「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」に基づく救済措置対象者の判定が終了した旨の発表が平成26年8月29日に環境省からあり、一時金の支払いを誠実に実施しているところでございます。このことから、一定の区切りがついていることを申し上げました。
そのような趣旨でございましたが、私の言葉足らずによりこのような事態となりましたことを深く反省し、「救済の終了」を始めとする皆様に不安と不快の念を与えてしまいました発言を撤回いたします。
生存患者の方々に対する継続補償はもとより、「公害健康被害の補償等に関する法律」の認定や訴訟に基づく新たな補償責任発生の可能性もあることも十分承知しております。これらの責任につきましてもこれまで通り真摯に対応して参る方針に変わりはなく、今後も水俣病補償完遂のため努力を傾けて参ります。
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チッソは2010年11月12日、水俣病被害者救済特別措置法(特措法)に基づき、同社を補償部門と事業部門に分社化する「事業再編計画」の認可を松本龍環境相に申請、12月15日、「事業再編計画」が認可を取得した。事業再編計画では、事業会社の株式の譲渡を進めるものではなく、いかなる場合も認定患者の補償責任完遂、被害者救済を行うとなっている。
2011年1月12日、チッソの100%出資で資本金は150百万円の新会社「JNC株式会社」(社名はJapan New Chissoから)が設立され、3月末に親会社チッソから機能材料分野、化学品分野及び加工品分野などの事業継続に必要な土地や設備などの財産譲渡を受けた。
親会社は当面、子会社の株式配当益で補償業務を担い、3年後をめどに株式を他者に全面譲渡、譲渡益を熊本県に納付して補償業務を委ね、清算するという構想である。
なお、特措法では、「救済の終了」と「市況の好転」をJNC売却の条件としている。
水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法
(事業会社の株式の譲渡)第十二条 特定事業者は、事業会社の株式の全部又は一部を譲渡しようとするときは、あらかじめ、環境大臣の承認を得なければならない。2 環境大臣は、前項の承認をしようとするときは、あらかじめ、総務大臣及び財務大臣に協議するとともに、第十七条第二項の指定支給法人にその旨を通知しなければならない。3 環境大臣は、第十九条第一項の補償賦課金の確保及び公的支援に係る借入金債務の返済の確保その他債権者の保護に関する政府の方針に従って、次の各号のいずれにも適合するものであると認めるときは、第一項の株式の譲渡に係る承認をすることができる。一 第十九条第一項の補償賦課金を株式の譲渡により確保できること。二 公的支援に係る借入金債務の返済に支障が生じないと見込まれること。三 第一項の株式の譲渡の後に債権者の一般の利益が害されることがないこと。第十三条 事業会社の株式の譲渡は、救済の終了及び市況の好転まで、暫時凍結する。
チッソはJNCを売却した後、チッソ本体の清算が可能になる。このため、補償の主体が消えるとの懸念が患者・被害者団体にある。
2010/11/15 チッソ、事業再編計画の認可申請
2011/1/12 チッソ、「事業再編計画」に基づく、新会社「JNC株式会社」を設立
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