EU離脱を巡り、英国が混乱している。
翌7月9日、ジョンソン外相が辞任した。
EUとの合意のないまま「無秩序離脱」を迎えるリスクが高まった。
今後英政府が体制を立て直せても、EUは、通商協議のほか、アイルランド国境問題など離脱協定の全てで合意できなければ交渉を「白紙」に戻す方針。
2019年3月に混乱なく離脱するためには、英・EUは2018年10月までに離脱条件や将来関係の大枠で合意する必要がある。10月までの残り3カ月でメイ氏が党内融和とEUとの離脱交渉を進められなければ、EUと合意のないまま離脱する「無秩序離脱」 は現実味を帯びる。
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これまでの経緯は下記の通り。
スコットランドは、全選挙区で「残留」支持であった。
2016/6/25 英国、EU離脱
英国のTheresa May首相は2017年1月17日、EUからの離脱を巡り、移民制限や司法権独立など英国の権限回復を優先し、EU単一市場から完全に離脱すると表明した。
単一市場に残りながら移民を制限する "soft Brexit " は、「いいとこ取り」を認めると他に離脱国が出ることを恐れるEUが認めないことが確実なため、"hard Brexit" に踏み切った。
2017/1/19 BREXIT の12のポイント
欧州理事会(EU首脳会議)のDonald Tusk常任議長は2017年3月31日、今後のEUとしての交渉ガイドラインの原案を公表した。
課題として、次の4つを挙げている。
1. 英国で生活・就労・就学するEU市民、EUで生活・就労・就学する英国市民の互恵・無差別の権利保全
2. 英国でのEUの企業、EUでの英国企業に影響を与えるが、法的空白を避ける必要がある。
3. EUも英国も、離脱前に決めた義務を守る必要がある。全ての法的、予算上の約束、偶発債務を含めた債務についてである。
4. 英国(北アイルランド)とアイルランドの国境問題について、国境復活などの厳格な対応ではなく、柔軟で建設的な解決を模索すべきである。
2017/4/6 EUのBrexit 交渉ガイドライン
EUは2017年12月15日の首脳会議で、英が払う「清算金」などの離脱条件を協議してきた「第1段階」に「十分な進展」があったと判断。「第2段階」となる通商協議に入るための交渉指針を採択した。
2017/12/20 英のEU離脱交渉、第2段階へ
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上の4つの課題のうち、英国とアイルランドの国境管理が解決不能の問題として残った。
アイルランド島は、EUに残留するアイルランド共和国と英国の北アイルランドに分かれており、英国が唯一、EU加盟国と陸路で接しているところである。
また北アイルランドは、先住のアイルランド人と後に英国から移住した英国人が、長年にわたり争いを続けてきた。1998年の聖金曜日の和平合意により、争いが終結した。
北アイルランド人は英国籍かアイルランド国籍、あるいは両方を取得できるようになり、さらに、検問がなくなって国境地域は通商で大きな恩恵を受けるようになった。英EU離脱はこれら全てを切り崩してしまう。
アイルランドは、逸早く国境問題を英EU離脱協議の優先課題にするようEU諸国を説得した。
英国がアイルランドの要求(北アイルランドの現状維持)に応じない場合、アイルランドは離脱交渉の進め方に拒否権を使うと明言している。
EUの交渉ガイドラインでは、「北アイルランドとアイルランドの国境問題について、国境復活などの厳格な対応ではなく、柔軟で建設的な解決を模索すべきである」としている。
しかし、これを実行すれば、[EU=アイルランド]と[北アイルランド=英本土]が結びつき、人やモノが自由に移動できることとなり、EU離脱の意味が無くなる。
逆に北アイルランドと英本土の間を遮断すれば英国が分断される。
メイ首相は、「北アイルランドは英国と同じ条件でEUから離脱しなければならない。経済的にも政治的にも英国との規制の違いは受け入れられない。英国との一体が損なわれることは認められない」と述べていた。
2017年12月に、下記の通り合意した。
南北アイルランドの間では従来通り、国境管理(規制)を行わない。
北アイルランドと英国本体との間に新たな規制の障壁を設けない。北アイルランドの企業の英国本体の市場へのアクセスを保証する。
英国は南北アイルランドの協力と、南北アイルランド国境に鉄条網や検問所などハードボーダーを設けないと約束する。これは英国とEUとの将来の関係を通じて達成する。
実際には詳細を先送りしているが、今回の合意で、北アイルランドは英国本体と一体となってEUの統一市場と関税同盟から離脱できると解釈でき、英国側の懸念が消えた模様。
しかし、実際には、南北アイルランドにハードボーダーを設けずに、北アイルランドが本土と一体になってEU統一市場と関税同盟から離脱する方法は見つかっていない。離脱交渉の最大の難関となった。
ここにきて、一時的対策「backstop措置」 が提案された。(Backstopは野球のバックネットの意味)
EU案は、英領北アイルランドとアイルランド共和国との国境を目に見えないままにし、北アイルランドを関税同盟に残す もの。
英国は、これは英本土と北アイルランドの間に関税国境をつくるものとして反対した。
英国は正式提案していないものの、EU案を英国全体に適用すべきだとの考えを示唆し た。これはアイルランド島内での国境設置を回避する最後の手段として、英国全体が単一市場と関税同盟の一部にとどまることを意味する。
しかし欧州委員会はこれに反対しており、北アイルランドに特別な地位を与えるだけにとどめたい意向 である。
英国は6月7日、アイルランド問題解決のためのTechnical note: temporary customs arrangement を発表した。
EUの提案は、英本土と北アイルランドの間に関税国境をつくるもので、受け入れられない。
英国案は、2020年12月に移行期間が終了した後、一定期間、英国全体をEUと関税同盟を結ぶというもの。
但し、将来の協定ができるまでの臨時の措置であり、遅くとも2021年12月末までと期待する。
この期間中も英国は世界の他の国々と貿易協定を結び、施行できる。但し、モノの貿易はEUとの関税同盟があるため、他国との協定はサービスに関することに限られる。
EU側はこれに抵抗感を示した。
この法案をめぐっては、英国がEUと合意に至らないまま離脱日を迎えた場合について激しい議論があった。
EUとの合意なしの強行離脱に反対する親EU派の議員が、内閣の強硬離脱の提案を認めない権限を英議会に与える修正案を付けた。メイ首相は交渉の手足を縛られるのを嫌いつつ、親EU派にも配慮し、交渉決裂時には英議会で審議する時間を設けると約束 した。この結果、修正案は303票対319票の僅差ながら反対多数で否決された。
メイ英首相は7月6日、閣議を開き、EU離脱後の通商関係について議論し、交渉方針で合意した。
EUとの関係を尊重する内容で、EUの影響力を排した完全な離脱を求めるジョンソン外相ら強硬派閣僚が反対し、メイ氏が約12時間かけて説得した。
離脱条件を巡るEUとの実質合意期限が10月に迫る中、「Hard Brexit(強硬な離脱)」から協調優先の「Soft Brexit(穏健な離脱)」路線に修正して交渉の局面打開を図る もの。
内容は次の通り。
「モノの自由貿易圏」創設を提案し、EUとの貿易面での緊密関係を維持する。EUが定める製品や農産物の規格などEUの一定の通商ルールに離脱後も従う。
関税面でもEUと連携し、現状並みの円滑な貿易を確保することで企業が国境を越えて展開するサプライチェーンを守る。
離脱後に米国などとの自由貿易協定(FTA)締結を目指すほか、TPP 11への参加も視野に入れる。
人の移動の自由を終わらせる。EU加盟国の漁船が英国領海内で操業することを認めず、英国の海域を自国でコントロールする。
但し、金融サービス分野の一部では、EUと現状通りの取引ができなくなることを受け入れる。 (EU側の「いいとこ取りは許さない」との主張に配慮)
この案には「いいとこ取り」の面が強く、EUのバルニエ首席交渉官は「実現可能性を吟味したい」と述べた。
強硬離脱派は、メイ氏の方針では部分的に事実上、関税同盟に残ることになり、「EUにさらなる譲歩を迫られやすい弱い立場に追い込まれる」と厳しく批判した。
同氏は7月6日の閣議の前にメイ首相に宛てた書簡で、首相の案を実行不可能とし、首相の新提案は失敗すると指摘した。
デービス欧州連合(EU)離脱担当相に続き、ジョンソン外相が7月9日、辞任した。
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メイ首相のSoft Brexit 路線の新しい交渉方針では、離脱後に米国などとの自由貿易協定(FTA)締結を目指すほか、TPP 11への参加も視野に入れるとしている。
しかし、訪英中のトランプ大統領が冷水を浴びせた。
大統領は7月12日の英紙サンとのインタビューで、メイ英首相が進めるSoft Brexit 手法に賛同しない考えを示し、現状の離脱条件では米英の貿易協定にも悪影響が及ぶことになると警鐘を鳴らした。この案で進められれば英政府は米国との貿易協定を「おそらく結べない」と述べた。
また、辞任を表明したジョンソン前外相については、「非常に能力のある人物」と辞任を惜しみつつ「将来は偉大な首相になると思う」と付け加えた。
トランプ氏は米大統領予備選挙中の2016年5月、英国がEUから離脱した方が良いとの考えを示していた。
7月13日の首脳会議では、トランプ大統領はメイ首相に、英国はEUと交渉するよりEUを訴えるべきだと提言した。
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