CETAの正式な発効には28のEU加盟国全ての議会での批准が必要で、EUが目玉としてきた協定が破談となる可能性も出てきた。
イタリアの農産物の保護などが理由で、6月に発足した政権は公約に「自国産の農産物を守る」と盛り込んでいる。
経済発展・労働相は、CETAはイタリアの特産品の保護を十分に保証していないとし、カナダからの輸入増加がイタリア産品に悪影響を与えると懸念を示した。
EUは地域の高品質な農産品や食品を保護するため、「原産地呼称保護(Protected designation of origin:PDO)」や「地理的表示保護(Protected geographical indication:PGI)」という制度を運用しており、イタリアはパルマハムなど約290品目が認定されている。
しかし、カナダとのCETAで保護対象になっているのは40品目ほどにすぎない。農業生産者団体は「多くの偽物が出回るリスクがあり、地元農家などが不利益を被る」と反発している。
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カナダとのCETAは当初から揉めた。
2014年に交渉が終わり、2016年10月27日に正式調印を目指していた。
CETAが実現すれば、関税が98%撤廃されるだけでなく、手厚く保護されているEUの農業市場をカナダの農家に開放するほか、EU企業がカナダの公共部門の調達市場にアクセスできるようになる。
同時に、労働および環境の基準、公共サービスなどについての国家の選択に新たなセーフガードも設けられる。
具体的な内容:
- 関税撤廃:協定発効後、ほとんどの品目(全ての関税品目の99%以上)で速やかに関税を撤廃
農産品関税については https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/1dfdcf14c5f14bcb/20170075.pdf
- 非関税障壁(NTBs):双方の適合性評価承認の改善を図ることで、技術的な規則における透明性の改善
- サービス貿易:企業従業員の一時的派遣(移動)の容易化や専門職資格の相互承認
- 投資:無差別で公平かつ公正な扱いと、収用権を行使する際の適切な賠償を保証するEUの投資家保護規定を盛り込む
- 公共調達:連邦政府より下位の全てのレベルでの調達市場を2国間で開放
- 地理的表示保護制度(GI):特定の地理的起源を持つ多くのEU農産品リストに対して、カナダ市場での特別な地位を承認、保護
- 紛争解決メカニズム:公式な協議を通じた合意形成に失敗した場合、独立した法律専門家を入れた仲裁パネルの設置を要請できる
- 調停:EU・カナダ間の貿易と投資に有害な影響を与える措置に取り組むため、任意の調停メカニズムを用意
正式調印にはEU加盟の28カ国の全ての承認が必要である。
当初、ブルガリアとルーマニアがCETAに留保を表明した。
これについては、両国からカナダへの渡航者に対する査証(ビザ)取得義務を2017年後半までに撤廃することにカナダが合意し、政治的解決を見た。
しかし、ベルギーのWallonia地域議会が投資家を保護する紛争解決手続きに問題があるとして反対を決定した。ベルギーの条約締結には地方議会の承認が必要なため、ベルギーは国として承認できない状態となった。
反対の核心は、投資家と政府の間の紛争を解決するための独立した法廷を設置することで、多国籍企業に強すぎる権力を与えることを懸念した。
欧州委員会は、CETAでは新たに設置する法廷が政府にサービスの民営化を迫ったり国営化を阻んだりするために利用されないよう確約するなど、強力なセーフガードを設けてあると主張したが、了解を得られなかった。2016/10/29 EUとカナダの貿易協定、ベルギーの一地区の反対で締結できず
この問題は最終的に、反対していたベルギーのWallonia地域の説得に成功し、EUとカナダは10月30日、ブリュッセルで首脳会談を開き、署名した。
首脳会談終了後に発表された「共同声明」でも、「公共の利益の観点、特に公共サービスや環境配慮、労働者の権利保護などの分野で政府が規制する権限は、自由貿易協定においても守られることを原則として確認する」とあらためて明記した。
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欧州委員会は2017年7月8日、EUがカナダの「包括的経済貿易協定(CETA)」を9月21日から暫定適用することでカナダと合意したと発表した。
正式発効には加盟国全ての批准が必要だが、加盟国がEUに対して権限移譲している分野についてのみ、欧州議会の批准手続き後に発効に先行して適用を開始するもの。
欧州議会は2017年2月15日に、カナダ側は2017年5月17日に批准を終えていた。
韓国とEUは2010年10月6日に、自由貿易協定(FTA)を締結した。欧州議会は2011年2月17日、賛成多数で承認した。
2011年7月に暫定適用を開始したが、イタリアなどの批准手続きに時間がかかり、最終的に協定全体が正式発効したのは2015年12月だった。
今回、イタリアの新政権が批准に反対の意向を表明したもの。
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