トランプ米大統領は7月25日、訪米中のJean-Claude Juncker 欧州委員長との会談後、関税引き下げに向け EUと協力することで合意したと述べた。
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米政府は5月31日、カナダ、メキシコ、EUに対し鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税を適用すると発表した。適用は午前0時からで、税率は鉄鋼が25%、アルミニウムが10%。
2018/6/2 米、EU・カナダ・メキシコに鉄鋼・アルミ関税発動
これを受け、EUの欧州委員会は6月6日、対抗措置として、米国からの輸入品に報復関税を課す方針を正式決定した。
EUは被害を2017年ベースで64億ユーロ(71億米ドル)とし、直ちに28億ユーロ(32億ドル)相当の製品に課税する。対象は、鉄鋼・アルミ製品のほか、オレンジジュース、バーボン、たばこ、化粧品、シャツ、ズボン、靴、バイク、ボートなど。
これを受け、トランプ大統領は6月22日、「EUが関税や障壁をすぐに取り除かないなら、輸入自動車全てに20%の関税をかける。米国で生産せよ!」と呟いた。
2018/6/7 EU、米国の鉄鋼・アルミニウム輸入制限への報復関税、7月発動へ
米オートバイ製造大手Harley-Davidsonは6月25日、EUの関税引き上げを受け、欧州向けオートバイの生産を米国から海外に移す方針を明らかにした。
2018/6/27 Harley-Davidson、一部生産を米国外に移転
米国が輸入自動車全てに20%の関税をかけると、世界中に影響が出る。
EUの欧州委員会は7月17日、 Juncker 欧州委員長が7月25日に訪米し、トランプ大統領と通商関係について協議すると発表した。
「Juncker委員長とトランプ大統領は欧米間の通商関係の発展と経済的連携の強化に注力する。」
欧州委員会のマルムストローム委員(通商担当)は、Juncker委員長の訪米で貿易摩擦が緩和されることを望むとしながら、米国がEUからの自動車輸入に関税を発動した場合に適用する報復関税のリスト作成を進めていることを明らかにした。
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両首脳は貿易戦争につながる懸念の沈静化に努めた。
7月25日の会談後の共同声明によると下記で合意した。
1) 自動車以外の工業製品について、関税ゼロ、非関税障壁ゼロ、補助金ゼロに向かい、協力する。
また、非関税障壁を減らし、サービスや化学品、医薬品、医療製品、及び大豆の貿易を増やすため協力する。
何故、どちらが、自動車を対象から除外しようと提案したのか、不明である。
報道では、米側要請で政府調達が協議の対象から除外され、EU側要請で農産物が除外された。
但し、例外的に大豆が含まれた。EU当局者は、米側から大豆の輸入を拡大するよう強い圧力があったと明らかにした。
米農家は米国産大豆に対する中国の報復関税の打撃を受けており、トランプ大統領は7月24日、農家に対し最大120億ドルを支払う支援策を発表した。なお、EU高官は7月26日、最終的には自動車も関税撤廃の対象に含まれるとの見通しを示した。自動車だけを除くのは考えられないとしている。
2) エネルギーに関し、戦略的協力関係を強化する。EUはエネルギー供給の多様化を図るため、米国からもっとLNGを輸入する。
Juncker委員長は、米国が欧州向けLNG供給を拡大するため輸出ターミナルを増設することで合意したと明らかにした。
大統領はドイツが参加するNord Stream 2 計画(ロシアの天然ガスの海底パイプライン輸送)に不満を表明している。
3) 貿易を容易にし、官僚的障害を減らし、コストを下げるため、基準に関する緊密な意見交換を行う。
4) 米国とEUの企業をアンフェアなグローバル貿易慣行から守るため協力する。
同意見の諸国と緊密に連絡を取り、WTOを改革し、アンフェアな貿易慣行(知的財産の窃盗、技術移転の強制、補助金、国有企業による歪み、過剰生産など)に対応する。
5) これらに対応するため、直ちにExecutive Working Group を設置する。加えて、短期的な対策を検討する。
この間は、どちらかが交渉を取り止めない限り、この合意の精神に反する行動を行わない。
EUは、「相互に追加関税の発動を控える」とし、ロス商務長官も「自動車の追加関税は課さない」とするが、大統領は「合意の精神に反することはしない」とだけ述べている。
いずれにせよ、トランプ大統領が今後の進展に不満を抱き、「交渉を取り止め」れば、関税を課すことは可能である。
9月を目処に高官級の作業部会の初会合を開き、交渉内容の具体策の検討に入る。120日以内に結果を報告する方針。
6) 鉄鋼とアルミの関税問題と報復関税を解決することを望む。
(We also want to resolve the steel and aluminum tariff issues and retaliatory tariffs.)
どのように話を進めるのかについての言及は一切ない。 単なる希望だけか?
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トランプ大統領は会見後、両者の「関係は新たな段階に入った」とし、「自由で公正な貿易にとって重要な日」になったと語った。さらに、「今すぐ交渉を開始するが、向かっている方向はとてもはっきりしている」と述べた。
大統領はツイッターで、米国とEUはお互いが好きだと呟いた。
Obviously the European Union, as represented by Juncker and the United States, as represented by yours truly, love each other!
"We met today...to launch a new phase in the relationship between the U.S. & the EU - a phase of close friendship, of strong trade relations in which both of us will win, of working better together for global security & prosperity, & of fighting jointly against terrorism."
Great to be back on track with the European Union. This was a big day for free and fair trade!
EUが米国からの液化天然ガス(LNG)の輸入を増やし、EUは「巨大な買い手」になると語った。
さらに、大豆の非関税障壁を削減することで合意したとし、「EUは大豆の購入を大幅に増やす。彼らは巨大な市場で、特に中西部を中心とする農家から大量の大豆を買う」と述べた。
ツイッター:
European Union representatives told me that they would start buying soybeans from our great farmers immediately.
Also, they will be buying vast amounts of LNG!
Juncker委員長は、工業製品の関税ゼロに向けた取引が「主要な目的」だったと語った。
トランプ、Juncker両氏は声明で、自動車関税には直接言及せず、他の工業製品に焦点を当てた。
自動車・部品関税について問題解決に向けた進展があったのかは不明。
今回の会談を歓迎する向きが多いが、具体的に決まったことが少ないことから、米国と中国の交渉のように、後になってご破算になる恐れも残っているとする意見もある。
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