昭和電工、2018年6月中間決算、黒鉛電極事業が大増益

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昭和電工が8月8日に発表した中間決算は、当期損益が前期比 7.4倍の大増益となった。

年間では、営業損益 1700億円、当期損益 1150億円を予想する。

単位:百万円 (配当:円)
売上高 営業損益  経常損益 当期損益    配当
中間 期末
17/6中間 3,722 350 222 78 0
18/6中間 4,558 781 778 581 20
増減 837 431 556 503 20
16/12 6,712 421 387 123 0 30
17/12 7,804 778 640 335 0 50
18/12 9,850 1,700 1,670 1,150 20 70

  

営業損益は下記の通りで、無機セグメントが前期1億円の黒字が583億円となり、年間では1180億円を予想する。
黒鉛電極の市況が急上昇したこと、
2017年10月2日付でドイツのSGL GE SHOWA DENKO CARBON と改称)を買収 し、同事業の規模が倍増したことが貢献した。

無機セグメントには他に、セラミックス(アルミナ、研削研磨材)、ファインセラミックスがある。アルミナについては、インドネシアから撤退した。

営業損益推移(億円)

15/12 16/12 17/12 17/6 18/6

増減

18/12予
増減 内訳
石油化学 105 207 334 162 74 -87 数量差  -27
価格差  533
cost down 36
その他 -111
200
化学品 107 138 165 69 78 9 180
エレクトロニクス 175 139 219 121 56 -65 150
無機 -12 -58 71 1 583 582 1,180
アルミニウム 26 44 67 32 27 -6 60
その他 13 18 6 1 13 12 30
全社 -79 -68 -84 -36 -50 -14 -100
合計 335 421 778 350 781 431 431 1,700

同業で、昭和電工のSGL買収に当たり、米国司法省の指示でSGLの米国事業の譲渡を受けた東海カーボンの営業損益も同様に急増している。

2018/6の黒鉛電極の営業利益は前年比で208億円増えているが、そのうち、数量差は50億円、マージン差は158億円となっている。

ーーー

昭和電工は2016年10月、ドイツのSGL Carnbon GmbH より黒鉛電極製造の子会社 SGL GE Holding GmbH買収すると発表した。

ドイツ、オーストリア、スペイン、アメリカ(2ヵ所)、マレーシアの6カ所に製造拠点を持つ。
(事業価値を350百万ユーロとしたが、後述の通り、米司法省の指示で米国工場を東海カーボンに129億円で売却し、昭電の買収価額を156億円とした。)

他方、昭電は、大町、 米国South Carolina(Showa Denko Carbon)、中国四川(四川昭钢炭素)に製造拠点を持つ。

黒鉛電極は、電気炉による製鋼でスクラップを溶かして鉄へリサイクルするときに、導電体としてなくてはならない中心的素材で、約1600℃の高温になってスクラップを溶かす。
鉄1トンをつくるのに2キログラム弱の黒鉛電極を使う。

コールタールを原料として製造されるニードルコークスとピッチを捏合したのちに成形する。

この時点では、 同社では、世界の鉄鋼需要について今後も年率1%程度の低成長が続くと予想され、需要の低迷と競争の激化 で価格が低下し、厳しい事業環境が継続すると見ていた。

上記の通り、2015年12月期、2016年12月期で、黒鉛電極の属する無機部門は営業利益が赤字である。

東洋経済(2016/10/26)は「昭和電工、黒鉛電極で『逆張り買収』の勝算」と題する記事を書いている。

この黒鉛電極の産業は近年厳しい事業環境にあり、大手から下位まで軒並み赤字に陥っている。高炉を中心とする中国鉄鋼メーカーの過剰生産で、電炉の操業度が世界的に低下し、消耗品である黒鉛電極の需要も細っているからだ。需給の悪化により、足元の黒鉛電極の販売価格は5年前の半値程度にまで落ち込んでいる。

こうした中、最大手の米GTIは業績不振で投資ファンドの傘下に入った。また、独SGLグループは昨年、利益が出なくなった黒鉛電極を非コア事業に格下げし、本体から分社化。事業の将来性に見切りをつけ、複数の企業と売却に向けた交渉を進めていた。

SGLから事業を買い取る昭和電工にしても、黒鉛電極の赤字は経営の大きな重荷となっている。同製品を柱とする無機部門はかつて200億円規模の利益を稼ぐほどだったが、2013年に赤字転落して以降、前期まで3年連続で赤字を計上。今2016年12月期は出荷数量、販売価格とも一段と落ち込み、部門赤字が50億円超(前期赤字額は12億円)にまで膨らむ見通しだ。

にもかかわらず、その赤字事業で買収に踏み切るのはなぜかーー。会見した市川秀夫社長によると、今回の買収は必ずしも規模拡大を目的としたものではなく、一番の狙いは「再編による徹底的なコスト削減」にある。

昭和電工が日本と米国、中国の3工場で黒鉛電極を生産しているのに対し、SGL GEは欧州や米国、豪州など5カ国で計6工場を操業している。昭和電工は再編後に生産体制見直しや管理部門の機能集約などで60億円以上のコスト削減が可能と試算しており、2019年での事業黒字化を目指すという。

赤字事業での買収だけにリスクは否めないが、市川社長は「全社が赤字になっているような異常な状況は長く続かない。少なくとも、市況がこれ以上悪くなる事態は考えにくく、統合効果で黒字化は十分可能」と事業の建て直しに自信を見せた。

不振が続く黒鉛電極事業での生き残りに向け、買収という逆張り戦略に打って出た昭和電工。果たして、その経営判断は吉と出るのかーー。逆張り戦略の成否に注目が集まる。

昭和電工は、手続きを進め、201710月に買収を完了して完全子会社化SHOWA DENKO CARBON Holding GmbHと改称した。

この過程で、米国司法省からSGLの米国事業を東海カーボンに譲渡するという付帯条件が付いたため、2017年11月に129億円で売却した。


昭和電工にとって幸運なことに、買収完了の頃から状況が一変した。

中国には地条鋼という違法鉄鋼が流通していた。

鉄スクラップなどを中周波誘導電気炉と呼ばれる電炉で溶かして製造した、成分や品質の安定しない、環境にも悪影響を与える粗悪な鉄鋼・鋼材で、地条鋼の生産能力は2015年末時点で1億トン程度とされ(違法なため統計には含まれない)、これは日本の粗鋼生産能力とほぼ同じである。

中国の2015年末の粗鋼生産能力は11.3億トン、生産は8億トンで、3億トン超が過剰生産能力のため、中国政府は2016年以降の3年~5年で1.4億トンの削減する計画をたてた。

この枠外にある違法な地条鋼については、政府は2017年6月末までに全て閉鎖することを決めた。

その結果、それまで安価で出回っていた鉄鋼が不足し、代替として鉄スクラップから鉄鋼を生産する電炉での生産が急増、黒鉛電極の需要が急増、価格が急騰した。

さらに、EVに使用されるリチウムイオン電池の負極材としてニードルコークスが使用され始めたことも、ニードルコークスの需給逼迫に追い打ちをかけた。

原料のニードルコークスの価格急騰もあり、黒鉛電極の価格も急騰した。

2016年に3000ドル程度まで下がっていた国際価格は2018年には10,000ドル前後まで上がっている。

この結果、昭和電工の2018年の無機部門の営業損益は、前年比で1000億円強増加し、SGL GE の買収価額156億円は、あっという間に回収した。東海カーボンも同様である。

東洋経済のいう逆張り戦略は完全に吉と出た。昭電としては、こんな変化を予想していなかったため、笑いが止まらないだろうし、昭和電工の買収を助けるためSGLの米国事業を129億円で買収した東海カーボンも同様である。逆に、SGL Carnbon GmbH としては低価格での売却に株主から批判が出ているかも知れない。

短期間でのこんな大きな変化は考えられない。

但し、こんな状況はいつまでも続くとは思えない。

中国では環境規制に対応した大手企業が黒鉛電極を増産する計画があるほか、原料のニードルコークスの需給も2019年から緩和する見通しで、価格も元に戻る可能性がある。

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