カスピ海に面するロシアとイラン、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンの5カ国は8月12日、「カスピ海の法的地位に関する協定 Convention on the Legal Status of the Caspian Sea 」に署名した。
会議には、ロシアのプーチン大統領やイランのロハニ大統領のほか、カザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンの各首脳が出席した。
カスピ海は地下資源に恵まれ、領有権などをめぐって20年以上にわたり協議が難航していた。今回の決着の背景には、最近のイランと米国との関係悪化もあるとみられる。
議長国カザフスタンのナザルバエフ大統領は、協定は「カスピ海における憲法のようなもので、地域の安全と安定を保証する」と評価した。
プーチン大統領は「合意は価値あるものだ」と強調した。イランのロハニ師も「イランは貿易促進のために重要な役割を担う」と語った。
各国の沿岸15カイリ(約28キロ)を領海と定め、同25カイリを排他的な漁業水域と定めたほか、第三国の軍の活動を禁止した。地下資源の分割については隣国との協議で解決を目指すとしている。
カスピ海は当初はソ連とイランに囲まれていたが、1991年のソ連崩壊後、ロシアとイラン、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンに囲まれることとなり、1996年に領有権問題などを解決する協議が始まった。
カスピ海は世界最大の湖であるが、湖と海では資源配分などをめぐる法的な枠組みが異なる。
イランは最も沿岸線が短いため、「湖」として5カ国等分の権利を求めた。
他方、ソ連の構成国だった4カ国は「海」として沿岸線に応じた領海設定を主張してきた。
海の場合は「海洋法に関する国際連合条約」が適用され、他国もその資源にアクセスすることが可能で、軍艦も含め航行の自由が保証される。
今回、「海」とも「湖」とも定義せず、「特別な法的地位」に位置づけた。
各国の沿岸15カイリ(約28キロ)を領海と定め(Article 7)、同25カイリを排他的な漁業水域と定め(Article 9)、4カ国の主張に沿った形になった。
他方、「海」の場合に保障される航行の自由を認めないこととした。
Article 3 6) Non-presence in the Caspian Sea of armed forces not belonging to the Parties
イランでは、政府がカスピ海を「売り払った」と非難する声が上がったが、あらゆる武力のカスピ海への設置を沿岸5カ国以外に禁じる条項を協定に盛り込め 、米艦船の排除に成功したたことで、政治的な利益を得た。
ロシア外務省高官は「カスピ海は内陸にあるが、湖とするには巨大だ」と話した。
カスピ海の海底には、500億バレル相当の石油と8兆4000億立方メートル近くの天然ガスが眠っていると推定されている。
海底資源の所有権については、国際法に基づいて当事国同士の合意で確定することとした。(Article 8)
イランやアゼルバイジャン、トルクメニスタンには油田やガス田の帰属をめぐる争いがあり、完全決着にはさらに時間がかかる可能性もある。
パイプライン設置も当事国同士の合意で認めると定めた(Article 14)。
カスピ海の法的地位をめぐる不一致は、トルクメニスタンとアゼルバイジャンを結ぶ天然ガス・パイプラインの敷設を妨害してきたが、今後、トルクメニスタンやカザフスタン産の天然ガスをカスピ海経由でアゼルバイジャンまで運び、さらに欧州まで輸送する計画の進展につながりそうだ。
カスピ海には様々な種類のチョウザメが生息している。 世界を流通するキャビアの80~90%がカスピ海産だが、ここ数十年で生産量が減少している。
カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、今回の合意で漁業に関する各国の割り当てが可能になったと話した。
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