東芝は2017年12月、英国で原子力発電所の新設事業を行うために保有している NewGeneration (NuGen)の株式100%の売却について、韓国電力公社(KEPCO)を優先交渉対象者に選定した。
売却先としては、中国広核集団有限公司も候補に挙がっていたが、英ビジネス・エネルギー・産業戦略省と韓国産業通商資源省は2017年11月28日、NuGen 計画を含めた英国内の新設計画に対する韓国企業の参加支援で、両国政府が協力覚書を締結したと発表していた。
韓国政府は、KEPCOが選ばれたことに関し、「これまでに国内とUAEで同社が発揮した優秀な技術力と施工能力を、原子力先進国である英国で示す可能性が開かれた」と評価した。
NuGenではWestinghouseのAP 1000 を3基建設する予定であったが、KEPCOがNuGenを取得した場合、採用技術はKEPCOの企業連合がUAEで建設中の140万kW級PWR「APR1400」に変更される見通しである。
APR 1400は2017年10月に、欧州の電力16社が原子炉の安全基準として定めた「欧州電気事業者要件(EUR)」をクリアしているが、変更の場合、英国原子力規制庁から包括的設計審査を受ける必要がある。
しかし東芝は本年7月31日、KEPCOにNuGen売却優先交渉先から解除すると通知した。
後述の通り、韓国側はまだ諦めておらず、英政府 が本年6月に原発事業への適用を発表した新たな事業モデルについて、そのリスクや収益性などに関する共同研究を東芝に提案している。
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東芝は2014年1月15日、スペイン大手電力会社Iberdrola S.A.から、英原子力発電事業会社 NewGeneration (NuGen)の株式50%を、GDF Suez から同社保有のNuGen社株式10%を、それぞれ譲り受けると発表した。取得額は総額で約1億ポンド。
NuGenは東芝 60%、GDF Suez 40%の出資となった。(GDF Suezは2015年4月24日にEngieに改称した。)
NuGen は、英中部Sellafield で合計出力360万キロワットの原発建設を予定している。Iberdrola が2012年に事業再編と債務削減を進めるためにNuGenの保有株を売却する意向を明らかにしたことで、プロジェクトは頓挫していた。
WestinghouseのAP 1000 を3基建設する予定で、原発計画を実際に着工するかどうかは2018年に判断するとしていた。
東芝は 原発設備を納入した後に経営権を売却することを想定しているとされている。
2013/12/27 英国が原発建設再開、固定価格買取制度導入、東芝と中国企業が計画に参加
日英両政府は2016年12月22日、原子力分野で包括的に協力する覚書を結んだが、覚書では、日立傘下のHorizon Nuclear Power の英中部Wylfaの原発計画に加え、東芝傘下のNuGenが英中部 Moorside(Sellafield)で計画する原発について言及している。
2016/12/27 日英、原発建設協力で覚書、日立・東芝の案件対象
東芝は2017年4月4日、同社が60% 所有する英国の原発事業会社 NewGeneration (NuGen) の残り40%をフランスのEngieから買収すると発表した。
2017年7月25日に買収が完了した。買収額は158.62億円(108.8百万ポンド)。
NuGen はいったん東芝の完全子会社となるが、東芝はNuGenの完全売却も視野に入れており、「引き続き出資者の募集や持ち分売却を検討する」としていた。
2017/4/5 東芝、英国のNuGenを100%子会社に
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この後、上記の通り、株式100%の売却について、韓国電力公社(KEPCO)を優先交渉対象者に選定し、交渉を続けてきた。
当初の優先交渉期限は6月15日で、これをもう一度延長(1カ月)したが、合意に至らず結局、決別した。
他社と交渉の機会を持つというのが東芝側の公式的な立場とされるが、原発業界では、早期売却を目指す東芝が韓国電力との交渉を加速させるため、優先交渉権を解除したとみている。
東芝が韓国電力のほか中国などの事業者と交渉する可能性はあるが、英政府はエネルギー安全保障の面から中国の原発事業参入に消極的とされ、東芝は結局のところ売却先として韓国電力以外の選択が難しいとの見方がある。
韓国側はまだ諦めておらず、韓国産業通商資源部は8月1日、年内に結果を出せるよう英国政府など当事者との交渉を積極的に進めると明らかにした。「英国の電力需給安定、東芝の経営安定、韓国の原発海外進出という(韓英日の)3カ国の利益が達成されるよう、関連国、機関との交渉を積極的に推進する」と述べた。
韓国政府は研究結果を踏まえ、年内に買収の可否を最終決定する方針とされる。
当初、英国政府は差額精算型固定買取価格制度(CfD:Contract for Difference) を適用するとしていた。
CfD契約は、発電事業者へ電力の市場価格(reference price)と投資回収に必要な長期的な予想価格(strike price)を支払う、長期的な民法上の契約。発電事業者が電力価格の変動に長期的に晒されることを防ぎ、投資リスクを減らし、消費者への負荷を最小にした上で発電への投資を呼び込むことを目的とする。下図の通り、実際の電力価格(市価)に関係なく、Strike Priceで電力代が得られる。
英国政府とEDFは、原子力発電での電力のStrike Price(35年間)について、下記の通り合意した。
Sizewell での建設を決める場合 £89.50/MWh(約14.1円/kWh)
Hinkley Point単独の場合 £92.50/MWh(約14.6円/kWh)2013/12/27 英国が原発建設再開、固定価格買取制度導入
しかし、これが高すぎるとして猛烈な批判が起こった。
このため、NuGenの場合はこれよりかなり下げざるを得ないが、NuGenにとってはリスクが大きくなることとなる。政府にとって苦痛の種であった。
今回、英国政府は「RAB(Regulated Asset Base:規制資産基盤)」という新しいモデルを導入 することにした。
これは、ロンドンで建設中のスーパー下水道 Thames Tideway Tunnel で使われている方式である。
このプロジェクトはテームズ川の地下に全長25キロメートルの下水路を敷設するもので、既存の下水道網は処理能力が限界に達しているため、テームズ川に放出される年間数千万トンの廃水を削減することが期待されている。
総工費は42億ポンドに上る。英政府と英水道最大手のThames Waterが設立した新会社Tidewayが建設・運営を手掛ける。
下水路は西ロンドンから東部ライムハウスまでをテムズ川に沿う形で敷設され、ストラットフォード近くのアビー・ミルズ揚水所からベクトン下水処理所までを専用トンネルでつなぐ。
Thames Waterは水道料金を引き上げて建設費の3分の1を負担し、残りはTidewayが民間出資を募って負担する。Tidewayは、Thames Waterと125年契約を交わし、利用者から月額料金を直接徴収した上で、下水道サービスを提供する。
原発の場合、CfDは事業者が建設の責任を負い、30-40年間にわたりStrike Priceで発電料金を受けて回収する方式である。
これに対し、RABの場合は、政府が建設費を支援した後、運営にもある程度関与し、投資について、安定的かつ上限のある投資収益をもたらしているかどうかを監督 する。
韓国産業部の関係者は「CfDに比べて収益性は低いかもしれないが、英国政府の保証がありリスクを分散する効果がある 。数十年間にわたる事業であるだけにプラスになるかもしれない」と話している。
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