米、対米投資の審査対象拡大

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外国企業の対米投資を審査する米国の独立機関、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する条項を加えたJohn McCain 国防権限法(NDAA)案が8月13日成立した。


これまでのCFIUSの審査対象は、安全保障に係るものと大統領が判断した買収に限られた。

今回、米国企業の買収を狙いとする取引に限らず、合弁会社設立や、米国の重要な技術やインフラ、個人情報に関わる少額の出資なども審査の対象とする。米政府施設に近い土地取得など不動産取引も含める。

中国が対米投資を通じて技術やノウハウを盗み出し、軍事技術に流用するのを食いとめたい考えだが、審査は外資すべてを対象としており、中国企業だけでなく、日本企業にも影響が出そうだ。

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米国は外国からの米国内直接投資を歓迎するが、国家安全保障を保護するための例外を設けている。
CFIUSが審査を行い、投資内容が米安全保障にかかわるものと大統領が判断した場合には究極的には買収案件を拒否できる。

これまでの例:

2012/10/4  オバマ大統領、米国内での中国企業の風力発電買収を阻止 

2015/11/10 中国の三一重工、米国での風力発電買収阻止事件で米政府と和解、実質勝利

2016/12/7  米政府、中国企業による独社の米子会社買収を禁止

2017/9/18  

2018/3/14   米大統領、BroadcomによるQualcomm買収禁止命令

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中国のEコマース企業阿里巴巴集団(Alibaba Group)の金融関連子会社で、QRコードを使った非接触型決済サービスのAlipay を運営する螞蟻金融服務集団(Ant Financial)は2017年4月に国際的送金ネットワークのサービスを行う米国のMoneyGramを12億ドルで買収すると発表した。ライバルのEuronetに打ち勝ったもの。

この実現に向け、Alibabaの馬雲(Jack Ma)会長は就任直前のトランプ大統領と会談し、買収が成立すれば米国で100万人の雇用創出につながると訴えていた。

しかし、CFIUSから承認を得られず、2018年1月初めに断念した。

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ソフトバンクは2017年2月、世界的な規模で多角的にグローバル投資を行う世界有数の投資ファームのFortress Investment Groupを共同投資家とともに約33億米ドルで買収する契約を締結した。

この買収は2017年12月に完了したが、発表では、Fortressは現経営陣が独立して経営を行い、リーダーシップ、ビジネスモデル、ブランド、人材、プロセス、企業文化を維持していくとしている。

これについて、英Financial Timesは4月6日、CFIUSから投資会社の業務運営への関与に制限を受けていたと報じた。ソフトバンクは業務に影響を及ぼすことが制限され、Fortressの所有にとどまっているという。

ソフトバンクは、Alibaba Groupの筆頭株主である。

2016/12/7  ソフトバンク孫社長、米に500億ドル投資

トランプ大統領は鴻海精密工業が開いた米国新工場の着工式で、「マサさんに感謝したい」と話し、壇上に呼んだ。そんな孫社長の事業でも中国がからむと駄目なようだ。


米国は中国の
Made In China 2025計画を懸念している。 

Made In China 2025計画は、2025年までに世界の製造業大国となり、建国100周年の2049年までに製造強国の先頭グループになるという計画である。

Made In China 2025の概要は https://www.knak.jp/blog/2018-5-1.htm#us-china の文末参照

巨額の補助金で自国の企業を育てるとみられ、米国のIT企業などは、半導体などの基幹部品の自給で米企業が締め出されかねないとの懸念を持つ。

米国は交渉で中国2025の補助金の即時停止を求めたが、中国には事実上の計画停止を意味し、中国商務省の関係者は「絶対に受け入れられない」と憤る。

米政府は中国が技術やノウハウを盗み出すのを防ぐため、中国企業の対米投資を厳しく制限する方法を検討した。

トランプ大統領は6月27日、中国企業の対米投資の制限案について、米財務省などが管轄するCFIUSを活用する考えを示唆した。

現行のCFIUSによる審査は安全保障にかかわるものに限られるため、これを改正し、これまで抜け穴となっていた少額出資なども審査対象に加え、投資制限を強めるものである。

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今回成立したJohn McCain 国防権限法(NDAA)では、2019会計年度(2018年10月~2019年9月)の国防予算は総額7160億ドルと、この9年間で最大規模に積み増した。
国防費の増強で中国やロシアに対抗する姿勢を鮮明にした。

米国では、議員が通したい法案を、重要法案に追加して合わせて通す慣習がある。

今回の国防権限法では、上記のCFIUSの権限強化条項は政府の要望で追加したものだが、中国に関連して、議員側の意向で追加した項目、追加しようとした項目がある。

米商務省は6月7日、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に対する制裁の見直しで同社と合意したと発表、7月13日に制裁を解除した。

2018/6/8 米政府、中興通訊(ZTE)の事業再開認める

しかし、安全保障上の観点からZTEの制裁解除には米議会の反発が強い。 

米上院は6月18日、2019会計年度の国防権限法案を賛成85、反対10で可決した。トランプ大統領が求める軍の強化を後押しするものである。
しかし、上院はこの法案に、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に対する制裁措置の緩和を認めず、米製品の販売を引き続き禁止する条項を盛り込んだ。

下院は既に5月24日に国防権限法案を通している。この時点では制裁見直しは行われておらず、法案にはZTE制裁措置の緩和を認めない条項はない。

上院と下院の法案をすり合わせ、一本化する必要があるが、米上院の与野党議員らは、トランプ政権の圧力に屈せず支持するよう下院議員らに呼び掛けた。圧力に屈すれば、経済と国防両面で米国の安全保障が損なわれ、ZTEが米国民に「スパイ行為」を働くことになると警告した。

2018/6/22 米上院、中興通訊(ZTE)に対する制裁の見直しに反対

その後、上下院が協議を進め、7月23日に一本化で合意した。

大統領は議会に法案からZTE に関する条項を外すよう要請、その結果、ZTEへの米製品の販売を引き続き禁止する条項は削除された。

その代わりに、安全保障上の懸念を理由に、米政府機関が中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)と華為技術(Huawei Technologies)の技術を利用することを禁じる項目が盛り込まれた。

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