世界初、太陽の可視光を吸収して水を分解する窒化タンタル光触媒

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NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem:Japan Technological Research Association of Artificial Photosynthetic Chemical Process )は9月4日、東京大学、信州大学とともに、世界で初めて、可視光領域で水を分解する窒化タンタル光触媒の開発に成功したと発表した。
可視光領域の波長600nm近辺は太陽光で最も強度が高い領域のため、効率的なエネルギー活用が期待できる。


窒化タンタルは、次世代の光触媒材料として2000年頃から有望視されていたが、実際に光触媒を製造して水分解を確認できたのはこれが世界で初めての事例となる。


NEDOとARPChemは、太陽光のエネルギーで水から生成した水素と、工場などから排出されるCO2を合成して、プラスチック原料などの化学品を製造する人工光合成の研究開発を進めている。

今回の成果は最初の光触媒の開発である。光触媒開発については、2021年度末に最終目標の太陽エネルギー変換効率10%を達成すべく、研究開発を進めている。

NEDOとARPChemは本年8月28日に、太陽電池材料として知られるCu(In,Ga)Se2(略称CIGS)ベースとした光触媒で、非単結晶光触媒の中で世界最高の水素生成エネルギー変換効率12.5%を達成したと発表した。また、従来の酸素生成光触媒(BiVO4)を組み合わせた2段型セルによる水の全分解反応を調査し、太陽光エネルギー変換効率は3.7%を記録した。
非単結晶なので、大型化(メートル級)に適した材料系になる。

今回、NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は、東京大学、信州大学とともに、世界で初めて、可視光を吸収して水を分解する単結晶窒化タンタル(Ta3N5)微粒子光触媒の開発に成功した。

複合酸化物(タンタル酸カリウム、KTaO3)微粒子を従来の1/10以下の短時間で窒化することで、複合酸化物微粒子上に単結晶の窒化タンタル微粒子を直接形成し、さらに水素生成反応を促進する助触媒を担持させた。これにより、窒化物微粒子が高品位化して光励起された電子と正孔を水分解反応に有効利用することが可能となり、今回の窒化物微粒子光触媒の開発につなげられた。

従来の光触媒は、吸収波長が主として紫外光領域(~400nm)に限られるものが多かったが、この光触媒は水中に分散することで、400nmから600nmまでの波長範囲の可視光、および疑似太陽光を吸収して水を分解することができる。また、これを基板に固定化すれば、光触媒パネル反応器に組み込んで利用できる。

600nm近辺は太陽光で最も強度が高い波長域のため、効率的なエネルギー活用が期待できる。


今回開発した光触媒は、従来検討されてきた方法に比べて1/10以下の短時間での製造が可能で、安価なプロセスの実現が期待できる。

今後、窒化タンタル光触媒の合成手法の改良や、酸窒化物(酸化物イオンと窒化物イオンが共存する化合物)や酸硫化物(酸化物イオンと硫化物イオンが共存する化合物)などの異なる材料への展開を通じて水分解用微粒子光触媒の機能改良を進め、太陽光を使って製造する水素と、工場などから排出されるCO2を利用して化学品を製造するプロセスの実現に向けた研究開発の加速につなげる。


なお、NEDOとARPChemは2018年1月19日、東京大学、TOTO、三菱ケミカルとともに、人工光合成システムの社会実装に向けて大面積化・低コスト化を実現する新しい光触媒パネル反応器の開発に成功したと発表している。

開発した反応器は、基板上に光触媒を塗布し形成したシートを用いて、わずか水深1mmで水を安定的に分解可能で、既存の反応器に比べて反応器内の水の量を大幅に低減でき、軽量で安価な材料で製造が可能となる。さらに、1m2サイズの大型の光触媒パネル反応器を試作し、自然太陽光下でも水を水素と酸素に分解できることが確認でき、光触媒パネル反応器を実用化に近づける設計の基本原理を示した画期的な成果であるとしている。

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人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は、CO2と水を原料に太陽エネルギーでプラスチック原料等基幹化学品を製造する革新的触媒の開発やプロセス基盤の確立等に関する技術開発を目的に2012年10月に設立された。

組合員は下記の6企業、1団体。

国際石油開発帝石、住友化学、富士フィルム、三井化学、三菱化学、TOTO、ファインセラミックスセンター

研究開発体制は下図の通り。

スケデュール

2016年度にオレフィン合成プロセス(小型パイロット規模)を確立し、2021年度に光触媒のエネルギー変換効率10%を達成。その後、スケールアップを進め、原料変換を図る。

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