ノーベル医学・生理学賞に本庶佑博士とJames Allison 博士

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スウェーデンのカロリンスカ医科大は10月1日、今年のノーベル医学生理学賞を、京都大の本庶佑特別教授(76)と、University of Texas MD Anderson Cancer CenterのJames Allison 博士(70)に贈ると発表した。

本庶氏は体内の異物を攻撃する免疫細胞の表面に、PD-1という免疫の働きを抑える分子を発見。この分子ががん細胞に対して働くのを妨げて、免疫ががんを攻撃し続けられるようにする画期的な薬オプジーボが小野薬品で開発され、複数の種類のがんで使われている。

日本のノーベル賞受賞は、2016年の医学生理学賞の大隅良典・東京工業大栄誉教授に続き26人目。

医学生理学賞は1987年の利根川進・米マサチューセッツ工科大教授、2012年の山中伸弥・京都大教授、2015年の大村智・北里大特別栄誉教授、2016年の大隅氏に続いて5人目。

授賞式は12月10日にストックホルムである。賞金の900万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)は受賞者で分ける。

James Allison 博士は、カリフォルニア大学バークレー校やハワード・ヒューズ医学研究所の研究者を経て、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター執行役員。

ヒトの免疫機能をめぐってT細胞やがん細胞の研究に専念し、1995年、T細胞の活動を抑える抑制性受容体のCTLA-4 を発見、自身の研究チームでCTLA-4の活性化を遮断する抗体の開発に取り組み、1996年にはマウスを使った動物実験でこの抗体が腫瘍の排除に役立つことが証明され、抗体製剤の開発に成功した。

「ヤーボイ」と名付けられた薬は、2011年に転移性皮膚がんの治療薬としてBristol-Myers Squibbから発売された。(提携する小野薬品も扱う)

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癌免疫薬は免疫チェックポイント阻害薬とよばれる。
(他に、自分のリンパ球を取り出し培養したうえで、活性化したリンパ球だけ、特にナチュラル・キラー細胞を戻すNK細胞投与がある。)

癌細胞には、免疫細胞攻撃を防止する「免疫チェックポイント」という仕組みがある。

1) 癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。

京都大学の本庶佑名誉教授が免疫細胞上のタンパク質(PD-1)を発見した。

オプジーボは、その研究を基に「ゴールの見えないまま始めた研究から成果が出るまで20年以上かかった」(小野薬品)。

薬を作るには、PD-1分子の働きを邪魔する「抗体」が欠かせなかったが、小野薬品には抗体を作る技術がなかった。

その後、米ベンチャー企業 Medarexとの提携で「完全ヒト型抗PD-1 抗体」を入手でき、オプジーボが誕生した。

Bristol-Myers Squibbは2009年7月22日、Medarexを24億ドルで買収すると発表した。

日本、韓国、台湾以外はBristol-Myers Squibbが開発・商業化の権利を持つ。

2) 免疫細胞は、抗原提示細胞である樹状細胞から癌抗原の提示を受けると働きが活発になり、それを目印に癌細胞を攻撃するが、抗原提示を受ける際、免疫細胞のCTLA-4 に樹状細胞のB7というタンパク質が結合すると、逆に免疫細胞の働きが抑制され、癌細胞を攻撃できなくなる。


これらの「免疫チェックポイント」を阻害して、免疫細胞に癌細胞を攻撃させるのが、免疫チェックポイント阻害薬である。

機能 承認 開発中
抗PD-1抗体 免疫細胞のPD-1に結合し、PD-1と癌細胞のPD-L1の結合を防止 オプジーボ(小野薬品/Bristol-Myers Squibb)
キイトルーダ(米Merck)
抗PD-L1抗体 癌細胞のPD-L1に結合し、PD-1とPD-L1の結合を防止 Roche/中外製薬
AstraZeneca
独Merck
/Pfyzer
抗CTLA-4抗体 免疫細胞のCTLA-4に結合し、CTLA-4と樹状細胞のB7の結合を防止 ヤーボイ(Bristol-Myers Squibb/小野薬品)
AstraZeneca



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付記 PD-1の発明経緯

小野薬品 社員を研究室に在籍させ、共同研究
1992年 研究室の大学院生 石田靖雅氏(現 奈良先端科学技術大学院准教授)が、細胞の自殺に関与する遺伝子の探索で、独自の遺伝子探索法でPD-1を発見。
細胞の自殺に関する遺伝子でないこと判明
1997 PD-1が働かなくしたマウスに関節リウマチの症状、免疫にブレーキをかける役割を持つとの推定。本庶氏「良い薬になる可能性」の直感
大学院生 岩井佳子氏(現日本医科大教授)らの研究で、皮膚がんの悪性黒色腫をマウスの肝臓に移植、PD-1を効かなくしたマウスの肝臓は白いまま。
「癌に効くかもしれない」
→ヒトのPD-1の働きを阻害する抗体を開発
小野薬品には抗体を作る技術なし。日本の企業は関心を示さず。
本庶氏が自ら話を持ち掛け、米ベンチャー企業 Medarexとの提携で「完全ヒト型抗PD-1 抗体」を入手でき、オプジーボが誕生 
2009 Bristol-Myers SquibbがMedarexを買収

                                   

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