トランプ米政権は9月30日、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しでカナダと合意したと発表した。
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メキシコとの間では、8月27日に基本方針に関する暫定合意が成立している。
米国とカナダが進めていたNAFTA改定を巡る協議は、期限の8月31日中の合意には至らず、物別れに終わった。
トランプ政権は12月1日のメキシコの政権交代までに新協定の署名を終えたいとしており、トランプ大統領は、カナダとの合意のないまま、メキシコとのNAFTA改定案を11月下旬までに署名する意向であることを議会に正式通知した。
米国内法は議会が十分な審議を行えるよう、署名から90日前の通知を求めている。また、新協定文書を1カ月後に議会に送付することとなっている。
付記 3国は11月30日(メキシコ政権交代の前日)、「USMCA」に署名した。
カナダを含めた3カ国が新協定に合意し、新協定文書を9月末に議会に提出できるかどうかが焦点で、米国は、間に合わなければ、米国とメキシコだけの新協定を結ぶとして、カナダに妥協を迫っていた。
2018/9/3 米国とカナダのNAFTA再交渉、再協議へ メキシコとの合意内容も記載
カナダとの交渉は難航した。
トランプ米大統領は9月26日の記者会見で、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を巡るカナダとの協議について「カナダの交渉スタイルに強い不満を持っている」と述べた。カナダのトルドー首相との会談を拒否したとも主張した。米政権は9月末までの合意を目指しているが、カナダは譲歩する姿勢をみせておらず、自動車に関税を課すと改めて圧力をかけた。
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期限ぎりぎりの9月30日に合意した。
NAFTA(North American Free Trade Agreement)の名称を「USMCA(the United States-Mexico-Canada Agreement=米国・メキシコ・カナダ協定)」に変更する。
"Free Trade"が名称から消えた。トランプ大統領は1994年に発効したNAFTAが米国の貿易赤字を膨らませて国内の雇用を奪った元凶だと批判し、名称変更を求めていた。
米国が求める乳製品の市場開放でカナダが一定の譲歩を示した。米国が撤廃を求めてきた NAFTA 19条の紛争解決メカニズムは、新協定ではそのまま残される。
3カ国政府は11月末の署名をめざす。発効に向けては各国議会の批准手続きが焦点となる。米国は11月の中間選挙で選出された新議会が年明けに審議する見通しだ が、中間選挙の結果、上院・下院のいずれかで民主党が過半数を取れば、否決される可能性もある。
USTRは概要を発表した。
農業分野 Agriculture: Market Access and Dairy Outcomes of the USMC Agreement
カナダ乳製品の市場開放:米国のみに新しい関税割当
カナダの乳価クラスシステムの変更:問題となっていたClass 6(低価格な原料乳製品向け生乳 の支持価格)、Class 7(無脂乳固形の支持価格)の廃止
カナダのチキン、卵と卵製品、七面鳥の新しい関税割当
貿易に関する事項 Modernizing NAFTA into a 21st Century Trade Agreement
知財の規定
DIGITAL TRADEの規定
為替問題:Macroeconomic Policies and Exchange Rate Mattersの章
競争のための通貨切り下げや目標レートを決めることでの不公正な通貨政策をやめ、透明性を増やし責任あるメカニズムをとるとの high-standard のコミット 。
これまでに例のない規定で、マクロ経済と、為替の安定を強化する。
(通貨政策に関する項目を貿易協定に明記するのは異例。韓国とのFTA改正の付属書にもあるが、韓国側はFTAとは別だとしている。)
労働規定
トランプ大統領は米国の労働者に利益がでることを再交渉の目的とした。Labor obligation を協定のコアとする。
団体交渉の権利を認める法制(メキシコ)やILOが認める労働者の権利を尊重するなど。
自動車について、時給16ドル以上の地域での生産割合 40~45%とする。
環境規定:労働規定とともに協定のコアとする。
違法漁業を助ける補助金の禁止、鯨や海亀の保護、野生動植物の税関検査強化、大気浄化・海洋投棄ゴミの減・森林管理のサポートと環境評価手続きなど
製造を守るための貿易のリバランス Rebalancing Trade to Support Manufacturing
自動車のRules of origin
域内部品調達比率 62.5%→75%
時給16ドル以上の地域での生産割合 40-45%付記 10月26日の日経は、現地生産する自動車について、エンジンや変速機といった主要部品を3カ国で生産するように義務付けていることが分かったと報じた。
下記の主要部品が1つでも域外製の場合、関税がゼロにならないという。日本や欧州の自動車メーカーの場合、主要部品を域外から持ち込んでいるモデルも多く、新たな設備投資や調達先の変更を迫られる可能性が出てきた。
商品市場のアクセス:非関税障壁、輸出入ライセンス
繊維:繊維とアパレル市場のサプライチェーンの強化
各分野のANNEX
自動車の数量規制については、上記の発表文にはなく、別文書で定められた。
カナダ、メキシコからの乗用車輸入にそれぞれ年260万台の数量枠を設け、枠内であれば高関税を課さない。
米国で人気が高い小型トラックは輸入制限の対象から外す。自動車部品でもカナダに年324億ドル、メキシコに年1080億ドルの輸入枠を設ける。
カナダ メキシコ 自動車関税ゼロ 条件 域内部品調達比率 62.5%→75%
時給16ドル以上の地域での生産割合 40-45%自動車関税ゼロ 限度 乗用車 年260万台
小型トラック 対象外自動車部品関税ゼロ 年間324億ドル限度 年間1080億ドル限度
なお、ガット第 11条により原則として輸出入数量制限を行なうことを禁止されている。
国際収支が著しく悪化している場合には,第 12条により最小限の輸入制限が認められる。
途上国の場合には,第 18条によってより緩やかな条件で国際収支擁護のための輸入制限が行なえる。日米自動車紛争で、日本は1981年に1980年実績から14万台減らした168万台という輸出枠を設定したが、自主規制という形をとった。
カナダ、メキシコでの日本車の最近の状況は次の通り。
カナダ メキシコ 生産 対米輸出 生産 対米輸出 トヨタ 57万台 45万台 15万台 14万台 ホンダ 43万台 32万台 21万台 13万台 日産 80万台 35万台 マツダ 18万台 7万台 合計 100万台 77万台 133万台 69万台 関税無し限度 260万台 260万台 2017年のメキシコから米国への自動車輸出は約180万台だったが、現状ペースでは2021年にはこれに達する見込み。
限度を超えた場合、メーカー別に枠をどう割り当てるのかは決まっていない。日本企業が不利となる恐れもないではない。
協定は16年間有効で、発効後、原則6年ごとに再評価し、各国が次の16年間の更新意思を示さないと失効する「サンセット条項」も盛り込んだ。
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