日米物品貿易協定について 

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日米首脳会談が9月26日夕(日本時間27日朝)ニューヨークで行われ、安倍首相とトランプ大統領が「日米物品貿易協定(TAG:Trade Agreement on Goods )」の交渉入りで合意した。

2018/9/27 日米、物品貿易協定交渉へ、交渉中は自動車追加関税回避

首相は記者会見で、「まさに物品貿易に関する交渉だ。これまで日本が結んできた包括的なFTAとは全く異なる」と説明した。
菅義偉官房長官も、「自由貿易協定(FTA)とは異なり、物品貿易に限定されるものであり、包括的なものではない」とした。

しかし、日米共同声明は次の通りとなっている。

日米物品貿易協定(TAG)について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する。

上記の協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする。

これはFTAそのものである。

更に、毎日新聞のコラムで知り、チェックすると、この共同声明は日米での協定の呼び名が異なる。

日本側:日米物品貿易協定(TAG)

米国側:United States-Japan Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services  (goodsは小文字)

米国側の表現では、「物品と、サービスを含む他の重要な分野に関する日米貿易協定」であり、「その後に他の貿易・投資の事項について交渉を行う」となっており、FTA交渉のうち、物品とサービス等について先行させるという意味になる。

米側発表には "TAG" の用語は使われていない。米側にとっては、FTA交渉である。

トランプ大統領とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表はFTA締結を目指すと発言した。

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WTOの規定によれば、TAGはFTAでないといけない。

TAGでは牛肉などの農林水産品について、「過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」としており、そこまでの関税引き下げを前提としている。そうでないと、米国が受け入れる筈がない。

WTO協定の基本原則の一つが最恵国待遇原則(Most Favoured Nation Treatment)であり、いずれかの国に与える最も有利な待遇を、他のすべての加盟国に対して与えなければならない 。

この原則の例外として認められているのはFTAの場合のみである。

米国に特恵的な関税引き下げをする以上、TAGは、仮に物品だけであっても、FTAでないといけないこととなる。

さもなければ、米国に認める関税引き下げをこれからFTA交渉をする他の全ての国に適用しないといけないこととなってしまう。

「FTAとは異なり、TAGである」とするのは、これまで、「米国にTPP復帰を求める、FTAはやらない」といってきた手前であろうが、姑息なやり方である。
最後まで「FTAでない」といっていると、WTO違反となってしまう。

日本は、米国が「農林水産品について,過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」という日本の政府の立場を尊重するということで、「TAG」の交渉入りで合意したが、パーデュー米農務長官は早速、日本との農産品を巡る通商交渉で、日本がEUと結んだEPAや、TPPを上回る水準の市場開放を求める考えを示しており、この点でも懸念される。


なお、FTAの場合GATT 24条により、「実質的に全ての貿易について」関税を撤廃することとなっている。実際には90%程度以上とされている。

米国とEUは7月25日、関税引き下げに向け EUと協力することで合意した。

・自動車以外の工業製品について、関税ゼロ、非関税障壁ゼロ、補助金ゼロに向かい、協力する。
・この間は、どちらかが交渉を取り止めない限り、この合意の精神に反する行動を行わない。(米国の自動車追加関税を回避)

2018/7/27 米国とEU、関税撤廃交渉へ 

自動車を除外すると貿易の90%を下回るため、最終的には自動車を含めざるを得ないとされる。

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