米商務省は10月29日、中国の福建省晋華集成電路(Jinhua Integrated Circuit Company:JHICC)に対する米国企業の輸出を制限したと発表した
輸出管理規則(Export Administration Regulations) 744.11(b) の"Entity List"に加えた。
米国の国家安全保障や外交政策上の利益に反する活動を行う、又は行う可能性のあると信じられる企業のリストで、その企業への輸出や再輸出は承認が必要となり、申請しても否定される可能性が強い。
「再輸出」の規制は米国の国内法を海外の国にも適用する「域外規制」であり、もし、日本企業がこれに違反し、米国品を再輸出した場合には、罰金、禁固、取引禁止顧客としての指定、米国政府調達からの除外等が課せられ、そのため実質的に米国との取引が以後出来なくなる事態が生じる。
これまでは、Entity Listは大量破壊兵器(WMD)プログラム、テロリズム又はその他の行為のリスクをもたらす恐れのある企業が対象で、「知財戦争」に適用するのは初めて。
商務省はJHICCには米国のセキュリティに反する行動を行う重要なリスクがあるとする。
同社はDRAMの大量生産が間近であり、米国発の技術であるこれらの生産は、米国の軍事システムに欠かせない製品を供給する米国企業が脅かされるリスクがあるとし、軍事上欠かせない部品のサプライチェーンを脅かすリスクを排除するとしている。「外国企業が米国の安全保障に反する活動をする場合、セキュリティ保護に強力な行動をとる」と述べた。
JHICCは米国のMicron Technology の技術を盗用しており、今後、同社が大量に生産を行うと、米国の競合企業が苦境に陥り、最終的に米国の軍事用重要な部品をJHICCに牛耳られることとなり、米国の国家安全保障を損なうという理屈である。
JHICCは、台湾の半導体大手UMC(United Microelectronics Corporation:聯華電子)から技術を導入し、56億5千万米ドルを投資して、福建省晋江市にメモリ製造工場を建設している。
完成予想図
米国のMicron Technology は、UMCがMicronの台湾拠点から人材を引き抜いて 半導体メモリーに関する企業秘密を不正に持ち出させたとし、UMCと JHICCを営業秘密防衛法及び不正収益・腐敗組織法に基づき、米カリフォルニア州の裁判所に訴えている。付記 米司法省は11月1日、連邦大審院が両社を起訴したと発表した。Micronの台湾子会社に所属した台湾籍の3人も起訴した。
逆に、UMCはMicronが中国で販売する製品が自社の特許を侵害したとして訴訟し、福州中級人民法院はUMCの主張を認め、MicronのDRAMやNANDフラッシュメモリー関連など26の半導体製品の販売を差し止める仮処分を下した。
2018/7/5 中国、Micron製品の一部販売差し止め命令
今回の米商務省の決定は、これに対する報復とみられる。
JHICCが実際に大量生産を行うためには、Applied Materialsや、半導体エッチング装置でNo.1 のLam Research、プロセスコントローのKLA-Tencor などの米国企業の半導体製造装置が不可欠とされる。日本企業などの製造装置で一部は代替できるが、全ての工程は難しい。
JHICCは2016年に福建省政府系の福建省電子信息集團や晉江能源投資集團などの共同出資で設立され、「中国製造2025」の柱となる企業だが、今回の措置で半導体の量産に赤信号が点いた。
中国商務部は10月30日、下記の談話を発表した。
米国の一方的な措置に反対する。米国が適切な措置を執り、直ちに誤ったやり方をやめるよう呼びかける。
米商務省が福建省晋華集積回路有限公司を輸出規制の『実体リスト』に入れたことに注目している。中国は米国が国家安全保障の概念を一般化し、輸出規制措置を乱用することに反対し、米国が一方的な制裁を実施し、企業の正常な国際貿易・国際協力の展開への干渉に反対する。
中国は米国が適切な措置を執り、直ちに誤ったやり方をやめ、双方の企業の正常な貿易・協力の展開を円滑にし促進し、双方の企業の合法的権利を守るよう呼びかける。
米国と中国の知財を巡る争いはドンドン激化しつつある。
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