英国のメイ首相は12月10日、英国のEUからの離脱案を巡り、12月11日に議会下院で予定していた採決を見送ると表明した。
離脱案の内容に対して野党だけでなく与党の一部からの反発も強く、このままでは採決しても否決が確実だと判断した。
特に、Backstop案(移行期間中にも北アイルランド問題が解決しない場合に英国全土をEU関税同盟に残すという最後の策)では英国が永遠にEU関税同盟に残ることとなり、「EUの政策決定に関与できないまま、EU規則に縛られ続ける」と不満が噴出している。
英国政府は12月5日、EU離脱に関してメイ首相がコックス法務長官から受けた法的助言の全文を公表した。首相が全文公開を拒否したことが議会侮辱に当たると認定する動議を可決し、公表を余儀なくされた。
助言には、アイルランドの国境管理厳格化を避けるためのBackstopを巡り、英国がEU関税同盟に無期限にとどまるリスクが明記されている。
Backstopについては「恒久的なものを意図しておらず、別の恒久的な取り決めに替えるという当事者の明確な意思を記すものだが、国際法では代替的な合意が取り交わされるまでの間、無期限に存続する」と指摘、「停止する権利がないため、英国が長期的、反復的な交渉に縛られる法的リスクがある」としている。
メイ政権に閣外協力する北アイルランドの地域政党、民主統一党は、法的助言は「破滅的」との見解を示した。
離脱協定が発効するには下院(定数650)での合意案承認が不可欠で、正副議長らを除いた639の過半数(320)の支持が必要 である。与党・保守党は下院で315議席を保持するが、 野党第1党の労働党だけでなく、保守党からも100名程度が反対するとみられ、採決した場合、大差で否決されるとみられていた。
首相はEUと再交渉して合意の修正を試みたうえで、議会の承認をめざすとみられる。
しかし、EU側は現在の合意が「唯一の選択肢」としており、再交渉に応じるかは不透明だ。
EUのトゥスク大統領は、EUが12/13-14に開く首脳会議で英国のEU離脱が議題に取り上げられるが、離脱合意案の再交渉は行わないと言明、「Backstopを含め、合意は再交渉しない」と述べた。ただ「合意なき離脱シナリオへの対応についても討議する」とした。
与党内の意見はまとまっておらず、首相が英国内の意思をまとめた修正案を作れるかどうかも不明である。
保守党内では「EU離脱により英国の主権の回復が必要」という強硬離脱派の発言力が強いが、EUとの経済関係の維持を求める意見も根強い。
付記
英国の与党・保守党は12月12日夜にメイ党首(首相)の信任投票を行い、メイ党首の続投を決めた。
保守党の規約では下院議員の15%(現在は48人)が党首交代を求める書簡を提出すると信任投票が行われる。今回はEUからの決別も辞さない強硬離脱派の議員を中心に書簡が集まった。
一時的に党を離れていた議員も含め317人が投票。信任200、不信任117で、メイ氏の信任が決まった。
メイ氏は投票に先立つ演説で「次の選挙(今の下院議員の任期は2022年まで)の時に、私は党首(首相)としては選挙戦に臨まない」と述べた。
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EU司法裁判所は12月10日、英国は、EU加盟国の同意なしに、EU離脱を一方的に撤回できるとの裁定を下した。
Brexit 反対派の英国の政治家や活動家のグループはかねてから、英国は一方的にEU離脱プロセスを止めることができるはずだと主張していた。一方で英政府やEUは、この主張を否定してきた。
今回の裁定を「追い風」に国民投票を再実施してEU残留を決めるとの動きが強まる可能性がある。ただし、メイ首相は国民投票の再実施に否定的である。
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