三菱重工、トルコ原発計画断念へ

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政府や三菱重工業などの官民連合がトルコの原子力発電所の建設計画を断念する方向で最終調整に入った。日本経済新聞が報じた。


三菱重工は「当社が発表したものではない」とのコメントを出した。7月末に提出した事業化に向けた調査報告書(FS)をトルコ政府エネルギー・天然資源省にて評価中であるとしている。

建設費が当初想定の2倍近くに膨らみ、トルコ側と条件面で折り合えなかった。


三菱重工業とフランスのArebaは、1991年に燃料サイクル分野において合弁会社を設立、2006年には原子力事業でのより広範な協調で合意した。

2007年7月11日にArevaとの折半出資による合弁会社ATMEA社を設立、両社技術を融合した電気出力110万kW級の最新鋭の加圧水型軽水炉(PWR)ATMEA 1 を開発した。

2017年にフランス政府は、Arevaの救済のため、抜本的な同社の構造改革を決めた。

原子力部門はフランス電力(EDF)が主体で、三菱重工も出資した。(文末に再編図)

これに伴い、合弁会社ATMEAも、2018年1月1日にEDFと三菱重工の50/50 JVとなった。

ATMEA 1 はトルコのSinop原発で110万kW 4基の採用が決まった。 トルコの原発計画は、日本政府が成長戦略として推進する原発輸出政策の一環と位置づけられている。2013年に安倍晋三首相とトルコのエルドアン首相(現大統領)がトップ会談して本格的に動き出した。

2013年5月に日本・トルコ両政府は原子力協定と原子力発電所建設の細目を規定した政府間協定に調印したのに続いて、2013年10月に商業契約を締結した。

ロシアのRosatomが受注したAkkuyu 原発に続くもの。

Westinghouseは、トルコの三番目の原発計画(イーネアダ原発)でAP1000の原子炉4基を建設する方向で交渉したが、断念 した。

事業主体の国際コンソーシアムには、三菱重工業 15%、伊藤忠商事 15%、GDF Suez(現 Engie)21%、トルコ国営電力会社(EUAS)49%が出資することとなっていた。

トルコ建国100周年を迎える2023年の1号基稼働を目指した。

2013年当時の総事業費の見込みは2兆円規模だった。しかし、2011年の福島第1原発事故の後に強化された安全基準に対応した結果、総事業費は増大した。

低価格で原発輸出を進める中ロと比較され「価格差が開きすぎた」。今夏以降のトルコの通貨リラ急落も響いた。

2018年3月に採算性の調査を担当する三菱重工が内々にトルコ政府に事業費の見積もり を伝えたが、トルコ政府にはねつけられた。

三菱重工が7月末に提出した報告書では建設費が当初の2倍近くに膨らみ、総事業費は5兆円規模に達した とされる。

企業連合の出資で3割、日本の国際協力銀行などの融資で7割の建設費を確保し、売電収入で資金を回収する枠組みを想定していたが、 完全に予定が狂った。

日本、トルコ両政府が2013年に大筋合意した想定売電価格ではコストが回収できないのは明らかで、価格見直しが争点となるが、トルコ政府としても大幅値上げは難しいとみられる。


伊藤忠商事は、事業への参画はリスクが高いとみて、2018年3月末で離脱した。

三菱重工社長は2018年6月の朝日新聞のインタビューで、次のように述べた。

「われわれは(企業連合に)入る予定だが、事業体が成り立つかどうか。すべて責任を負うわけではない。設備の製造では中核になるが、事業体の中核にはならないと思う。どこが(中核に)なるかはこれからの問題で、コメントできない」

目標とする2023年からの稼働 は、「コメントできる立場ではないが、現実論として原発はかなり期間がかかるというのは事実だ」

「われわれが着工できる条件を、採算性調査の中で申し上げることに全力を尽くす。それが関係者にとって満足いくかどうかは、また別の話。みんながやりたいということにならないと進まないと思う」

他方、ロシアのRosatomが受注したAkkuyu 原発については、4基(能力は各120万kW)のうちの1号機の起工式が2018年4月に行われた。両国大統領は映像回線経由で参加した。

エルドアン大統領は「4基すべてが稼働すれば、同原発がトルコの必要電力の10%を賄う」と言及。計画は遅延しているが、2023年には1号機の運転を開始すると述べた。

総投資額は220億ドルと見積もられていたが、現時点での投資額は不明。

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東芝(Westinghouse)の撤退を含め、日本企業の海外原発計画は進展していない。

日英両政府は2016年12月22日、原子力分野で包括的に協力する覚書を結んだが、覚書では、日立傘下のHorizon Nuclear Power の英中部Wylfaの原発計画に加え、東芝傘下のNuGenが英中部 Moorside(Sellafield)で計画する原発について言及している。

2016/12/27 日英、原発建設協力で覚書、日立・東芝の案件対象

東芝は11月8日、英国における原子力発電所新規建設事業からの撤退を決定し、連結子会社のNewGeneration (NuGen)を解散すると発表した。

これまで売却交渉を続けてきたが、2018年度中のNuGen社の株式売却完了の見通しが立たないこと、及びNuGen社維持費用の継続負担等を勘案し、経済合理性の観点から、今般、解散を決めた。

2018/11/9 東芝、英原発事業を清算

朝日新聞は8月17日、「日立の英原発建設、米大手が外れる方向 建設費の高騰で」と報じた。

北ウエールズのAnglesey島 Wylfa Newydd における原子力発電所の建設(Horizon Project)で、建設工事の中核から米建設大手 Bechtelが外れる方向になった。建設費の高騰で採算をとりづらくなっているためで、原発建設のノウハウに乏しい日立には痛手となるとしている。

日本側も英国側も出資の目途はたっていない。
また、完成した場合の電力の買い取り価格も決まっていない。

2018/8/22 日立の英原発計画がピンチ

ベトナム政府は2016年11月22日、日本企業が受注し、同国南部に建設することになっていたベトナムで初めての原子力発電所の建設計画を中止すると決めた。

2016/11/14  ベトナムの原発建設計画 中止へ

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2017年のフランス政府によるArevaの構造改革のスキーム:


2017/7/14 三菱重工業、フランスのアレバ原子炉事業に出資

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