米中貿易協議 難航必至

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トランプ米大統領と習近平中国・国家主席は12月1日、G20出席のため訪問中のBuenos Airesで首脳会談を開き、米国が中国への追加関税を猶予することを決めた。
米国は、2000億ドル分の中国製品について、2019年1月1日に追加関税を25%に引き上げるのを止め、当面 10%に留める。

両国は直ちに、(1)米企業への技術移転の強要 (2)知的財産権の保護 (3)非関税障壁 (4)サイバー攻撃とサイバー犯罪(窃盗)(5)サービスと農業の市場開放 の5分野での構造変化の協議を開始し、90日以内に結論を得ることで合意した。

中国との協議で合意できなかった場合、制裁関税を2019年3月2日に引き上げる。

トランプ大統領は対中協議の責任者に、政権きっての対中強硬派のLighthizer USTR代表を指名した。

米中が2019年1月に会合を開き、通商を巡る合意を文書化する意向だが、3月1日の期限までに米中が妥協策を見いだせるかが焦点となる。


日本経済新聞(2018/12/23)は、「 米中協議 『合意は険しい』 中国産業政策 全面転換迫る」と題して、ホワイトハウスのPeter Navarro通商製造業政策局長とのインタビューを掲載している。

Peter NavarroはUniversity of California, Irvine の経済学・公共政策学の教授だが、トランプの大統領選キャンペーンの政策アドバイザーに就任、2016年12月にトランプ次期大統領の指名を受け、新設のホワイトハウス国家通商会議の委員長に就任した。

2017年4月に、ホワイトハウスは国家通商会議を廃止し、通商製造業政策局(OTMP)を新設したが、Navarro はそのトップになった。

OTMPは貿易や製造業に関する政策について大統領に助言するほか、ホワイトハウスと商務省など通商関連官庁との調整や、米国製品の購入や米国人の雇用を促す政策の支援も担当する。OTMPの設置は、「米国の製造業や国防の基盤が損なわれるなか、米国はもはや不正な貿易は容認しないという重要なメッセージだ」とされる。

Navarro は、『中国がもたらす死(Death by China:Confronting the Dragon - A Global Call to Action』を出版、2012年にこれをもとにしたドキュメンタリー映画を監督・プロデュースした。

中国がWTOに加盟し、米中間で自由貿易が開始されて以降、アメリカ国民やアメリカ経済がいかに被害を受けたかが描かれている。アメリカからは工場と仕事が消え、製造業の拠点もなくなっていく。その一方、中国はますますアメリカ国債を所有する......。アメリカが抱える問題の深刻さを、データやインタビューを通じて生々しく描写。


2018年6月19日にNavarroが率いる OTMPは「
How China's Economic Aggression Threatens the Technologies and Intellectual Property of the United States and the World (中国の経済的攻撃はいかに米国と世界の技術と知的財産を脅かしているか)」と題する報告書を発表した。

今回、Peter Navarroはインタビューで、この報告書を引用して、次のように述べている。

報告書で明確に指摘しているのは、中国による米企業への技術移転の強要であり、サイバー攻撃であり、長年にわたるスパイ活動への懸念だ。製造業や先端技術などすべての中国産業を守るため、高率の関税を課し(許認可などの)非関税障壁もある。

どのように中国が我々の技術を追いかけて、日本や米国、欧州の将来を盗もうとしているか。この解決が2019年3月1日までの90日間の交渉の主題だ。

サイバー攻撃や為替操作など中国が関与している50の慣行がある。これらのすべてがWTOルールに違反する不公正政策だ。90日間の交渉が成功と言えるようになるのは、これらのすべての問題に対処しなければいけない。90日での解決は険しい。


中国の政策や慣行をすべて改めないと駄目ということでは、解決は無理と思われる。

中国も、部分的には政策や慣行を改めようとしてはいる。

全人民常務委員会は12月23日、外資投資を保護する外商投資法案の審議を始めた。

法案の内容
 「技術協力の条件は双方の協議で決め、行政手段で強制してはならない」
 「外国投資家の中国での出資、利潤、資本収益などは法に基づいて人民元や外資で自由に海外送金できる」

ーーー

中国の最高人民法院(最高裁)は、2019年1月から知的財産権を巡る紛争を専門に解決する専門部門「知的財産権法廷」の運営を始める。習指導部は最高裁の専門部門設置で保護強化をアピールする。

知財紛争を巡っては、主要16都市の地裁に知財を専門に扱う部門「知的財産権法廷」があり、北京、上海、広州に知財専門裁判所がある。国際的に影響が大きい複雑な案件が増えていることなどから、最高裁の新設部門は上訴された案件の審理を手掛ける。

ーーー

上記のOTMPの報告書では、中国が知的財産を盗み、米国の経済と国家安全保障を脅かす産業政策を追求しているとして厳しく批判している。

中国の目覚ましい経済成長は「世界的な規範・規則を逸脱する攻撃的な行動や政策、慣行を通じて成し遂げられた部分が大きい」とする。

さらに「中国経済の規模と、市場をゆがめる政策の程度を踏まえると、中国の経済的攻撃は今や、米経済だけでなく世界経済全体を脅かしている」と指摘する。

「企業の部内者や企業秘密および極秘の企業情報への信頼されたアクセスを持つ者による経済スパイを通じた物理的な窃盗が、米国の技術や知的財産を手に入れる重要な手段を中国にもたらした」と非難している。

内容は次の通り。

 中国の狙い

国内市場保護:Protect China's Home Market From Importsand Competition
世界シェアの拡大:Expand China's Share of Global Markets
重要天然資源の囲い込み・支配:Secure and Control Core Natural Resources Globally
製造業の支配:Dominate Traditional Manufacturing Industries
キイとなる技術・知財の取得:Acquire Key Technologies and Intellectual Property From Other Countries, Including the United States
先端産業育成:Capture the Emerging High-Technology Industries that will drive Future Economic Growth and Many Advancements in the Defense Industry

 中国の技術・知財取得のやり方 (それぞれについて詳述している。)

1. 窃盗:Physical Theft and Cyber-Enabled Theft of Technologies and IP
Physical Theft of Technologies and IP Through Economic Espionage
Cyber-Enabled Espionage and Theft
Evasion of U.S. Export Control Laws
Counterfeiting and Piracy
Reverse Engineering
2. 強制・規制:Coercive and Intrusive Regulatory Gambits
Foreign Ownership Restrictions
Adverse Administrative Approvals and Licensing Requirements
Discriminatory Patent and Other IP Rights Restrictions
Security Reviews Force Technology and IP Transfers
Secure and Controllable Technology Standards
Data Localization Mandates
Burdensome and Intrusive Testing
Discriminatory Catalogues and Lists
Government Procurement Restrictions
Indigenous Technology Standards That Deviate From International Norms
Forced Research and Development
Antimonopoly Law Extortion
Expert Review Panels Force Disclosure of Proprietary Information
Chinese Communist Party Co-opts Corporate Governance
Placement of Chinese Employees with Foreign Joint Ventures
3. 経済的強制:Economic Coercion
Export Restraints Restrict Access to Raw Materials
Monopsony Purchasing Power
4. 情報収集:Information Harvesting
Open Source Collection of Science and Technology Information
Chinese Nationals in U.S. as Non-Traditional Information Collectors
Recruitment of Science, Technology, Business, and Finance Talent
5. 国営企業による技術獲得のための投資:State-Sponsored, Technology-Seeking Investment
Chinese State Actors Involved in Technology-Seeking FDI
Chinese Investment Vehicles Used to Acquire and Transfer U.S. Technologies and IP
  ・Mergers and Acquisitions
 ・Greenfield Investments
 ・Seed and Venture Funding


発表に際し、日経の記事の図表の元(
中国が関与している50の慣行)が示された。

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