米最高裁は12月21日、国境を不法に越えた中南米などの人々による難民申請を制限する大統領令について、その効力を停止した司法判断に対するトランプ大統領の差し止め請求を却下した。
当面は不法に入国した人々も、これまで通り難民申請ができることになる。
トランプ大統領が、大統領の決定を裁判所が差し止めたのを批判したのに対して、最高裁長官が異例の抗議を行い、それに対して大統領が更に反論するという異例の事態となった。
トランプ大統領は11月9日、「キャラバン」と呼ばれる移民集団を念頭に、難民申請の手続きに関する規則を変更し、メキシコ国境では入国前に検問所だけで受け付け、検問所を通らず国境を越えた不法移民の難民申請は受け付けないとする大統領令に署名した。合法的な難民申請に対する審査も厳格化する見通し。
大統領は、不法入国者が米国内で捕まった後、本国で迫害を受ける恐れがあると訴えて難民申請をした後、行方が分からなくなるケースが増えていると指摘。「外国籍の人がいったん米国に入国すると、退去させるのは難しい。巨大な移民集団を今すぐ取り除くことに失敗すれば、さらなる不法移民集団が我が国に押し寄せる」と強調した。
これに対し、アメリカ自由人権協会(ACLU)は同日、「いかなる所でも難民申請はできる」と反発し、大統領令を無効にするよう裁判所に提訴した。
カリフォルニア州サンフランシスコの連邦地裁は11月19日、この大統領令について、移民法に違反するとして一時的に差し止める仮処分命令を出した。仮処分命令は次回審理が予定されている12月19日までのもので、即時、全米で有効とした。延長の可能性もある。判事は、1965年に改正された移民国籍法では、米国に到着した外国人は誰でも、正規の入国地点からであるか否かにかかわらず難民申請が可能としていると指摘、今回の規則は、移民国籍法および連邦議会が表明した意図と相いれない矛盾があると述べた。
これに対し、サンダース大統領報道官は11月20日、「移民制度を管理する行政府の権限への干渉だ」と非難する声明を出した。その上で、政府方針を堅持するため「必要なあらゆる行動を取る」と争う姿勢を示した。
トランプ大統領は22日、地裁判事を"Obama Judge"と呼び批判した。
「重大な苦情("a major complaint")を申し立てる。これはオバマ判事だ。こんなことは再び起こさせない。最高裁で勝つ」と述べた。「我々はいつも第9巡回裁判所では勝つことができないし、これは不名誉だと思う」とも述べた。
2018/11/27 米最高裁長官がトランプ大統領に異例の抗議 "Obama Judge"
サンフランシスコ連邦地裁の11月19日の判決に対し、政府は控訴した。しかし、サンフランシスコの連邦高裁は12月7日、これを退けた。
トランプ政権は12月11日、連邦最高裁判所に緊急上訴した。
(連邦地裁は12月19日、当初の同日までの仮処分を延長した。)
米連邦最高裁は12月21日、米国への難民申請の権利を制限するトランプ政権の大統領令を一時差し止めた地裁命令について、支持する判断を下した。
現在、最高裁判事9人は保守派5人、リベラル派4人の構成だが、今回、保守派のロバーツ長官 が差し止め支持に回り、賛成5人、反対4人で差し止め支持となった。
当面は不法に入国した人々も、これまで通り難民申請ができることになる。
現在の最高裁の構成は次の通り。
性別 年齢 人種背景 指名した大統領 就任日 判断傾向 Clarence Thomas 男性 70歳 アフリカ系 George H. W. Bush 1991年10月23日 保守 Ruth Bader Ginsburg 女性 85歳 ユダヤ系 Bill Clinton 1993年8月10日 リベラル Stephen Breyer 男性 80歳 ユダヤ系 1994年8月3日 リベラル John Roberts 長官 男性 63歳 白人系 George W. Bush 2005年9月29日 保守 Samuel Alito 男性 68歳 イタリア系 2006年1月31日 保守 Sonia Sotomayor 女性 64歳 ラテン系 Barack Obama 2009年8月8日 リベラル Elena Kagan 女性 58歳 ユダヤ系 2010年8月7日 リベラル Neil Gorsuch 男性 51歳 白人系 Donald Trump 2017年4月10日 保守 Brett Kavanaugh 男性 53歳 白人系 2018年10月6日 保守
2016年に Scalia 判事が死去するまでは、リベラル派が4人、保守派が4人で、保守系中道のKennedy判事が「スイングボート」として、判決を左右してきた。
保守派 Kennedy
保守系中道
(swing)リベラル派 以前 4 ← 1 → 4 2016 Scalia 判事死去 3 ← 1 → 4 2017 Gorsuch 就任 4 ← 1 → 4 2018 Kennedy 引退、Kavanaugh指名 5 ー 4
トランプ大統領は10月のKavanaugh判事の就任で保守派を5人とし、最高裁で思い通りの判決を獲得できるとみていたが、Roberts 長官が差し止め支持に回り、思惑が外れた。
なお、リベラル派のGinsburg 判事は高齢で、体調が悪く、職務を続けられない事態となる可能性がある。その場合、トランプ大統領が保守派判事を指名するのは必至。
11月7日に最高裁の執務室で転倒して肋骨が3本折れ、首都ワシントン市内の病院に入院した。9日に退院した。12月21日 (上記の判決後)、ニューヨーク市内の病院で左肺からがん性の小結節 2つを取り除く手術を受けたと発表した。術後の経過は良好で、数日間安静に過ごした後に退院する見通し。今後、追加治療を行う計画もない。
付記 12月25日に退院し、自宅療養。
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