英下院、「合意なき離脱」を否決

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英国の下院は3月12日夜、英政府がEUとの間で前日にまとめた離脱条件の協定の承認採決を行い、大差でこれを否決した。

次は、「合意なき離脱」 をするかどうかである。

「合意なき離脱」の場合、ロイターによると下記の事態が起こる。

① 英国経済

イングランド銀行総裁は、英国経済に対し、1970年代の石油危機に匹敵する「大きなマイナスのショック」を与えると警鐘を鳴らした。

国際通貨基金(IMF)では、合意なきブレグジットによって英国経済はマイナス成長に陥ると予測している。

英国に進出してる外国企業の撤退、EUへの移転が進むと予想される。

② 貿易

英国の輸出企業はEUの輸入関税に直面する。関税率は平均5%だが、自動車に10%が課せられる。

製造企業は、通関手続の遅れによって自らの「ジャストインタイム」製造方式に支障が出ることを危惧している。

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英国はどの国ともFTAを締結していないため、関税が世界貿易機関(WTO)ルールに準拠して発生する。通関手続きも復活する。

英政府は3月13日、合意なき離脱となった場合、輸入関税を引き下げると発表した。

金額ベースで英国への輸入品の87%に相当する商品が無関税となる。現在は80%が無関税。

EUからの輸入品は現在は100%が無関税だが、82%が無関税となる。
EU以外からの輸入品は現在は56%が無関税だが、92%が無関税となる。

これは、英国の輸入関税の話であり、輸出先はこれと無関係に、(従来のEUメンバーとしての関税ではなく)WTOルールで関税をかける。
輸出産業は被害を受けることとなる。

英国の生産者を保護するための措置も継続する。自動車メーカー、牛肉、ラム肉、豚肉、鶏肉、酪農製品の生産者などが対象となる。

③ 港湾、企業倒産、備蓄

最初に影響が出る可能性が高いのは、港湾と空港で、英政府は、イングランド南部の自動車専用道路2本と空港1カ所を、必要に応じて大型トラック駐車場に転用する計画を立てている。

部品・原材料等の通関手続が10─30分遅延することによって倒産する懸念を抱いている英国企業は、全体の10分の1に及ぶとの試算がある。

英国政府は製薬企業に対し、薬剤の備蓄を通常より6週間分積み増しするよう要請している。

英ポンド

恐らくポンドは下落する。


合意なき離脱となった場合、アイルランドとの国境の管理をどうするかが大きな問題である。厳格な国境管理が復活すれば、北アイルランド紛争の再発の懸念がある。

英政府は3月13日、合意なき離脱となった場合、アイルランドと北アイルランドの厳格な国境管理を回避すると表明した。

合意なき離脱となった場合、アイルランドから北アイルランドへの商品の輸入について新たな検査や管理を導入しない。企業の自己申告に頼り、国境を越えた取引を記録するためアプリベースのシステムを活用するという。新たな輸入関税制度は適用しない。

この計画は一時的かつ一方向のもので、長期的な対策については、EU・アイルランド政府と早急に協議を開始するとしている。

EUがこの案を受け入れるかどうかは不明。
Backstopでは、EUはEU制限物資が他から入るのを防ぐため、北アイルランドのみにEU規制を残すことを求めている。

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下院は3月13日夜、「合意なき離脱」の採決を行った。

首相の当初の採決案は、3月29日の合意なき離脱を拒否するというものであったが、議員の修正案は「3月29日の」を除外し、「合意なき離脱を拒否」というものである。

下院はこれを321対278で可決した。今回の議決は、政府の決定に対して法的拘束力は持たない。

議員 議長他
不投票
投票権者 賛成 反対 棄権
保守党 315 2 313 17 265 31
民主統一党 10   10 10
(与党) (325)   (323) (17) (275) (31)
労働党 245 2 243 235 2 6
スコットランド国民党 35   35 35
自由民主党 11   11 11
独立党 10   10 7 1 2
独立グループ 11 11 11
シン・フェイン党 7 7 7
プライド・カムリ 4   4 4
緑の党 1   1 1
合計(欠員 1) 649 4 645 321 278 46

次にもう一つの議員提案を採決した。Brexitを5月22日まで延期し、それまでに合意がなければ離脱するというもの。

下院はこれを否決した。

議員 議長他
不投票
投票権者 賛成 反対 棄権
保守党 315 2 313 149 66 98
民主統一党 10   10 10
(与党) (325)   (323) (159) (66) (98)
労働党 245 2 243 4 238 1
スコットランド国民党 35   35 35
自由民主党 11   11 11
独立党 10   10 1 8 1
独立グループ 11 11 11
シン・フェイン党 7 7 7
プライド・カムリ 4   4 4
緑の党 1   1 1
合計(欠員 1) 649 4 645 164 374 107



次は、「離脱延期」の採決となる。

EU残留派は今回の「合意なき離脱を拒否 」の可決を受け、2度目の国民投票の要求を強めており、23日には再投票を求める大規模なデモも予定する。

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