審判制度は、公取委の命令に対する不服を公取委職員の審判官が審理する制度 で、中立性に疑問があるとして2013年の独禁法改正で廃止された。
クアルコムは2009年に審判を請求し、2010年1月に審判が開始されており、審理が続く間、命令の執行は停止されていた。
2009年9月28日付けの排除措置命令の内容は下記の通り。
1) 違反行為
クアルコムは、国内端末等製造販売業者 (NEC、シャープなど国内メーカー18社) に対し、CDMA携帯無線通信に係る知的財産権の実施権等を一括して許諾するに当たり、以下を求めた。
CDMA携帯電話端末及びCDMA携帯電話基地局に用いられる半導体集積回路等の製造、販売等に関し、
(1)国内端末等製造販売業者等の知的財産権について、クアルコムに対して、その実施権等を無償で許諾する。
(2)当該知的財産権に基づいて、クアルコム等又はクアルコムの顧客に対し、権利主張を行わないことを約する。
(3)当該知的財産権に基づいて、クアルコムのライセンシーに対し、権利主張を行わないことを約する。
このことから、国内端末等製造販売業者等のCDMA携帯電話端末及びCDMA携帯電話基地局並びにこれらに用いられる半導体集積回路等に関する技術の研究開発意欲が損なわれ、また、クアルコムの当該技術に係る市場における有力な地位が強化されることとなり、当該技術に係る市場における公正な競争が阻害されるおそれがある。
公取委は下記の点を問題とした。
1) 国内業者がクアルコムの特許を使う場合は使用料を払う一方、クアルコムは各社の特許を無料で使える「無償許諾条項」
2) クアルコムの特許を利用する各国の企業間で特許侵害があっても訴訟などで争わない「非係争条項」
2) 排除措置命令の概要
(1)クアルコムは、本件ライセンス契約の上記の規定を破棄しなければならない。
(2)業務執行の決定機関において決議
(3)国内端末等製造販売業者に通知
(4)クアルコムは、今後、同様の行為を行ってはならず、また、子会社をして行わせてはならない。
今回の審判の内容は下記の通り。
本件ライセンス契約は、クアルコムが保有する知的財産権の実施権を許諾するのに対し、国内業者も保有する知的財産権の非独占的な実施権を許諾するというクロスライセンス契約としての性質を有し ている。
クアルコムのライセンシーに対する非係争条項も、国内業者と同様の条項を規定した他の被審人のライセンシーが 、相互に保有する知的財産権の使用を可能とするものとして、クロスライセンス契約に類似した性質を有するものと認めるのが相当である。
クロスライセンス契約を締結すること自体は原則として公正競争阻害性を有するものとは認められないことからすると 、公正な競争秩序に悪影響を及ぼす可能性があると認められるためには、本件ライセンス契約について、国内業者の研究開発意欲を阻害するなどしている点についての証拠等に基づくある程度具体的な立証等が必要になる。
排除措置命令の審査官は、
〔1〕本件無償許諾条項等の適用範囲が広範であること、
〔2〕本件無償許諾条項等が無償ライセンスとしての性質を有すること、
〔3〕本件無償許諾条項等が不均衡であることから、
国内業者の研究開発意欲を阻害するおそれがあると推認できる程度に不合理であると主張するが、
次の点でいずれもその根拠を欠く。
〔1〕特に広範なものであると認めるに足りる証拠はない
〔2〕クアルコムの知的財産権の実施権の許諾を得ており、クロスライセンスの性質を有するため、対価無しの無償ライセンスではない。
〔3〕国内業者が負う義務とクアルコムが得られる権利だけを考慮し、国内業者が得られる権利やクアルコムが負う義務を考慮しないもので適切でない。
研究開発意欲阻害のおそれについて、
a 審査官は、新たな技術のための研究開発活動への再投資を妨げられたとする事由として、ロイヤルティ料率の調整を受けたりすることができなかったこと 、製品の差別化が実際に困難となったこと、権利行使ができなかった事例が存在すること等を主張するが、いずれも認められない。
b 国内業者の研究開発意欲を阻害するおそれがあると推認できる程度に広範、無償、不均衡で不合理なものと認めるに足りる証拠がない。
結論
第三世代携帯無線通信規格に必須である工業所有権のクアルコムの保有状況等からすれば、クアルコムは、CDMA携帯電話端末等に関する技術に係る市場において有力な地位を有していたものと推認されるところ、
このようなクアルコムによる国内業者との間の本件ライセンス契約の締結に至る過程において、本件排除措置命令が摘示する拘束条件付取引に該当するものとして公正競争阻害性を有すると認めるに足りる証拠はなく、上記の点を根拠として、被審人に対して排除措置命令を発することはできない。
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