英国の混迷の原因

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英国の混迷が続いている。

英下院は離脱予定日の3月29日、離脱協定案について3回目の採決を行い、賛成286、反対344の反対多数で否決した。

離脱日は4月12日まで延期された。英国はこの日までに、5月23〜26日に実施される欧州議会選挙への参加有無も含め、離脱の長期延期か、「合意なき離脱」か、離脱の撤回か、を示すことが求められる。

しかし、案がまとまる見込みはすくなく、合意なき離脱の可能性も大きい。

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原因はいろいろあるが、まず英国の首相に2つの誤算があった。

1)キャメロン首相の誤算

英国内でEU離脱の声が高まった2016年に、Cameron英首相は英国のEU離脱を回避するため、EUの改革を求めた。

欧州連合は2016年2月19日夜、ブリュッセルで開いた首脳会議で、英首相が求めているEU改革案を巡って全会一致で合意した。


合意を受けCameron首相は、6月23日に国民投票を実施することを決め、自らはEU残留を訴えていく考えを明らかにした。

首相は、「イギリスは、改革後のEUの中でより安全で強く、豊かになるだろう」と述べ、離脱派の主張について、「離脱した場合、統一市場との自由な貿易を続けられるか、雇用は確保されるか、明らかにできていない」と述べ、牽制した。

2016/2/22 EU首脳会議、英離脱回避へ改革案合意

2016年6月23日英国で実施されたEU離脱の是非を問う国民投票は、大方の予想を裏切る「離脱」という結果となった。 これについて後述。

2016/6/25 英国、EU離脱


2) 後継のメイ首相の誤算

テリーザ・メイ首相は2017年4月18日、「国益のため」に、6週間後の6月8日に解散総選挙を前倒しする意向を表明した。

この時点で与党保守党は650票のうち331票で過半数を確保していたが、 総選挙に勝利することで、「この先数年間にわたる確実性と安定性を確保」し、EU離脱を含む政策の実施に欠かせない国民からの信任を確固なものにしたいと述べた。

結果は圧倒的多数を確保する狙いに対し惨敗で、保守党は過半数を取れず、北アイルランドの民主統一党を引き込み(閣外協力)、ギリギリで過半数を取った。

国民投票直後に、離脱派が主張してきたことが誤りであったことが判明し、「うそを信じてしまった」と離脱に投票したことを後悔する書き込みが増加し、「BREXIT」(Britain Exit )に絡め、BREGRET (Britain Regret) が使われたが、首相は国民の考え方が変わったことを読んでいなかった。

2016/6/28 BREXIT からBREGRET(Britain Regret) へ 

この結果、与党内の過激派が反対に廻ると、政府案は必ず否決されるという状況に陥った。

2017/6/8 選挙 異動 2019/1/15 異動 現状
保守党(議長含む) 331 -13 318 318 -4 314
民主統一党 8 +2 10 10 10
(与党)

(328) (328) (324)
労働党 232 +30 262 -6 256 -11 245
スコットランド国民党 56 -21 35 35 35
自由民主党 8 +4 12 -1 11 11
独立党 1 -1 0 +8 8 +3 11
独立グループ 0 +11 11
シンフェイン党 4 +3 7 7 7
ブライドカムリ 3 +1 4 4 4
緑の党 1 1 1 1
社会民主労働党 3 -3 0
アルスター統一党 2 -2 0
無所属 1 1 -1
合計 650 0 650 0 650 -1 649

労働党議員 1名 が本年に死亡。議員のうち議長団4名(保守党、労働党各2名)とシンフェイン党は投票せず。

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2016年6月の国民投票で、政府側はBrexitの問題点を国民に指摘しなかったことが、離脱賛成となった。

1) 最大の問題はアイルランドとの国境問題である。

北アイルランドの平和を維持するため、アイルランドとの国境を復活させることは出来ず、完全なBrexitを実施する方法はない。下手をすれば北アイルランドを分離することにも成りかねない。

不思議なことに、こんな重要な問題についてBrexitの検討中に議論された様子が全く見られない。 国民の判断材料にはなっていない。

2019/2/11 Brexitの問題の根源(続き)-「北アイルランド国境問題」

2) 離脱賛成派の嘘

離脱賛成派は、離脱しないと大変だ、離脱するとこんなに良いことがあると主張したが、その多くが全くの嘘であった。

その一つが、EUへの拠出金である。

離脱派は拠出金が週3.5億ポンド(約480億円)に達すると主張、与党・保守党のBoris Johnson 前ロンドン市長らが全国を遊説したバスの側面にも、巨額の拠出金を「国民医療サービスの財源しよう」と書かれていた。

実際には、英国に限り、50億ポンドのリベートがすぐに払われる。さらに、EUの政策に基づき、英国に45億ポンドが支出される。このため、ネットでは英国のEUに対する支出は85億ポンド(週当たりでは1.6億ポンド)に過ぎない。

離脱派は選挙直後に間違いであったと認めた。

移民問題でも嘘があった。

政府は移民を10万人以下と公約していたが、2015年の移民は33万人の純増であった。離脱派はこれを引き合いに出し、今後数年で400万流入の可能性 があるとか、トルコがEUに参加し、100万人 が流入するなどのデマを流した。英国がトルコ参加の拒否権を持たないとのデマも流した。

選挙後に、離脱派は「移民がゼロになるわけではなく、少しだけ管理できるようになる」と、「下方修正」した。

しかも、BBCを含めた報道が、誤りを修正せずにそのまま報道した。
BBCは「公平性の原則」を理由に、発言をそのまま報道した。庶民が読む地方紙は賛成派、反対派に分かれ、虚偽の報道をした。

政府は正しい情報を元に国民に是非を判断させるべきだが、これを怠った。

2019/1/21 Brexitの問題の根源

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野太郎 外相の「ごまめの歯ぎしり」の「おすすめの本」(2018/10/5 ) は
Nicholas Shakespeareの "Six Minutes in May : How Churchill unexpectedly became Prime Minister" を取り上げている。
(右上 本の紹介)

イギリスのノルウェー戦線の失敗とそれに続くイギリス議会での議論、そしてその議論がふとした拍子に転換し、議会で投票が行われ、そのわずか6分間を要した投票の結果が、チェンバレンの退陣に結びついていく様子をしつこいぐらい (かなりしつこい)調べて描いています。

面白いのはチャーチルが海軍大臣として主導したノルウェーの戦いで、ドイツがスウェーデンの鉄鉱石をノルウェーの港から出荷するのを防止するため、英軍が魚雷を設置しようとして発生した。

英海軍はドイツに対する勝利を確信していたが、 時間は十分あったのに、全くの準備不足で、ノルウェーの地図さへ用意しておらず、実施が決まってから旅行会社に地図を買いに行ったという。これに対し、ヒットラーは準備万端であった。

今回のドタバタで思い出した。

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