腎臓の再生医療実現に向けた取り組み開始

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慈恵大学・東京慈恵会医科大学、明治大学、バイオス、ポル・メド・テック、大日本住友製薬は4月5日、iPS細胞を用いた「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生医療の2020年代での実現を目標として、共同研究・開発などの取り組みを開始すると発表した。

「胎生臓器ニッチ法」とは、東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科学 横尾教授らの研究成果で、動物の発生段階である胎仔の中で臓器が発生する場所に、別の動物から目的とする臓器の前駆細胞を注入し、臓器に分化誘導する方法。

このたびの腎臓再生には、ヒトiPS細胞から分化誘導したネフロン前駆細胞を、明治大学長嶋比呂志所長・教授らの研究成果である「ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタ」の胎仔から採取した腎原基に注入し、その後、腎原基を患者に移植することによって、臓器ニッチを利用した機能的腎臓の再生を目指すもの

「胎生臓器ニッチ法」はバイオスが、「ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタ」はポル・メド・テックが、それぞれの技術に関わる再生医療ベンチャーとして設立されており 、「胎生臓器ニッチ法」用いた腎臓再生医療の事業化は、5者協力のもと大日本住友製薬が担う。

バイオスの経営陣は、東京大学発再生医療ベンチャーのTESホールディングスの経営陣が中心となって組成された。腎臓再生医療の技術確立において、最先端の研究を行う教授陣との強固なアライアンスを構築している。横尾隆教授の腎臓再生医療に関する「移植用臓器及び臓器構造体」およびその海外出願特許を、バイオスが取得し保有している。

ポル・メド・テックは、明治大学の長嶋比呂志教授が作製した疾患モデルブタなどの研究成果をベースとして、2017年2月に設立されたベンチャー企業。

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腎機能が正常の10-15%以下になると、透析や移植などの腎代替療法が必要で、腎移植や透析療法が必要な末期腎不全患者は世界中で増加傾向にあり、530万人~1050万人と推計される。

しかし、腎臓移植は国内のドナー不足の問題がある。透析関連医療費は一人当たり年間500万円であり、その年間総額は1兆円以上にのぼり、国の医療費増加の一因となってる。
日本では、2017年の腎臓移植希望登録数の約12,500件に対して、腎臓移植例は約1,750件にとどまる。

この様な現状から、慈恵医大腎臓再生グループでは、腎臓を臓器としてまるまる『再生』する腎臓再生に取り組んできた。

ところが腎臓の場合は複雑な構造で、ネフロンという100万個もあるような構造体を作らなければ尿は出ない。こんな複雑な構造体を作るのは難しい。


このため、「胎生臓器ニッチ法」の研究を始めた。

生まれたての子供はみんな腎臓を持っているが、ヒトの場合は子宮の中でわずか2日間くらい でつくられる。

腎臓の元の細胞が腎臓になるタイミングが来たら、精巧なプログラムがその2日間に働いて、そこにある細胞が勝手分化し、どんどんどんどん腎臓になっていく。

豚の胎児が腎臓を作っている最中にその環境を借り、患者から取った幹細胞に腎臓に分化するプログラム を入れ、ヒトの腎臓にして患者に戻す手法である。

具体的手法は以下の通り。

ヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞(腎臓になることが分かっている幹細胞)へ分化誘導する 。

遺伝子改変ブタ 胎仔の膀胱付き腎原基に ネフロン前駆細胞を注入する。

腎原器とは胎児期の腎臓のことで、哺乳類では後腎にあたる。

豚の胎児が腎臓を作っている最中にその環境を借りると、患者から取った幹細胞に腎臓に分化するプログラムが入る。

豚の胎児にもともと備わっているプログラムと場所(ニッチ)を「借りる」ことで、患者由来の細胞から再生腎臓の芽(原基)を作る。

ネフロン前駆細胞 から成長した膀胱付き腎原基を患者に移植し 、臓器初期発生プログラムを遂行させる。

胎児期の膀胱~尿管~後腎組織を一塊として『クロアカ』移植片と呼ぶ。

幹細胞はもうプログラムされているので、取り出しても後は勝手に腎臓になっていく。管が侵入して発育が継続し、正常な腎臓の持つ機能である尿やエリスロポエチンなどのホルモンを産生する。

腎臓に分化するプログラムは元の動物のプログラムのため、所定の大きさになると「そこで止まる」という命令がでる。マウスの場合は小さな腎臓となる。
豚のプログラムを借りると、豚の腎臓の大きさ(ヒトと同じくらいの大きさ)となる。

腎原基を移植した患者に尿路形成術を行い、機能的腎臓を実現 する。

発育した膀胱と 患者の尿管をマイクロサージャリー技術を導入して吻合することで、再生腎臓が産生する尿が 尿管を通じてヒトの膀胱内に持続的に排泄する。


参考資料 慈恵医大横尾教授に聞く「再生腎臓の今、そして未来」

    再生腎臓からの尿排泄に成功 ~臨床応用に向けた大きな一歩~

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