ナイジェリア油田の贈収賄事件

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ナイジェリアの油田の開発権を巡る贈収賄事件で、欧米企業に対する捜査が拡大している。同政府から開発権を得た石油大手の Shell とイタリアのEni、送金に関わった米金融大手JP Morgan Chaseに対する訴訟が英国やイタリアなどで進む。


問題の取引は、Shell とEniが2011年にナイジェリア政府から買い取った油田開発権で、2社は政府に約11億ドルを支払ったが、資金洗浄で有罪判決を受けているDan Etete 元石油相側に送金され、政府関係者に賄賂として支払われた疑いがある。送金にはJP Morganのロンドン支店の口座が使われた。

イタリアの検察は賄賂に使われると知りながら11億ドルを支払ったとして2社とShellの元幹部、Eni のCEOなどを刑事訴追した。
(日経 2019/4/20)

問題となったのは、アフリカ最大の油田の一つとされるOPL245 (Oil Prospecting License 245) である。

source: https://www.petroleum-economist.com/articles/politics-economics/africa/2019/eni-and-shell-face-new-nigeria-action


2011年にShell と Eni が権益を取得し、政府に13億ドルを支払ったが、それ以前に下記のような複雑な経緯があった。

1998 当時のDan Etete 石油相が OPL 245 の権益を20百万ドルで自分が所有する企業 Malabu Oil and Gas に与える。
(Malabuは実際には20百万ドルのうち、2百万ドルしか払っていない)
1999 政権交代
2001 Malabu Oil and Gasは権益の40%をShellに売却。
政府はMalabu Oil and Gasへの権益売却自体を取消し、Malabuは提訴
2002 政府は権益100%を210百万ドルで Shellに売却、生産分与契約を締結。(実際の支払いは1百万ドルだけ)
2006 政府がMalabu Oil and Gasと合意、権益を210百万ドルで渡す、Shellが提訴
2007 Etete元石油相、フランスでMoney-launderingで有罪
2009 Etete の有罪確定
Etete、Shellと会合
2011 ShellとEni、政府と新契約締結、13億ドルを支払い。 (両社から1,092百万ドル、Shellから当初分の207百万ドル)
政府は1,092百万ドル分をMalabu Oil and Gasに対し、契約取消の代償として支払い。


問題は、Malabuへの支払いである。賄賂であると見られた。

2012年にナイジェリア政府のEconomic and Financial Crimes Commission がMalabuの調査を開始した。
2014年にナイジェリア議会が法律違反としてOPL245の取引のキャンセルを議決した。

2013年に英国の Proceeds of Corruption Unit が調査を開始した。

2014年にイタリアのミラノの司法当局がEni のCEOと前CEOを贈賄容疑で調査を開始し、仲介者(ナイジェリア人の Emeka Obi とイタリア人 Gianluca Di Nardo)に渡った195百万ドルを凍結した。

2018年9月、イタリアの裁判所は仲介者2人を懲役4年とし、195百万ドルを没収する判決を下した。

2019年4月、ナイジェリアの裁判所はDan Etete元石油相、Mohammed Adoke 元司法相とEniの部長の逮捕状を出した。 801百万ドルの送金はMohammed Adokeの指示で行われたという。

下記の支払い関係が明らかになった。

Source: https://trwstockbrokers.wordpress.com/2017/12/17/exclusive-malabu-scandal-nigeria-sues-jp-morgan-demands-875-million/

ShellとEniはOPL 245 の権益を50/50で持つが、Shell の支払いが少ないのは、前の契約の207百万ドルと支払済みの開発費535百万ドルがあるため。


Shell とEniは13億ドルのうち、1,092百万ドルをロンドンのJP Morganのナイジェリア政府の口座に振り込んだ。

この1,092百万ドルのうち、801百万ドルはDan Etete 元石油相の Malabu Oil and Gas の口座に振り込まれた。

そのうち、532百万ドルは当時のGoodluck Jonathan大統領の親友で "super-dealer" とされる Abubakar Alyu の会社に 再振り込みされ、大統領や政府首脳に渡った。プライベートジェットや装甲車などの支払いにも充てられた。 元検事総長(2006年に権益をShellからMalabuに移すのを承認)にも10百万ドルが払われた。

EniとShellの幹部にも50百万ドルが渡ったとされる。Eniの役員の自宅に現金で運ばれた。

Dan Etete 元石油相らには269百万ドルが支払われた。

仲介者は頻繁にEniの幹部とコンタクトしていた。

裁判長は、「EniとShellの経営陣は11億ドルの一部がナイジェリア政府要人への賄賂として使われることを十分認識していた」と結論づけた。

イタリアの検察は賄賂に使われると知りながら11億ドルを支払ったとしてShell とEni 及び両社の関係者を刑事訴追した。
訴追されたのは、Eniの現CEO、前CEO及びChief Operations and Technology Officer、Shellの4人の責任者、Shellに雇われた2人のMI 6 元部員。

Shell も Eniも ナイジェリア政府と交渉し決めたものとし、贈賄を否定している。但し、Shellは2009年にEteteと会ったことは認めている。5月にも幹部らが証言する。

Signature bonusとしてはShellから前回分の未払い分相当の207百万ドルを支払いながら、別途1,092百万ドルを両社から支払ったのを、どう説明するのだろうか。契約書等はどうなっているのだろうか?

オランダ検察もShellに対する刑事訴追を準備している。


責任追及は送金取引を扱ったJP Morganにも波及した。同行は2011~13年にかけて801億ドルをDan Etete 元石油相の Malabu Oil and Gas の口座に送金した。
Etete 元石油相は2007年にフランスで資金洗浄の有罪判決を受けており、ナイジェリア政府関係者の指示でJP Morganが2011年にスイスとレバノンの銀行あてに送金した際、2行はコンプライアンス上の懸念などを理由に受け取りを拒否した。
ナイジェリア政府はJP Morganが送金をすべきでなかったと主張、政府資金の不正流出につながったとして同行に875百万ドルの損害賠償を求めた。

JP Moraganは法的及び規制上の義務を順守しているとして賠償請求の棄却を求めたが、英高等法院は2月、同行の要求を退けた。

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