米国の消費者団体は、アップルのApp Storeの独占的な支配とアプリ価格 の30%もの手数料は独占権の行使であり不当であるとする訴訟を行っているが、アップルは消費者団体には原告となる資格がないとして争っている。
状況は下記の通り。
iPhone などでは、アプリケーションソフトはApp Storeからしか追加することができない。
ソフト開発者はアプリケーションソフトを独自に配布することができず、App Storeに申請後、同社の審査を経て登録されるのを待つ必要がある。
アップルは30%もの高額なアプリ手数料(いわゆるアップル税)を徴収している。
グーグルやマイクロソフトはAndroidやWindows Mobileでも同様の配信サービスを提供するが、App Storeと異なりアプリケーションソフトの登録を原則自由化し、厳格な審査は行わない。また、開発者がこれらの配信サービスを利用せず独自にソフトウェアを配布することも妨げていない。
消費者団体は、これらのことから、アップルがApp Store以外でのアプリ配信を認めないことが独禁法違反であり、高額なアプリ手数料(いわゆるアップル税)を徴収していることが独占権の行使だと主張し、提訴した。
これに対し、アップルは「直接の製品購入者だけが独禁法に基づいて損害賠償を請求できる」という1977年の最高裁のイリノイ・ブリック判決(Illinois Brick Co. v. Illinois)を盾に、消費者団体には原告の資格がないと主張した。(同判決については後記)
同社の言い分は次の通り。
アプリの販売者は開発者であって、アップルではない。
アプリの価格を決めて売っているのは開発者である。アップルは単に販売の場を提供しているだけで、手数料はその対価である。
アップルを訴えられるのは、アップルに手数料を払っている開発者だけである。需要家には原告の資格はない。
これについては裁判所で争ったあと、最高裁に送られ、昨年11月末から審議が行われた。
今回最高裁は5対4で、「ユーザー側にも訴える権利はある」と認めた。
リベラル派判事4人の意見に賛同した保守派のBrett Kavanaugh判事は、App Storeの顧客はアップルから直接購入していると考え、イリノイ・ブリック判決に反しないと判断した。
今回の判断はアップルが独禁法に違反しているとするのではなく、単に消費者団体が訴えるのは可能としただけである。最高裁は「原告のアップルに対する独占禁止法違反の事実を査定することも、アップルの他にあるかもしれない防御も考慮していない」としてい る。
しかし、当初は訴訟そのものが成立しないとの見方が主流だったため、影響は決して小さくはな い。アップルがApp Storeのビジネスモデルや手数料の見直しを迫られる可能性が生じたことになる。
原告側弁護士はこれまで、過払いの消費者を代表して数億ドルを求める意向を明らかにしている。
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イリノイ・ブリック判決は連邦法の話である。独禁法違反の損害賠償は直接購入者だけができるとした。
しかし、多くの州が間接的購入者に原告適格を認めるイリノイブリック撤回法を制定している。
カリフォルニア州の場合は、①取引が直接であるか間接であるかに関係なく、被告から損害の3倍の賠償を得る、②司法長官は損害賠償を得るために州を代表して提訴できる、と決めている。
他方、原告適格を厳しく問う州もある。
日本の企業が関係する案件で全く異なる判決があった。
1)パナソニックなどの冷蔵庫コンプレッサの独禁法違反事件
2010年9月、パナソニックは司法省との司法取引に応じ、冷蔵庫コンプレッサを巡る同カルテルに関与したことを認め、4910 万ドルの罰金を支払った 。コンプレッサは冷蔵庫内の温度を低下されるために用いられる必須の部品である。
これに関し、本件部品の直接的購入者及び間接的購入者を代表するクラスアクションが各地裁判所において提起され 、ミシガン州東部地区地裁に統合された。イリノイブリック撤回法を有する25州 はカルテル価格の超過分が冷蔵庫メーカーから流通業者へと次々に転嫁され、最終的には消費者に損害をもたらしたとし、3倍賠償を請求した。
地裁は2013年4月、原告適格 を検討した。
① 市場における原告の地位:消費者は冷蔵庫コンプレッサー市場での消費者でも競争者でもない。
② 被告の違反行為と原告の損害との間の因果関係 :超過分が原告らに辿りつくまで幾つかの段階を経ているため、損害は遠く離れ過ぎている。
③ 損害を配分する複雑さ :損害の配分は多くの複雑性を伴い、また重複的回収の危険性は高い。
④ 直接的な被害者の存在の有無 :直接的購入者らが疑い無く直接的な被害者であ り、も実際に本訴に加わっている。(賠償があれば、ここからもらえばよい)
この結果、間接的購入者たる原告らの多くが原告適格を有さないと判示し、それらの提訴を却下した。
2) ビタミン剤カルテル事件
1999年に武田薬品、エーザイ、第一工業製薬を含む米・スイス・独・日・加の11社に総額9億1050万ドルの罰金が課せられた。Rocheは5億ドルで当時の史上最高で、BASFが225百万ドルであった。
直接購入者からの3倍賠償請求に加え、消費者を代表するカリフォルニア州司法長官からも賠償請求され、総額255百万ドルを支払うことで和解した。
カリフォルニア州への配分は80百万ドルで、うち、38百万ドルが消費者、42百万ドルが流通業者に配分されたが、前者は配分方法が無く、公益のために使われた。
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