2017年1月17日、米公正取引委員会(FTC)はQualcommをスマホ用の半導体の独占で連邦地裁に訴えた。後述の通り、スマートフォン用モデムチップで圧倒的なシェアを持つQualcommが、その地位を背景に端末メーカーに対して不利な契約条件を無理強いしたり、過剰なライセンス料を要求するなど独占禁止法に違反する行為を行っているとした。
この裁判は、カリフォルニア州北部連邦裁判所でLucy Koh 判事が担当し、2019年1月に審理が始まり、間もなく判決が出る。
米司法省の独禁法部門は5月2日、もしQualcommが有罪とされる場合、過度な罰則(remedy)が今後の5Gでの競争で米国が不利になることを懸念し、裁判所に対し、どんな罰則を与えるかについて注意深く考慮するべきだとし、罰則についてヒアリングを行うことを要請した。
過度に広範な罰則は5G技術とそれに依存する川下の利用技術の市場で競争力とイノベーションを下げる恐れがあるとし 、そうなれば、独禁法の罰則の適切な範囲を超えることとなるだけでなく、競争を助けるのではなく、競争を害する明確な可能性があるとする。
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2017年1月17日、米公正取引委員会(FTC)はQualcommをスマホ用の半導体の独占で連邦地裁に訴えた。
スマホ用モデムチップで圧倒的なシェアを持つQualcommが、その地位を背景に端末メーカーに対して不利な契約条件を無理強いしたり、過剰なライセンス料を要求するなど独占禁止法に違反する行為を行っているとした。
Qualcommはスマホの接続に必須の3G、4Gなどの無線通信技術CDMA(符号分割多元接続)の特許を持っている。企業の特許が技術標準として採択される場合、他企業がその特許を使用する時、特許権利者は「公平で、合理的、かつ非差別的」 (FRAND:Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)に協議しなければならないという義務がある。
FTCはQualcommが次の点で独禁法に違反しているとした。
- 特許料を支払わないとライセンスしない("no license, no chips")政策
モデム市場において90%を超えるシェアを確保していながら、何年もの間、CDMA/LTE特許に対して不当に高額なロイヤルティーを課していたことや、優位な取引を行うために半導体チップの出荷を中止するなど
- FRANDに違反し、競合業者にライセンスを拒否
- Appleに対し、Qualcommの競争相手から購入するのを禁止した。
これに対しQualcommは、自分たちのビジネスモデルは違法ではなく、競争と価格低下を招くので消費者のためになると主張している。また、そもそも自社の立場は独占的でないことも強調し、半導体チップの出荷を停止させたことなど一度もないと反論している。
この裁判は、カリフォルニア州北部連邦裁判所でLucy Koh判事が担当し、2019年1月に審理が始まった。
Qualcommは、顧客が同社のモデムチップを選ぶのは最高品質だからであり、ライセンス料をめぐって争っているときでも顧客にプロセッサを提供するのを 止めたことは一度もないと述べている。
1つは、スマホメーカーがQualcommからチップを購入する際、デバイス本体の方でもロイヤリティが課される。Appleは これを double-dipping(二重取り)と表現している。
もう1つは、ライセンス料がデバイスの価格に比例して高くなるということ。ハイエンドモデルでは、モデムチップが占める役割は相対的に小さくなるが、常に一定比率の課金が徴収される。
Lucy Koh判事はQualcommにとって厳しい判断をするのではないかと推量されている。
判事は予備審査時の2018年11月に、FTCからの要請に従い、Qualcommに対し、ライバル企業にモデムチップに不可欠な技術を提供するよう命じる部分略式判決を出した。
判決には以下の記述がある。「モデムチップに関する標準必須特許のライセンスがセルラー通信の標準を順守および実装するためのものであること、さらにはQualcommがモデムチップメーカーに対して不公平な扱いをしてはならない理由を明確に示している」
判事はQualcommに「公平で、合理的、かつ非差別的 (FRAND)」扱いの義務があることを認めている。
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QualcommとFTCは共に和解の選択肢を検討するために判決の延期を求めたが、Koh判事はこの要求を却下した。
業界では判決について、つぎのような可能性を考えている。
Qualcommに対して、同社の「no license, no chips」方針を強制的に廃止させる。
Qualcommに、ライバルの半導体メーカーへのライセンス供与を強制する。
取引の一環としてクロスライセンスを要求することを禁じる可能性、など。
Trump政権はそもそも、訴訟そのものに反対であった。
FTCの訴訟は2017年1月20日のTrump大統領就任の直前に行われ、5人のメンバーのうち唯一共和党の委員は反対した。
Trump大統領就任で共和党員が3人となり、訴訟を取り消すと見られたが、委員長(共和党)が過去の職務との利益相反で投票せず、2:2となり、取り消されなかった。
中国のHuawei が5Gで世界各国に進出するのを政治的圧力で抑えているなか、仮にQualcommが敗訴し、厳しい罰則が課された場合、Qualcommの競争力が弱まり、結果として米国の競争力が弱まるのを懸念し、介入に出たとみられる。
2018/12/11 2019年度米国防権限法(NDAA2019) --- Huawei、ZTE等の米政府機関との取引からの排除
トランプ米大統領は2018年3月12日、シンガポールに本社を置く通信用半導体大手BroadcomによるQualcomm の買収を禁じる命令を出している。
2018/3/14 米大統領、BroadcomによるQualcomm買収禁止命令
2019/3/21 公取委、 クアルコム特許契約の排除命令を取り消し
AppleとQualcommは4月16日、Appleの契約メーカー(Contract manufacturers) との間のものも含めて、すべての訴訟を取り下げることで合意した。
これについてQualcommは5月1日、Appleとの特許紛争の和解により、第3四半期にAppleからキャッシュで45億~47億ドルの支払いを受ける見込みだと発表した。
AT&T、Verizon、Samusung電子等が相次いで5G 対応スマホを発売する中、Qualcommから5Gモデムの供給を受けられないAppleは発売できないでいる。Appleとしては、iPhoneの5G対応を早期に進めるためにも、Qualcommとの和解を急ぐ必要があったとみられ、実質的にQualcommの勝利である。
今回の和解を受け、Qualcommに代わってAppleにモデムを供給しているIntelは同日、5G対応のモデムの開発から撤退すると発表した。
2019/4/18 AppleとQualcomm、知財紛争で全面和解
FTCにとっては、AppleはQualcommの商法の最大の被害者で、訴訟ではAppleの証言を中心にしてきたが、梯子が外された形にな っている。残る「被害者」の大物はHuaweiで、米政権としては応援したくない相手である。
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