中国、米国への反撃開始

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トランプ大統領の攻撃に対する中国の反撃が始まった。

1. 制裁関税

米政権は5月10日午前0時1分、2千億ドル分の中国製品に課す制裁関税を現在の10%から25%に引き上げた。

これを受け、中国は6月1日に 米国からの輸入品に対する税率を引き上げた。

  • 2493品目について関税率を10%から25%に引き上げ。一部機械部品や天然ガス、スキンケア製品など
  • 1078品目については10%から20%に引き上げ。一部機械、光学機器など
  • 974品目については5%から10%に引き上げ。板ガラス、レーザー、制御弁など
  • 595品目については5%の税率を維持。自動車部品は引き続き対象外

これについて、中国国務院関税税則委員会は5月13日に公告を発表している。

2019年6月1日午前0時より、すでに追加関税が実施されている600億ドル分相当のリストに掲載された米国製品の一部について、関税率を25%、20%、10%のいずれかに引き上げることを決定した。
すでに5%の関税が上乗せされている品目については、引き続き5%を上乗せする。

中国が調整を行い追加関税措置を執るのは、米国の一国主義、保護貿易主義への対応だ。中国は、米国が二国間経済貿易交渉の正しい軌道に戻り、中国とともに努力し、中国と向き合って進み、相互尊重を基礎とした互恵ウィンウィンの合意への到達を目指すことを願う。

 2019/5/15 米中、関税引き上げ合戦

トランプ大統領はCameron LNGの出荷開始を祝したが、中国を主たる輸出先の一つとみなしていたLNGの関税も25%に上げられた。

米側は残りの3000億ドル分についても追加関税を課すべく、準備をしている。

しかし、中国の米国からの輸入は残り少しであり、追加関税での報復は出来ない。後述のレアアースや、中国政府が大量に保有する米国債などが噂の対象となっている。

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2. 「信頼できない企業リスト」

中国商務部は5月31日、中国企業の利益を損ねる「信頼できない外国企業等」(不可靠實體のリストを作成する方針を 明らかにした。

現在、世界の経済発展は、不確定要素、不安定要素が増え、一国主義、保護貿易主義が台頭し、多国間貿易体制は深刻な危機に直面しており、正常な国際貿易活動が妨害を受けている。

一部の外国の企業は、非商業的な目的で、正常な市場の規則や契約の精神に反して、中国企業に対して、封じ込み、供給停止及びその他の差別的措置を講じて、中国企業の正当な権益を損ない、中国の国家安全や利益を脅かしているほか、世界の産業チェーン、サプライチェーンの安全をも脅かし、世界経済に打撃をもたらし、関連の企業や消費者の利益を損なっている。

国際貿易規則や多国間貿易体制を守り、一国主義、保護貿易主義に反対し、中国の国家安全、社会の公共利益、企業の合法的権益を守るために、中国政府は「信頼できな い企業リスト」を構築することにした。

非商業目的で、中国の企業等に対して、封じ込みや供給停止またはその他の差別的措置を講じたり、中国企業や関連の産業に対して実質的な損害を与えたり、中国の国家安全を脅かしたり、脅かす可能性のある外国法人、その他の組織、または個人をリストに盛り込む。

リストに載った企業などに対しては必要な措置を取る。詳細は近く発表する。

れについて、商務部安全・管制局は6月1日、「中国政府は、企業等をリストに加えるかどうか決定する際に、4つの要素から総合的に判断する」とした。

(1)企業等が中国の企業等に対する封じ込め、供給停止、およびその他の差別的な措置を講じた行為があったか。
(2)その企業等の行為は非商業的な目的に基づくものか。また、市場規則と契約の精神に反しているか。
(3)その企業等の行為が、中国企業または関連産業に実質的な損害をもたらしているか。
(4)その企業等の行為が中国の国家安全に脅威または潜在的な脅威をもたらしているか。

リストに加えられた企業や個人であっても、リストへの追加後に正当な調査の手続きが実施され、企業や個人には弁明の権利も与えられる。

中国の報道では、リスト作成は5つの意味を持つ。

1) 警告:リストに載った企業は、中国との関係が制限される。

2) 米国への対抗:

米国はHuaweiを対象に、①米国の安全保障にとってリスクのある外国企業の通信機器を米企業が使うことを禁止、②Huaweiに対する米国製ハイテク部品などの事実上の禁輸措置を取った。
米国は他の中国企業も狙っている。これを放置すれば、好き勝手にやられる。米国への対抗策である。    
    2019/5/16 米国、Huawei を対象に2施策

3) 中国企業の保護

4) 第三国企業への警告:米中企業が自国の法律に従うのはやむをえないがとし、関係ない企業が追随するのを警告 
   これについては、英国企業で日本企業(ソフトバンク)子会社のARMを挙げている。
   自国の法律で規制されていないのに、何故Huaweiを差別するのかとしている。

5) 放置すれば、外国の企業が中国から全て出てしまう。


中国商務部の報道官は前日の記者会見で、「中国は米アップル社に何らかの規制を加えて、米国が華為技術(Huawei)を攻撃したことへの報復手段とするのか」との 質問に対し、次のように答えた。

中国は、在中国のすべての外資系企業の合法的権利は中国政府によって保護されると繰り返し強調してきた 。中国は揺るぎなく改革を深化させ、開放を拡大し、さまざまなタイプの企業のために安定した、公平で、透明な、予測可能な世界でも一流のビジネス環境を創出するよう引き続き努力していく 。

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3. 「中米経済貿易協議に関する中国側の立場」白書

中国国務院新聞弁公室は6月2日、中米経済貿易協議の基本状況を全面的に紹介し、中国の中米経済貿易協議に対する政策的な立場を明らかにすることを目的とした「中米経済貿易協議に関する中国側の立場」白書を発表した。

中米経済貿易貿易協議の基本的な状況を包括的に紹介し、中米経済貿易貿易協議に対する中国の政策スタンスを明確にするために、中国政府はこの白書を発表した としている。

内容は次の通り。

中米経済貿易関係は、両国間の外交関係の確立、 両国間の経済貿易関係の発展、協力分野の拡大、そして協力のレベルの継続的改善により、両国にとって有益であるだけでなく、世界全体に利益をもたらす相互利益関係が形成される。

発展段階と経済システムの段階が異なるため、両国は必然的に経済協力と貿易協力に違いと摩擦を抱くことになる。
中米経済貿易関係の発展の過程で、多くのねじれや変化、困難があったが、合理的かつ協力的なやり方で、両国は対話と協議を通して問題を解決し、矛盾を解決し、違いを狭め 、より成熟した関係をつくってきた。

現在の米国政府が2017年に就任して以来、関税の適用やその他の手段を脅かし、しばしば主要な貿易相手国との経済的および貿易的摩擦を引き起こしてい る。

2018年3月以降、米国政府が一方的に開始した中米経済と貿易の摩擦に対応して、中国は国と国民の利益を断固として擁護するために効果的な措置を講じなければな らなかった。
同時に、中国は対話と協議を通じて紛争を解決し、米国との経済および貿易に関する複数回の協議を行い、二国間の経済および貿易関係の安定化に努めるという基本的見地を常に遵守してきた。

中国の態度は一貫して明確である。中米の協力は有益であり、戦いは害を及ぼ す。協力は双方にとって唯一の正しい選択だ。

両国間の経済的・貿易的差異および摩擦に関して、中国は相互に有益で双方にとって好都合な合意を解決し促進するために協力的アプローチを採用することをいとわない。
しかし、中国は戦うことを厭わず、戦うことを恐れず、そして必要ならば戦わなければな らない。

米国の財務省とUSTRは6月3日、これについて共同声明を発表した。

米中貿易交渉の性質と歴史を誤って伝え、責任のなすり合いに持ち込もうとしていることに失望した。

中国の交渉担当者は概ね合意がまとまっていた重要項目を「撤回」した。重要項目には合意履行に関する規定が含まれていた。

われわれが中国側からの詳細かつ履行可能な合意を要求するのは、中国の主権に対する脅威には全くなっていない。むしろ、議論された問題は通商協定に共通するもので、維持することのできない根強い貿易赤字につながっているシステミックな問題への対処に必要だ。

(報道によると、米国側は中国に法律の制定を要求し、内政干渉という中国国内の反発で撤回したという。中国側は調印して初めて「合意」であり、それまでのやり取りに過ぎず、修正はあり得ることとしている。)

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4.レアアース

中国商務部の報道官は5月30日の記者会見で、「中国はレアアースの対米輸出の禁止を検討しているのか」との質問に対し、 以下のように答えた。

中国は世界最大のレアアース材料供給国として、これまでずっと開放、協同、共有の方針を堅持しながらレアアース産業の発展を推進してきた。国内需要へのサービス提供を基礎とした上で、中国は世界各国のレアアース資源に対する正当なニーズに対応したいと考えている 。

しかしながら、いかなる国でも中国から輸出されたレアアースを使用して製造した製品で、中国の発展を押さえ込み、圧力をかけようとするなら、感情的にも理屈的にも受け入れることはできない。

鄧小平元国家主席はかつて、「中東には石油があり、中国にはレアアースがある」(中東有石油、中国有稀土)と述べた。
習近平国家主席は5月20日にレアアースの産地にある江西省の会社を訪れ「レアアースは重要な戦略資源だ」と強調した。

国家発展改革委員会は6月4日、レアアースの専門家と会合を開き、専門家は生産から加工、輸出までの全工程を審査するシステムを設けて輸出管理を強化すべきだと提言し、委員会は提言を盛り込んだ措置を早期に打ち出す方針を示したと報道されている。

中国はレアアースの世界の生産の7割を占め、米国は輸入の8割を中国に依存する。

米商務省はこのほどレアアースに関する報告書を発表した。トランプ大統領が2017年12月に出した大統領令を受けて作成したもの

A Federal Strategy to Ensure Secure and Reliable Supplies of Critical Minerals

ウラン、チタン、レアアース各種を含む鉱物35種類を「米経済と国家安全保障にとって決定的に重要」な鉱物に指定。
現代生活に不可欠なもので、米国への供給が途絶えないよう、連邦政府は前例のない措置を講じる。

「同盟諸国との投資・貿易」を通じた供給改善や、連邦政府所有地など国内での採掘許可の円滑化を含めた措置を勧告。さらに、国内での鉱物探査を促進するため、地図
作成やデータ収集の改善計画も挙げている。

下記について大統領に報告することを求めている。

(i) "a strategy to reduce the Nation's reliance on critical minerals;
(ii) an assessment of progress toward developing critical minerals recycling and reprocessing technologies, and technological alternatives to critical minerals;
(iii) options for accessing and developing critical minerals through investment and trade with our allies and partners;
(iv) a plan to improve the topographic, geologic, and geophysical mapping of the United States and make the resulting data and metadata electronically accessible, to the extent permitted by law and subject to appropriate limitations for purposes of privacy and security, to support private sector mineral exploration of critical minerals; and
(v) recommendations to streamline permitting and review processes related to developing leases; enhancing access to critical mineral resources; and increasing discovery, production, and domestic refining of critical minerals."



但し、レアアースを貿易紛争の手段として使うのは問題である。

2010~11年に領土問題で日中関係が悪化した際、中国は日本に対するレアアースの輸出を制限した。日本企業は調達難に見舞われが、日本企業の「脱レアアース」技術の開発が進んだことにより、需要が急減した。

「世界が1年で必要なレアアースの量は12万トンに過ぎず、非常に少ない量であり、多くの国 が低価格で買い入れて大量に備蓄している」と指摘する学者がいる。

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