ギリシャで6月7日に総選挙の投開票が行われ、圧勝した保守派の新民主主義党(ND)のKyriakos Mitsotakis党首(51)が新首相に就任した。6月8日に就任宣誓式が行われた。
ギリシャの選挙制度では250議席を比例代表制で争い、第1党には50議席のボーナスのほか、得票率が3%に届かなかった少数政党の議席が与えられる。
新民主主義党(ND)は158議席を獲得、全300議席の過半数を獲得し、金融危機後初めて、単独政党の政権が成立した。
新民主主義党(ND)は2012年6月に129議席(50議席加算後)を獲得、民主的左翼(DIMAR)及び全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と連立政権を樹立したが、2015年1月及び9月に急進左派連合(SYRIZA)に敗れた。
今回、単独で政権を獲得した。
なお、2009年に全ギリシャ社会主義運動が当時の政権党の新民主主義党を破り、パパンドレウが首相となったが、パパンドレウ首相が前政権・新民主主義党の粉飾を明らかにしたのが、ギリシャ危機のきっかけとなった。
Mitsotakis党首は、1990年~93年に首相を務めたKonstantinos Mitsotaki の息子で、Harvard University卒、McKinsey & Companyの元コンサルタント。親ビジネスを掲げ、雇用創出と法人税の引き下げや規制改革などを公約に掲げてきた。
これまで与党の急進左派連合(SYRIZA)を率いるAlexis Tsipras前首相は、欧州債務危機に陥った同国で国際債権団による救済後のかじ取りの続投に懸けていたが、実現には至らなかった。
前首相は、ギリシャが金融危機下にあった2015年、反緊縮財政を訴えて熱狂的な支持を集め、政権を奪取した。しかし結局、EUなどからの金融支援の継続と引き換えに、年金カットや増税などの緊縮実行を受け入れた。
このため、与党内で造反の動きが続出し、8月14日の財政改革法案(EU側からの金融支援の条件)では与党から多数の反対が出た。
チプラス首相は8月20日夜にテレビを通じて演説し、辞任して、総選挙を行うと表明した。改めて信任を問うもの。
9月20日に投票、開票が行われ、チプラス首相は信任された。急進左派連合の造反派のうち 25名が離党し結成した新党「民主統一」は全員が落選した。
この時点では、ギリシャ国民はEUの求める緊縮策を受入れ、EU残留を望んだこととなる。
2015/9/24 ギリシャ総選挙でチプラス首相信任
ギリシャは2018年8月に金融支援から脱却し、自主的な再建を進めている。一方で国内総生産(GDP)は危機前の4分の3に縮小し、失業率も依然18%の高水準にある。
このため、国民の不満が高まった。
更に、ギリシャは長年にわたり、隣国マケドニアの国名を巡り争ってきたが、2018年6月12日、両国政府は欧米の仲介で マケドニアの国名を「北マケドニア共和国」に変更することで合意した。ギリシャがEUなどへの加盟反対を取り下げることでも合意した。
これも国民の不満を生んだ。
2019/2/5 「北マケドニア」、NATO加盟へ
新民主主義党(ND)の Mitsotakis党首は、「チプラス政権はマケドニアの国名変更合意を含め、ギリシャに何ももたらさなかった」と批判し、国民の支持を獲得した。
2018年のギリシャのGDP比の公的債務残高は181.1%と高水準で、60%以内に抑えるよう定めたEUの規律からは遠い。
新民主主義党(ND)は法人税減税などの景気刺激策を掲げて勝利したが、財政支出が拡大すれば欧州委と対立する可能性がある。
これは、イタリアなど南欧各国に共通するもので、単一通貨をとりながら財政は別々というEUの制度の欠陥による。どの党が政権をとっても難しい。
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総選挙の推移:
2012/5 選挙前 |
2012/5 選挙 → |
2012/6 再選挙 |
2015/1 選挙 |
2015/8 造反 |
2015/9 選挙 |
2019/7 | 増減 | ||||
民主的左翼(DIMAR) | 0 | 19 | 17 | 0 | 0 | 17 |
緊縮推進 |
ー | -17 | ||
全ギリシャ社会主義運動(PASOK) | 160 (110+50) |
41 | 33 | 13 | 13 | ||||||
新民主主義党(ND) | 82 | 108 (58+50) |
129 (79+50) |
76 | 76 | 75 | 158 (108+50) |
+83 | |||
(連立与党) | (242) | (149) 組閣失敗 |
|||||||||
(連立与党) | (179) | ||||||||||
民衆統一(新党) | ー | ー | ー | ー | 25 | 0 |
SYRIZA離党 反緊縮 |
ー | ー | ||
急進左派連合(SYRIZA) | 13 | 52 | 71 | 149 (99+50) |
124 | 145 (95+50) |
反緊縮財政 | →方針変換 EU緊縮策受入 |
86 | -59 | |
独立ギリシャ人 (ANEL) | 0 | 33 | 20 | 13 | 13 | 10 | 反緊縮財政 (中道右派) 2012年NDから分離 |
ー | -10 | ||
(連立与党) | (162) | (137) | (155) | ||||||||
ギリシャ共産党 (KKE) | 21 | 26 | 12 | 15 | 15 | 15 | EU、NATOからの脱退主張 | 15 | 0 | ||
新党 | Movement for Change (Kinima allagis) |
ー | ー | ー | ー | ー | ー | 22 | 22 | ||
Greek Solution (Elliniki Lyse) | ー | ー | ー | ー | ー | ー | 10 | 10 | |||
MeRA 25 | ー | ー | ー | ー | ー | ー | 9 | 9 | |||
Course of Freedom | ー | ー | ー | ー | ー | ー | 0 | 0 | |||
黄金の夜明け(ΧΑ) | 0 | 21 | 18 | 17 | 17 | 18 | 極右政党 | 0 | -18 | ||
正教民衆集会 | 15 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
河 (Potami) | 0 | 0 | 0 | 17 | 17 | 11 | (新党) 親欧州派、反汚職 | ー | -11 | ||
中道連合 (Enosi Kentroon) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 9 | 0 | -9 | |||
合計 | 291 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 | ±0 |
ギリシャでは議席300人のうち250人が比例代表制で選ばれ、最多議席をとった政党に50議席が追加で与えられる。
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