オクラホマ州地方裁判所は8月26日、処方鎮痛剤などに含まれる麻薬性鎮痛薬オピオイドの中毒蔓延をめぐり、米製薬大手 Johnson & Johnson(J&J)に572百万ドルの制裁金を支払うよう命じた。J&Jは判決直後に、上告の意向を示した。
アメリカでは、オピオイド中毒をめぐり製薬会社や流通業者が何千件と訴追されている 。
オピオイド (Opioid) は、ケシから採取されるアルカロイドや、そこから合成された化合物、また体内に存在する内因性の化合物を指し、鎮痛、陶酔作用がある。
骨折や慢性疼痛、歯科治療で最もよく処方される「ヒドロコドン/アセトアミノフェン配合剤」「オキシコドン/アセトアミノフェン配合剤」「サボキソン」などのオピオイド鎮痛薬は、疼痛管理には非常に効果的だが、常習性があり、また薬剤の高用量の摂取では昏睡、呼吸抑制を引き起こす。
米疾病管理予防センター(CDC)によると、過量服薬による死亡の多くにオピオイドが関与しており、処方箋薬のオピオイドによる死亡は1999年から4倍に増加している。
過去20年で20万人の米国人が死んだオピオイド危機について、トランプ大統領は2017年に public health emergency と呼んだ。
トランプ米大統領と習近平中国・国家主席は2018年12月1日、Buenos Airesで夕食会形式で首脳会談を開 いた。
その席でトランプ大統領は習主席に中国から麻薬(強オピオイド)のFentanyl を輸出しないよう要請、習首席は規制物質とすることに同意した。
トランプ米大統領は8月23日、対中関税の新たな引き上げを発表した が、オピオイド鎮痛薬「Fentanyl 」についても、「習主席が輸出を止めると述べたのに、止まっていない」とし、中国からの流入を阻止するため、宅配大手Fed ExやUPS、ネット通販大手Amazon、米郵政公社に対し配達を拒否するよう指示した。
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原告のオクラホマ州は、J&Jと鎮痛剤OxyContinのメーカーのPurdue Pharma及びイスラエルのTeva Pharmaceuticalの3社を訴えたが、Purdue Pharmaは3月に270百万ドル、Tevaも開廷に先立ち85百万ドルの和解金支払いで合意しており、J&Jだけが残っていた
7週間にわたった今回の陪審なしの裁判では州側の弁護士が、J&Jが何年にもわたって中毒性のある鎮痛剤のリスクを矮小化したマーケティングを展開し、自社利益を追求していたと指摘した。
弁護士はJ&Jをオピオイドの中心(opioid kingpin)だと述べ、J&Jのマーケティングが医師による鎮痛剤の過剰処方につながり、これが公的不法妨害を引き起こし、オクラホマ州での中毒死を急増させたと述べた。
公的不法妨害(public nuisance)は、公衆の健康や公衆道徳を害する行為、あるいは共同社会の利益を害する迷惑行為のすべてを含む英米法の概念。
これに対し、J&Jは不正行為は行っていないと強く反論。マーケティングは科学的根拠に基づいており、「Duragesic」や「Nucynta」といった自社製品はオクラホマ州で処方されたオピオイド系鎮痛剤のほんの一部にすぎないと主張した。その上で、この訴訟はオクラホマ州の公的不法妨害法を「過激に」拡大解釈したものだと批判した。
Thad Balkman裁判長は判決で、J&Jが中毒性の高い処方鎮痛剤について事実誤認につながる形で宣伝し、「公的不法妨害」に寄与したことを、検察が立証したと認定した。
「こうした行為は何千人ものオクラホマ州民の安全と健康を脅かした。オクラホマの住民にとってオピオイド危機は差し迫った危機であり、脅威だ」と説明した。
なお、オクラホマ州と和解したPurdue Pharmaはオピオイド系鎮痛剤OxyContinの販売を巡る他の数千件に上る訴訟について和解を目指し、州司法長官を含む原告側と協議を進めていることを明らかにした。
Purdue Pharmaと同社オーナーのSackler 一族は和解の一環として100億-120億ドルを提示したと報じられている。
New York Times によると、Sackler 一族は同社の所有権を拠出するとともに、自らの30億ドルを拠出するとされる。同社を破産宣告し、"public beneficiary trust"にすることで、会社の利益を被害者に渡すという。
付記
Purdue Pharmaは9月15日、Chapter 11の適用をニューヨーク州の連邦裁判所に申請した。同社は一連の訴訟を巡る和解案の条件に基づいて再編を進めることを目指している。
同社はまた、24州と5つの米領のほか、2000超の市や郡などを代表する弁護士との間で、和解で暫定合意したと明らかにした。20を超える州は依然として和解案に反対している。
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米司法省は7月11日、英国の日用品メーカー Reckitt Benckiser Groupが、元の子会社のオピオイド中毒治療薬Suboxone にからむ問題の解決のため、14億ドルを支払うことで合意したと発表した。
Suboxoneの売上高の没収で647百万ドル、連邦政府と州政府との民事の和解で700百万ドル、FTCとの和解で50百万ドルとなっている。
今回の事件は、Reckitt Benckiser Groupの子会社が、米国が全力で取り組んでいるオピオイド危機を悪用して、利益を得たとされる。
販売手法が問題とされたもので、製品そのものが問題ではない。
訴状によると、同社は 舌下フィルム剤のSuboxone (Suboxone Film) を全国の医師、薬剤師、Medicaid 担当官に、実際には実証されていないのに、他の薬剤と比べて乱用性が少なく、より安全であると称して販売促進を行った。
また、患者に対してインターネットや電話で "Here to Help" と宣伝し、Indivior を売りつけた。法で認められている以上の多くの患者に、高濃度で、認められていないやり方でSuboxoneを処方することが分かっている医師を紹介していた。
また、小児科分野で懸念があるとして、Suboxoneの錠剤をやめると発表した。実際はFDAが錠剤のジェネリック品を承認するのを遅らせるのが目的であった。
この作戦は大成功で、数千人の中毒患者がSuboxone Filmを使用し、その結果、Medicaid programsのコストが増大した。
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