トランプ大統領、「グリーンランド買いたい」

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トランプ米大統領が デンマーク領のグリーンランドの買収について、買収の合法性に加えて、自治政府が存在する島を購入する場合の手続きについて調査するよう周辺に指示した。米紙が報じた。

数週間にわたって買収構想を持ち出しており、周辺は冗談なのか真意を測りかねているという。

米政権は中国が北極政策の一環としてグリーンランドに接近していることに警戒を強めている。国防総省は5月の報告書で、中国が衛星通信施設や空港の改良工事をグリーンランドに提案していると指摘 、軍事転用の可能性を懸念してきた。米国の安全保障に支障が出る可能性も懸念する。

米国は北部のThule に空軍基地を持っている。1951年の冷戦時に建設したもので、レーダーとモニター基地で600人の要員を置き、米国のグローバルな防衛システムの一つである。

グリーンランドの空域を中国が抑えることは、米軍にとって耐えがたいことである。

一部の専門家は、米のチューレ空軍基地が島から追い出されかねないと懸念する。

米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は8月18日のFOXニュースのインタビューで、デンマーク領グリーンランドの買収構想が政権内で浮上していると認めた。

天然資源が豊富な点などをあげて「要衝の地だ」と強調した。ロシアや中国が北極進出を強めていることを念頭にグリーンランド買収は米国の国益と合致するとの見方をにじませた。

1946年に当時のトルーマン大統領もグリーンランド買収に乗り出したと指摘した。トルーマン米大統領が1億ドルで買収をデンマークに打診したが拒否された。

トランプ大統領は9月2、3両日にデンマークを公式訪問し、フレデリクセン首相やマルグレーテ女王と対面する。

グリーンランド自治領政府は16日、声明を発表し「グリーンランドは当然ながら売り物ではない」と表明した。

デンマークのフレデリクセン首相は地元紙の取材に対し、「グリーンランドは売り物ではない。グリーンランドはグリーンランドのもの」「これが本気ではないことを強く望む」とコメントした。

付記

トランプ米大統領は8月20日、デンマークのフレデリクセン首相との会談を延期する意向を明らかにした。グリーンランド購入提案を首相が一蹴したため。

Denmark is a very special country with incredible people, but based on Prime Minister Mette Frederiksen's comments, that she would have no interest in discussing the purchase of Greenland, I will be postponing our meeting scheduled in two weeks for another time.

大統領はツイッターに、グリーンランドに建つトランプタワーの合成写真を載せ、"I promise not to do this to Greenland!" と述べた。

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グリーンランドはデンマークの旧植民地で、1979年5月に自治政府が発足し高度な自治権を獲得した。現在はデンマーク本土、フェロー諸島と対等の立場でデンマーク王国を構成している。

2008年11月、グリーンランドで自治拡大を問う住民投票が行われ、承認され、2009年6月21日に施行された。
公用語をグリーンランド語と明記し、警察と司法、沿岸警備などの権限が中央政府から自治政府に移譲されることとなった。
また、これまで本国と二分していた地下資源収入について、7500万デンマーク・クローネまでを自治政府の取り分として、残りの超過分を本国と折半することが盛り込まれている。

エノクセン首相は「遠くない将来に完全独立が実現することを望む」と語った。

人口は約5万7,000人で、デンマーク人は12%に過ぎず、88%がエスキモー系の先住民族のKalaallit(広義のイヌイット)である。(カナダのイヌイットと区別して呼ばれる。)

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米国が懸念するように、中国はグリーンランドを狙っている。

中国政府は2018年1月、北極海の開発や利用に関する基本政策をまとめた「北極政策白書」を初公表した。北極海を通る航路を「氷上のシルクロード(Polar Silk Road)」と呼び、「一帯一路」と結びつける方針を示した。中国はグリーンランドをPolar Silk Roadの拠点とみなしている。

地球温暖化で船舶の通航や資源開発が容易になった北極海で権益拡大をめざす。

中国は白書で「北極圏に最も近い国の一つ」と位置づけ、経済や環境など幅広い分野で北極の利害関係国だと明示した。「中国はエネルギーの消費大国であり、北極海航路や資源開発は中国経済に大きく影響する」とし、権益確保に向けて積極的に関与する方針を示した。

具体的には「企業が北極海航路のインフラ建設や商業利用に参加することを奨励する」「企業が石油や天然ガス、鉱物資源の開発に参加することを支持する」と白書に盛り込んだ。

北極における持続可能な開発,環境保護といった共通の課題について協力等を促進することを目的とし、1996年のオタワ宣言に基づき、北極圏国8か国によってする「北極評議会」が設立され、議論を行っている。

メンバーは、カナダ,デンマーク,フィンランド,アイスランド,ノルウェー,ロシア,スウェーデン,米国の8カ国で、中国は日本や韓国などとともにオブザーバーとなっている。

中国はグリーンランドをPolar Silk Roadの拠点とみなしている。中国資本が島の主要産業に相次いで出資 している。

1) 資源

グリーンランド南端のKvanefjeldではウラニウムとレアアース(neodymium, dysprosium, and yttrium など)の採掘事業が進んでいる。

2016年に豪州企業のGreenland Mineralsが中国の盛和資源(Shenghe Resources)に12.5%の権利を与えた。2018年8月の覚書により、盛和資源が採掘したレアアースの製造、販売を主導する。

盛和資源は本年1月、中国核工業集団(CNNC)の子会社とレアアースの製造、販売のためのJVを設立した。Kvanefjeld鉱のウランとトリウム(原子番号90)からレアアースを分離する。

Greenland Mineralsと盛和資源は別の子会社 China Nuclear Hua Sheng Mining を設立する。Kvanefjeld鉱のウランとトリウムを中国に送り、中国でレアアースを分離加工する。

この事業については自治政府の野党から環境問題や中国の関与度合いなどに関して疑問が呈されており、実現には時間がかかるとみられている。

北端のCitronen Fjordでは豪州のIronbarkが中国企業とのJVで亜鉛採掘を行っている。

陸上原油・ガス田については、China National Petroleum Corp. (CNPC) とChina National Offshore Oil Corp. (CNOOC) がグリーンランド西部で調査が始まるブロックに関心を示している。

2) 空港整備計画


グリーンランドでは移動や輸送を空路に大きく依存している。島内のほとんどの空港は滑走路が短く、40席足らずのプロペラ機しか飛べない。
現在、国際空港は首都から遠く離れ、人口が500人のKangerlussuaq Airportであり、首都のNuukにはプロペラ機しか降りられない。

そのため自治政府は、推定6億ドルをかけて、大型ジェットが離着陸できる3つの国際空港の新設を検討している。(Nuuk と Ilulissatに新設、Kangerlussuaqの改装)

中国のインフラ大手の中国交通建設 (China Communications Construction Company)が 受注した。

デンマークと米国はこれに反対しているが、多数を占める Kalaallitは賛成している。

デンマーク政府は急遽1億ドル余りを自ら出資すると言い出した。島内に米空軍基地を抱えることから安全保障面で問題視し、米国の警戒にも配慮した。

この受け入れをめぐって政権与党は分裂し、議会は混乱したが、自治政府が最終的に受け入れを決めた 。

2019年6月、中国交通建設は撤退を決めた。

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