サウジアラムコ、東京への上場を再検討

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Wall Street Journal(電子版)は8月29日、サウジアラビアの国営石油会社 Saudi Aramco が、2020年以降に実施する新規株式公開(IPO)で東京市場への上場を再検討していると報じた。


Aramco のIPOは世界の有力市場が誘致競争を繰り広げた。

当初、Aramco は2018年下期にも株式の5%を内外市場で公開する予定で、上場する市場(複数)については、New York、London、Tokyo、Hong Kong などが候補として挙がっていた。
その後、国外上場候補をNew York、London、Hong Kong の3か所に絞り込んだとされ、日本は事実上、選択から外れたとみられていた。

しかし、その後、法的リスクや、海外の取引所が企業に求める情報開示の基準が厳しいことなどを懸念し、先ず自国の証券取引所に限定する方針だと報じられた。

2018/1/11 Saudi Aramco、上場に備え企業形態を変更 

同紙によると、サウジはIPOを国内と国外での2段階で実施することを検討しており、年内にも国内で株式を公開する。2020年か21年に国外市場に上場する予定。

東京が再び候補となったのは、実施を見込んでいたロンドンはBrexitの混乱、香港市場は民衆デモが影響し、魅力が薄れたためである。

ニューヨーク市場は当初、有力上場先として検討対象となったが、米国での訴訟リスクが障壁となっている。

サウジの閣僚とAramco幹部で構成する同社の取締役会が8月の会合で、「Aramcoがいかなる法的措置からも保護される免責特権を与えられない限り」米国での上場は検討しないとの結論に達したとされる。関係筋は、Aramcoに免責特権が与えられることは「完全に不可能ではないが、当然実現し難い」と述べた。

以下の問題がある。

1) テロ支援制裁法

米国では2016年に米同時テロに関与した疑いがある外国政府に遺族らが損害賠償を請求する訴えを起こすことができる「テロ支援者制裁法(JASTA)」が成立した。

米同時テロに関与した外国政府への損害賠償請求を可能にする法案にオバマ大統領が拒否権を発動したことを受け、米上下院は2016年9月28日、上院は 97対1、下院は 348 対77 の賛成多数で再可決し、拒否権を覆して法案は成立した。

2016/10/1 米同時テロ遺族のサウジ提訴法案、大統領拒否権を覆し成立

2018年3月に米国の判事がサウジ政府の要求を却下してサウジ政府を被告とする裁判が開始されることとなった。

サウジ政府が最大株主になるAramcoは、資産差し押さえなどの潜在的なリスクにさらされる。

2018/4/6 サウジ政府を被告とする9.11同時多発テロ訴訟、裁判開始へ

2)  気候変動

ニューヨーク市は2018年1月10日、ExxonMobil、Chevron、BP、Shell、ConocoPhillips の5社を提訴すると発表した。
5社が気候変動の一因となっており、過去及び将来ニューヨーク市に財政的負担を強いるとし、港湾保護、上下水設備の改善、気候変動緩和、公共医療活動等に費やす数十億米ドルの補償を求める。

同市はすでに、海面上昇、強大な嵐、気温上昇対策のために200億米ドル以上を費やしている。

3) 石油生産輸出カルテル禁止(NOPEC)法案

米下院司法委員会は2019年2月7日、石油輸出国機構(OEC)加盟国を反トラスト法違反で提訴することを可能にする「石油生産輸出カルテル禁止(No Oil Producing and Exporting Cartels Act : NOPEC法案)」を全会一致で可決した。同様の法案が上院の財政委員会に提出された。

米国政府がOPEC加盟国をSherman Antitrust Actで訴訟できるというもの。

トランプ米政権の高官はこの時点で、米国の安全保障体制は手頃な価格で手に入るエネルギーに依存しているとした上で、米政府はカルテルを含め、市場をゆがめる慣行を支持しないと表明した。

トランプ氏は大統領就任前の2011年に出版された著書でNOPEC法案を支持する姿勢を示していたが、大統領就任後は支持を表明していない。

これに対し、サウジアラビアは、米国がこの法案を通せば、ドル以外の通貨で売却すると警告していることが分かった。サウジ政府はまた、米国のエネルギー政策を担当する高官にもこの警告を伝達したとされる。そうなると、現在のドル体制が崩れ、米国には大打撃となる。

1971年8月15日、ニクソン大統領は、ドルと金の交換を停止した。

ニクソンはキッシンジャーをサウジに派遣し、以下の交渉を行わせた。
・米はサウジを防衛する。どんな兵器も売る。サウジ王家を未来永劫に保護する。   
・見返り
①サウジの石油販売を全てドル建てにする。
      ②サウジの貿易黒字で米国財務省証券を購入する。

  
サウジはこれを受け入れ、1974年に調印された。
その後、OPECの他のメンバーもドル建て取引を採用し、ドルが世界通貨となった。

これが「ペトロダラー」システムで、これまで金との兌換が必要なため、無制限なドル印刷は出来なかったのに対し、ほぼゼロコストでドルを無制限に印刷し、輸入決済に充てることが出来るようになった。

4) このほか、上場会社になると、Aramco の確認埋蔵量などのデータを公表する必要が出るが、これに対する反発も根強い。


当初の候補であったNew York、London、Hong Kong が外れ、東京が候補として再浮上した。


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